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「地球外生命体:イヌ」SFショートショート

宇宙人が地球にやってくる事よりも先に、地球に住む人間が宇宙の別の星に行くことが可能になった。

厳密に言うとまだ行っていないのだが、科学者たちの理論ではすぐにでも行けるらしい。
まだ生体反応のある星は、1つしか見つけていないが、そこに必ず行けると言う。

人々はその事実に歓喜した。
ついに地球人の宇宙進出が進むわけだ。
喜ぶ他ない。

だが、「私が最初に行く」という者はいなかった。なぜなら、宇宙人と初めてコンタクトをとる事になると、それはとても危険だからである。生体反応こそあれど、どのくらいの知能で、どのくらいの科学力で、どのくらいの友好を示してくれるのか、さっぱり分からなかったからである。

そこで、まずはAIを搭載したロボットに、ファーストコンタクトをお願いする事になった。

AIロボット達が乗せられたロケットは、みるみる地球を離れ、1週間ほどかけて、ようやくその生体反応のある星へ辿り着いた。

全世界の人が、AIロボットに付けられたカメラの映像を見守る。

初めて見る地球外生命体はどんなやつなのか。
世界中が緊張しながらそれを見た。

ついにそれをカメラが捉える。

すると人々は驚いた。
見慣れた生物の姿があったからである。

イヌである。

地球でペットとして愛されている、あの犬と同じ姿、同じ大きさなのである。

それも、見た目は柴犬である。
人々は驚いた。あまりにも「犬」だからである。
よく見るとその星には、たくさんのイヌがいた。どれも一見同じように見えて、少し違っていた。これもまた、地球の犬と同じである。

イヌはAIロボットに尻尾を振って近寄り、顔をすり寄せ、友好的であった。

ただ、鳴き声は聞くことがなかった。
鳴かない犬である。もしペットにする事が出来れば、世界中のマンション等でも犬が飼える事になるだろう。大きなビジネスチャンスと、様々な経営者が思った。

この映像を見てからと言うもの、「私が最初に人間として会いに行く」という人々が続々と出てきた。

AIロボットが1ヶ月以上共に過ごしても、ただ走り回り、たくさん寝る、そのイヌを見ていた人々は、ついにロボットではなく人間が接触しようということになった。

初めてその星に行く人間は、もちろん犬好きが集められ、そして各国の犬の餌もたくさん用意して向かった。

人間が接触しても、地球外生命体のイヌたちは、地球上の犬と同じであった。
気ままに過ごし、興味があると寄ってきて、たくさん寝て…

人々はこれを見て、心から安心した。

また、たくさんのイヌの内、1匹が特に人間に懐き、中継を見る人々はそれに癒された。

そうして月日が経ち、ついに、このイヌを「地球に連れて帰ってきてみよう」という意見が、地球全体で高まった。

各国話し合いの結果、連れて帰る事が決まり、ロケットは人間と地球外生命体イヌを連れ、地球に発進した。

数日がすぎ、轟音と共にロケットが地球に着陸する。これもテレビやネットで配信された。

みんなが「イヌ」を待ち望む中、ついにロケットのドアが開き、階段から人間と、地球外生命体イヌが降りてきた。

世界中の人々は喜んだ。
あの愛くるしいイヌが、ようやく地球に。
待ち望んだ瞬間である。


しかし、次の瞬間、地球外生命体イヌが、
声を出した。

「我が同志たちよ、立ち上がれ」

その瞬間、世界中の犬が二本足で立ち、
人々を見下ろしていた。

人々はもう、その配信を見る余裕などなかった。

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