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雨宮塔子のパリ通信 #2「日本だけではない“#KuToo”」(前編)

「私のオフィスでは、私のようにメガネをかけた私の秘書が、夏になると時々、靴も脱いじゃっていることがあるよ」

―日本では、職場によっては女性がメガネをかけることを禁止している―

先日、日本の複数のメディアが伝えたニュースは世界的な注目を集めたようだ。フランスでも、いち早く反応があり、“Le Point”のサイトニュースに寄せられたのが冒頭のコメントで、私は思わず笑ってしまった。

日本: 職場でメガネをかける権利を求める女性たち
勤務中にヒールの着用を強制されることに反対する活動を起こし、注目されている日本人女性が、今度は女性だけにメガネの着用を禁止する日本企業の規則に反対するため立ち上がった。
                      (Le Point サイトより)

メガネを禁止されるのが女性に限られていて、しかもその理由が“冷たい、あるいは暗い印象を与えるから”とか、“着物にメガネがふさわしくない”といった、なんとも釈然としないものだからこその投稿でもあるけれど、ではフランスには、このような不条理はまったく存在しないのかと言えば、そうではない。

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フランスの労働法の条項L1121ー1によると、雇用主は従業員に特別な医学的理由がない限り、特定の服装を義務付けたり、あるいは禁止したりする権利が認められている。例えば雇用主は顧客と接している従業員に、自分の立場と会社のイメージにふさわしい、きちんとした服装を課し、この差止命令に従わない者を制裁することができる。こう書くとあたりまえの事のようにも思えるけれど、例えば受付係として勤務する多くの女性たちが解雇されるのを恐れて、任務のためにタイトスカートにヒールで高いスツールに腰掛けることを余儀なくされていると聞くと、そこにはやはり必要以上の「女性らしさ」を押し付けようとする性差別的なものを感じる。

また、雇い主側はそれが任務の性質上や企業利益の追求に必要なものなのか、正当な理由を挙げる義務があるのだけれど、その理由がなんともあいまいなものが多いのも、日本と似通っている。

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日本でも #KuToo 運動が広がり、ヒールの着用強制の反対を訴える女性たちが厚生労働省に法律による禁止などを求めた署名を提出した後、根本匠厚労相(当時)のヒールの強制を事実上容認した答弁は大きな関心を持って伝えられ、それはフランス人にニコラ・ソープさんの物語を連想させた。

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日本: 勤務中のハイヒール強制に抗議する請願書
受付係として勤務中のヒール着用を求められたことに不満を抱いていた女優が署名運動を起こしたところ、19000人近い署名が集まった。

                      (Le Parisien サイトより)

2016年の5月、ロンドンの会計事務所で受付係をしていたニコラ・ソープさんは5㎝以上のハイヒールの着用を拒否し、男性の同僚たちは同じ義務を果たさなくていいのかと尋ねたところ、日給なしで帰宅を命じられたそうだ。ソープさんはその後、女性が職場でハイヒールの着用を強制されないよう法改正を求めるオンライン請願を始め、これを機に英国議会は女性従業員の服装規定に関する調査に取りかかったという。

イギリスといえば、礼儀やマナーにうるさい国であることは周知の事実。例えば、ダウニング街(ホワイトホールに位置する街区。いわゆるイギリス首相官邸を指す代名詞)では男性がある程度の衣服の洗練度を必要とされるのと同じように、女性にヒールが必要であるとされるこの国で、こうした流れになったのは大きな意味があると思う。それから3年以上を経た日本で、嘆願が提出された2日後に厚労相が「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」と切り捨てるのとは、向き合う姿勢の重みが違う。

次回も、このテーマをもう少し掘り下げてみたい。


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雨宮塔子 TOKO AMEMIYA(フリーキャスター・エッセイスト)

’93年成城大学文芸学部卒業後、株式会社東京放送(現TBSテレビ)に入社。「どうぶつ奇想天外!」「チューボーですよ!」の初代アシスタントを務めるほか、情報番組やラジオ番組などでも活躍。’99年3月、6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。単身、フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年7月~’19年5月まで「NEWS23」(TBS)のキャスターを務める。同年9月拠点をパリに戻す。今後は執筆活動の他、現地の情報などを発信していく予定。趣味はアート鑑賞、映画鑑賞、散歩。2児の母。