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【一寸先は闇】WEB制作、動画編集志望者はワーキングプアの世界に夢を見ている、という話

元WEBデザイナーが、デザインの仕事についてつらつらと書いていきます。今回はWEB制作、動画編集志望者は、時間と労力とお金をかけてワーキングプアに向かっていないか?という事について語ります。職業訓練、スクールで学んでいる人、就活中の人、フリーランスを目指している人に読んでいただければ幸いです。


サクセスストーリーのほとんどは「広告」

SNS界隈でWEB制作や動画編集といった、クリエイティブ系職の「実務未経験からのサクセスストーリー」を良く見かけますが、その情報発信の目的はビジネスであり、語られている内容は「広告」です。そのほとんどは人助けのために発信されているわけではありません。

サクセスストーリーもいろいろ見比べてみると「定型」がある事がわかります。その話が事実に基づくものであるか、実態が伴っているかという証拠を見せない、あるいはフェイクを掲載しているというのも共通しています。

そのような情報を発信している人達は、誰かが作った「商材を売るためのノウハウ」を実践しているだけにすぎません。デザインを勉強しているのならば、その情報の「目的は何か」「ターゲットは誰か」を分析してみると良いでしょう。

クラウドソーシングに期待しすぎ

企業ガバナンス、コンプライアンスがしっかりしている企業ほど、クラウドソーシング、フリーランス(個人事業主)への仕事の発注に対して慎重になるところが多いです。

そのような企業はコンペを開催することはあっても、レギュラー案件、中~長期のプロジェクト案件を、クラウドソーシングを利用してフリーランサーに発注する事は稀です。

クラウドソーシングで仕事を発注している層は小規模な企業、個人事業主、企業であれば特に起業して間もないベンチャー、スタートアップが多い傾向があります。リソースが不足しているが人件費を掛けられない、制作会社に発注できる予算もないので、安値で仕事を発注できるクラウドソーシングを積極的に活用しているという事のようです。

スモールビジネスの利点の一つに、小規模組織であるが故の意思決定の速さがあります。しかしこれが裏目に出ると「朝礼暮改」「ビルド アンド スクラップ」になる事があります。結果としてプロジェクト進行中の突然の大幅な仕様変更、あるいはプロジェクトそのものが消滅、という事態にフリーランサーが巻き込まれることになります。

このように「クライアントの事情」に振り回されることが、クラウドソーシングでは頻繁に起こります。時に会社員とは比較にならないほどに、依頼主の都合に振り回される事もあります。

また、クラウドソーシングに掲載されている案件の中には、個人情報の収集、クリエイターの労働力の搾取をもくろむ、「悪意ある案件」も存在しています。

クラウドソーシングのサイトを見て「なんだ、仕事たくさんあるじゃないか!」と安直に考えずに、冷静にその中身を見てみましょう。よくよく見ると、依頼主の質、仕事の質は決して高くはない事がわかると思います。

さらにその「質も金額も低い仕事」をフリーランサー同士で奪い合いをしているという状況であることも、心に留めておきましょう。

時給換算100円の世界へようこそ!

世界中でヒットを飛ばした「ゴジラ‐1.0」ですが、アメリカでは高額な制作費用に対して中身はつまらい、と評価される昨今のハリウッド映画との比較で、「安い制作費用、高いクオリティ&エンターテインメント性」が高く評価されている部分もあるようです。

一方国内では「制作費が安い=質の高い映像を作れるクリエイターが安い給料で働かされている」とみなされているようで、「制作費」の部分についてはネガティブな意見が多く見られます。本当に制作スタッフが薄給なのかどうかはわかりませんが、そのような解釈をされる土壌が日本国内のクリエイティブの現場にはある、という事がうかがえます。

映像制作の世界は撮影、編集技術のデジタル化、スマートフォンの動画撮影機能の普及と品質向上、YouTube、Tiktok等の浸透で、敷居も参入障壁も以前とは比べものにならない位に下がりました。

専門性の高い映像制作の現場でも、フィルムを使っていたアナログ時代から動画編集の仕事は「薄給、激務」であることはクリエイティブ業界の間では良く知られていましたが、上記のような昨今の事情で、その単価はこれ以上下がりようがない位に下落してしまっています。

実際にクラウドソーシング等で動画編集の仕事を請負っている人達の話を聞くと、案件単価が低すぎてかかる時間と労力に対して利益が少ない、時給換算で100円程度の稼ぎにしかならない、という事例も出ているようです。

動画編集の作業は、尺次第で長時間の作業を強いられることもあります。また、作業効率を上げても作業時間の短縮には物理的に限界があります。さらに、「クリエイティブな仕事」を期待して請け負ってみたら「単純作業」だった、という期待外れも起こります。

「Premire Proの操作方法覚えました!」「簡単な編集作業ができるようになりました!」等々の軽い気持ち、誰でもできるスキル水準で動画編集の仕事に飛びついてしまうと、最悪の場合、時給換算100円を切る事もあるかもしれません。

「簡単にできる」「私にもできそう」な仕事に付加価値があると思うのかい?

「簡単にできる」「私にもできそう」、そう思ってWEB制作、動画編集の仕事にチャレンジしようと考える人、コロナ禍以降さらに増加したようです。

「誰でも簡単にできる」という事は「あなただけが特別」というわけではなく、条件さえそろえば本当に誰でもできる事、なわけです。

それは将来あなたと競合するであろう人達、すでにあなたと競合している人達も、あなたと同等の事ができるし、仕事を依頼してくるお客様さえも、やろうと思えば同程度の事ができてしまう事を意味します。

「誰でも簡単にできる」領域で仕事をしている限り、周囲の競合する人達との差別化など図れるわけもなく、付加価値が生まれるはずもありません。付加価値がつかないのであれば、当然ながら仕事の単価も上がりません。

夢を見るなとは言わないが、本気で目指すなら相応の実力と覚悟が必要

クリエイティブ業界は志望者の大多数が想像しているような、甘くキラキラした世界ではありませんし、誰でも簡単にできる仕事はクリエイティブの仕事の工程のほんの一部、下流工程の中の単純作業程度でしかありません。

迂闊に飛び込んでしまうと、理想と現実のギャップに悩まされ、心を摩耗して壊れしまったり、多大な時間と労力をかけて仕事をしても、時給換算するとアルバイトをやっていた方がマシと言えるような金額しか得られない、などという事も起こり得ます。

それでもクリエイティブの世界に飛び込みたいのであれば、クリエイティブの上流を目指せるだけの実力を養う、競合する他者との差別化が図れるサービスを考える等々、努力と工夫、何があっても業界で生き残る覚悟&しぶとさを持って挑みましょう。


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