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日本選手権展望①標準記録突破で代表内定が有力な種目

男子100mは9秒台4人、標準記録突破5人の超激戦
男子110mHは標準突破者に加え世界ランキング選手にもチャンス

 6月24日から27日までの4日間、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われる第105回日本選手権。今年は男女34種目が、東京五輪の最終最重要選考会として行われる。世界的にも高いレベルに設定されている五輪参加標準記録を突破している選手が、日本選手権で3位以内に入ればその時点で代表に内定する。屋内で実施される競技と違い気象状況により記録が大きく左右されるため、陸上競技は日本選手権以外での突破も認められる。展望①ではすでに突破者がいる種目、つまり日本選手権で代表内定者が出る可能性が高い種目を紹介していく。

●ハイレベルの100mを勝ち抜くのは?

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 男子100 mは自己記録が9秒台の選手が4人、標準記録(10秒05)突破者5人と史上空前のレベルとなっている。標準記録を突破しているのは以下の5人だ。
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▼男子100m標準記録(10秒05)突破者
山縣亮太   9秒95 2021/6/6
サニブラウン 9秒97 2019/6/7
小池祐貴   9秒98 2019/7/20
桐生祥秀   10秒01 2019/5/19
多田修平   10秒01 2021/6/6
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 標準記録を破っていても、そのうち最低でも2人は3位以内に入れず、個人種目の五輪代表から漏れてしまう。
 リストアップしたのは標準記録適用期間の19年5月以降のタイムで、桐生祥秀(日本生命)が日本人初の9秒台となる9秒98(+1.8)を出したのは17年9月のこと(桐生以外の4人は上記タイムが自己記録)。また、世界陸連が適用期間を外した20年4月~11月の間にケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が10秒03(+1.0)で走っている。ケンブリッジを加えた6人が19年以降に10秒05以内をマークしたスプリンターで、この6人の中から優勝者が生まれるはずだ。
 自己記録が拮抗していれば、そのレースで調子が良い選手が勝つことになる。その点でも今季9秒95(+2.0)の日本新を出した山縣の優位は動かない。シーズンベストでは10秒01(+2.0)の多田修平(住友電工)が続き、桐生も追い風2.6mで参考記録となったが(追い風2.0mまで公認)10秒01で走っている。
 その点、サニブラウン(タンブルウィードTC)は19年世界陸上を最後に1年8カ月もブランクが生じてしまった。今年5月31日の復帰戦は10秒25(+3.6)と、追い風が強かったことを考えると低調だった。だがそうはいっても9秒台で2度走った唯一の日本人選手で、世界陸上では17、19年と2大会連続で100 m準決勝に進んでいる。4週間あればそれなりのレベルに戻してくるだろう。
 小池祐貴(住友電工)は今季はまだ力を出し切ったレースがないが、山縣、多田と同じ布勢スプリントで10秒13(+2.0)では走っている。故障があったわけではなく、何かきっかけをつかめば19年のように、9秒台も十分可能だろう。気象条件に恵まれれば、複数の日本選手が9秒台で走る初めてのレースになる可能性が出てきた。
 勝敗に関して言えば、これだけのメンバーが揃うと、ちょっとしたミスが文字通り命取りになる。五輪代表という選手にとって人生を賭けての大一番は、神経戦の側面も大きくなりそうだ。見ている側も一瞬も気を抜けない戦いが繰り広げられる。

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●男子400mハードルは標準記録突破者4人。復調した岸本にも可能性

 男子100 mに次いで標準記録突破者が多いのが、4人の男子400 mHだ。
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▼男子400mハードル標準記録(48秒90)突破者
黒川和樹 48秒68 2021/5/9
安部孝駿 48秒80 2019/6/29
山内大夢 48秒84 2021/5/9
豊田将樹 48秒87 2021/5/9
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 19歳の黒川和樹(法大2年)がREADY STEADY TOKYO、関東インカレと連勝し、優勝候補筆頭に躍り出た。17年、19年と世界陸上準決勝に進んだ安部孝駿(ヤマダホールディングス)も黙ってはいないだろう。
 日付からわかるように安部以外の3人は、条件にも恵まれたREADY STEADY TOKYOでの突破である。安部はそのレースでは49秒45の4位。4月に故障があったことがその原因だった。日本選手権ではベテランの調整力を発揮するはずだ。
 標準記録突破の4人以外では、ロンドン五輪代表だった岸本鷹幸(富士通)がデンカチャレンジに49秒38で優勝。48秒90の標準記録が視野に入ってきた。岸本が現役最高の48秒41を出した12年日本選手権も、ヤンマースタジアム長居開催だった。仮に岸本が日本選手権で標準記録を破れば、100 mと同様突破者のうち最低でも2人が代表入りを逃す大激戦になる。
 超前半型の黒川が前半をリードするが、安部と岸本も前半から行ける選手。後半型の山内大夢(早大4年)と豊田将樹(富士通)が最後の直線で追い上げる展開が予想できる。

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●標準記録突破3人の男子110mハードルと走幅跳

 男子110 mHと走幅跳も、標準記録突破者が3人と多い。
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▼男子110mハードル標準記録(13秒32)突破者
金井大旺 13秒16 2021/4/29
髙山峻野 13秒25 2019/9/1
泉谷駿介 13秒30 2021/5/20
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▼男子走幅跳標準記録(8m22)突破者
城山正太郎 8m40 2019/8/17
橋岡優輝  8m32 2019/8/17
津波響樹  8m23 2019/8/17
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 110mハードルは4月29日の織田記念で、13秒16(+1.7)の日本新をマークした金井大旺(ミズノ)が一歩リードしている。五輪本番でも決勝進出が可能なほどレベルが高い記録である。泉谷駿介(順大4年)も織田記念で0.17秒つけられた金井との差を、READY STEADY TOKYOでは0.05秒差と縮め、関東インカレで13秒30(+0.8)と標準記録(13秒32)を突破した。
 19年世界陸上で国外日本最高の13秒32(+0.4)をマークした髙山峻野(ゼンリン)が、故障明けの影響もあってシーズンベストは13秒45(-0.8)。13秒35(+0.3)の村竹ラシッド(順大2年)と、13秒42(+0.3)の石川周平(富士通)がシーズンベストでは髙山を上回っている。
 村竹と石川の2人が日本選手権で標準記録を破ることは十分あり得るし、世界ランキングでも2人はこの種目の出場人数枠(40人)圏内にいる。日本選手権での内定は出ないかもしれないが、3位に入れば7月2日以降の2次発表で代表に選ばれる可能性がある。
 それに対して走幅跳は標準記録突破の3人以外が、世界ランキングで出場人数枠(32人)に入るのは難しい状況。3人が上位独占ができなかった場合でも、2次発表で代表入りできる可能性が大きい。
 優勝は橋岡優輝(富士通)が最有力。READY STEADY TOKYOで8m07(+1.8)、デンカチャレンジで8m23(+1.3)と好調で、8m40の日本記録更新も期待できる。

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●代表選手が同士が激突する女子5000mに萩谷が割って入るか?

 女子5000mはすでに代表を決めている田中希実(豊田自動織機TC)、10000m代表の新谷仁美(積水化学)と廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)の代表内定3選手が標準記録を破っている。
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▼女子5000m標準記録(15分10秒00)突破者
田中希実  15分00秒01 2019/10/5
廣中璃梨佳 15分05秒40 2019/12/7
新谷仁美  15分07秒02 2020/2/23
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 だが田中は今大会では1500mでの代表狙いを最優先し、5000mと同じ日に行われる800 m決勝に出場する可能性もある。ベストコンディションでの出場は難しいかもしれない。新谷も6月初めの時点では日本選手権出場を決めていなかった。日本新で10000m代表を決めたときほど万全ではない。3人の中では5000mを「本命」と位置づける廣中が、良い状態を作ってきそうだ。
 萩谷楓(エディオン)も代表入りへの思いが強い。昨年の適用期間外に15分05秒78と標準記録(15分10秒00)を上回るタイムを出した。今年のREADY STEADY TOKYOでも廣中、新谷を抑え、15分11秒84で日本人トップを取ったが、フィニッシュ後に悔しそうな表情を見せたのが印象的だった。
 すでに出場人数枠(42人)を超える45人が、1国3人カウントでも標準記録突破者で埋まっている。萩谷が代表入りにするには日本選手権で標準記録を突破するしか道はない。廣中も新谷もスローペースを好まないので、可能性は十分ある。
 男子200 mはサニブラウンと小池の2人が標準記録を突破している。
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▼男子200m標準記録(20秒24)突破者
サニブラウン 20秒08 2019/6/7
小池祐貴   20秒24 2019/7/21
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 だが五輪本番で200 m、100 m、4×100 mリレーを兼ねるとハードスケジュールとなることから、ダブルスタート(2種目出場)には決勝進出レベルの記録を出す条件が付けられている。サニブラウンは自身の状態次第で200 mを狙ってくるかもしれないが、小池は100 mに力を注ぐ予定だ。
 それに対し飯塚翔太(ミズノ)は200 mがメイン種目。山下潤(ANA)と2人が世界ランキングで、出場人数枠(56人)の圏内にいる。飯塚は日本選手権で標準記録を突破するつもりだが、気象条件に記録を阻まれても3位以内に入れば、2次発表で代表に入る可能性は高い。
 男子3000m障害は三浦龍司(順大2年)、女子やり投は北口榛花(JAL)と、この2種目は標準記録突破者が1人しかいない。
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▼男子3000m障害標準記録(8分22秒00)突破者
三浦龍司 8分17秒46 2021/5/9
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▼女子やり投標準記録(64m00)突破者
北口榛花 66m00 2019/10/27
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 女子やり投は日本選手権で他の選手が標準記録を突破したり、世界ランキングで出場人数枠内に入っても、それが3人以上になる可能性は低い。4位以下でも北口の代表入りが2次発表時に決まる可能性が高い。
 それに対して男子3000m障害は世界ランキングで山口浩勢(愛三工業)、塩尻和也(富士通)、青木涼真(Honda)の3人が出場人数枠に入っている。三浦は日本選手権3位以内に入って確実に代表入りを決めたい。
 もっとも、今季の三浦は本当に強い。調子が上がらなかった織田記念は終盤で塩尻を逆転して日本人トップを確保し、READY STEADY TOKYOでは自らペースメイクし、かつ猛烈なラストスパートをして山口に5秒近い差をつけた。アクシデントでもない限り、3位以内には間違いなく入りそうだ。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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