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雨宮塔子のパリ通信 #1 「女性建築家・デザイナー シャルロット・ペリアンの人間力」

今年5月まで「NEWS23」のキャスターを務め、現在はパリに拠点を置く雨宮塔子さん。社会問題、文化、女性の生き方など、様々な情報を発信している雨宮さんがお送りする“パリ通信”。第1回は、建築家・デザイナーとして活動したフランス人女性「シャルロット・ペリアンの人間力」です。

シャルロット・ぺリアンと言ってもピンとこないとしても、空間や素材の新しい捉え方によって20世紀の暮らしのスタイルを創造した、あのル・コルビュジエ(20世紀を代表する建築家で上野の国立西洋美術館本館などを設計)の協働者と言えば聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないだろうか。


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そんなシャルロット・ぺリアンの没後20周年を記念したエキシビションが、パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで開催されている。

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ル・コルビュジエとの共同作品である有名な安楽椅子「グランコンフォール」や背もたれの傾斜が自由に変えられる寝椅子「シェーズロング」といった名品が素晴らしいことは言うまでもないけれど、何より驚いたのがぺリアンの空間に対する研ぎ澄まされた感性だ。

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フォンダシオン ルイ・ヴィトンの広大な敷地内で、“生活空間”として展示されることで、彼女が当時としては掟破りだった「アール・ド・ヴィーヴル」(暮らしの芸術)の探求にいかに心を砕いてきたかがわかる。生活と結びついた現実的、現代的な要求を叶えながらも、同時に芸術への高度な要求をも満たしているのだ。

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彼女が生活空間に持ち込んだ詩的とも言える要素、また伝統への深い洞察力と同時に、素材や空間に対する未来志向は、その時代を生きるデザイナーに大きな影響を与えたのに、自身の名声にはとんと無頓着だったという。偉大な巨匠、コルビュジエと組んだことで、ロダンとカミーユ・クローデルのような微妙な関係性を想像してしまっていたが、そうではない。ただただチームワークを制作の基本スタンスにしてきた故だ。

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建築家、安藤忠雄氏の言葉を借りると、コラボレーションというのはひとりでやり抜くよりももっと難しいそうだ。“周辺の意見に耳を傾け、時には激しく自己主張し合うことがあっても物事をひとつの方向に収束させ、納得して、確信とプライドをもって仕事を進めねばならない。曖昧な妥協は目的を実らせず、かといって強引に主張を通そうとすれば、チームは空中分解してしまう”という趣旨のことを書いている。これは番組の制作現場と同じだ。

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今から90年以上も前の男社会だった建築の世界に飛び込み、巨匠と渡り合い、クリエーターとしての存在を誇示するよりも、みんなでひとつにまとめあげて完璧なものを生み出したいという創造への欲求に終始したぺリアン。インテリアと空間は一体のものだとした彼女は、恐らくすべてのものを俯瞰で捉え、調和させる才にも長けていたのだと思う。このエキシビションは、そんな彼女の人間力をも感じさせてくれるものとなっている。


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雨宮塔子 TOKO AMEMIYA(フリーキャスター・エッセイスト)

’93年成城大学文芸学部卒業後、株式会社東京放送(現TBSテレビ)に入社。「どうぶつ奇想天外!」「チューボーですよ!」の初代アシスタントを務めるほか、情報番組やラジオ番組などでも活躍。’99年3月、6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。単身、フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年7月~’19年5月まで「NEWS23」(TBS)のキャスターを務める。同年9月拠点をパリに戻す。今後は執筆活動の他、現地の情報などを発信していく予定。趣味はアート鑑賞、映画鑑賞、散歩。2児の母。