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保護者会で話した「高学年の発達段階」

4月の冒頭に保護者会がありました(「学級懇談会」と言う地域もあるそうですね)。
ところで年度最初の保護者会ではよく「○年生の発達段階について」といった説明をする場面がありませんか?
あれってだいたい教員がどこかから拾ってきたテンプレートのような説明文だとか、その学校で代々同じ文面が使われてきたものだとか…で、内容が少し古かったり、「それって何か裏づけあるの?」と思っちゃうような説明があったりするなあ、と前々から思っておりました。

今回、私が教育心理学を学んでいたことから、学年主任の先生がこの部分を任せてくださったので、思い切っていろんな情報を詰め込んでみました、
保護者の方の中には熱心にメモをとってくださった方もいらして、ありがたかったです。

スライドの一部をシェアしますので、よろしければ参考になさってください。

まず保護者の方にお話ししたのは、これからお話しする内容は当然個人差がある、ということです。
お子さんによっては4年生ごろからすでにそうだ、という場合もあるでしょうし、5年生や6年生あるいは中学生になってから顕著になってくる場合もあるかと思います。
ただいずれにせよ、10代または思春期の入り口の子供はこういう傾向があると研究で明らかになっている内容だと理解していただければと思います。


①抽象的な思考ができるように

有名なピアジェ(Piaget)の発達理論によると、だいだい10歳あたりから子どもの思考は「具体的操作期」→「形式的操作期」へと移行すると言われております。
「具体的操作期」とは、目に見える具体的な物事を基に思考する時期ですが、「形式的操作期」は目に見えない抽象的な物事も頭の中で思い描いて思考できるようになるということです。

スライドには「友情とは」「自分とは」とありますが、まさに「目に見えない」抽象的な概念ですね。
もちろん、どの子もそんなにはっきり哲学的に考えるわけではないかもしれませんが、例えば「えっ、、、友達だと思ってたのに、、、」「自分ってなんか違うな、、、」といったように、なんとなく抽象的な概念について考えるようになるということです。

したがってこれまで大人に「こうあるべき」と言われていて、なんとなく従っていたことも、「いや、まてよ?」と考えられるようになり、大人の言うことが絶対的ではなくなります。
大人からすれば、少々「理屈っぽく」感じるようになるのもこの時期ですね。

②他者の視点に気づくように

目に見えない抽象的なものの代表格が「人の心」です。
人の心についても考えられるようになってくると、「他人の行動の意図を考えて思い悩む」「自分と他者の考えは必ずしも一致しないことに気付いて悩む」といったことも経験するようになります。
そのため人とかかわっていくことの難しさを感じるようになったり、他人からどう思われているのか気になったりするようになります。

③友達関係の変化

こうしたことがあいまって、友達関係にも変化が起きます。
中学年くらいまでは、いわゆる「ギャング・グループ」と呼ばれる、表面的な共通点でつながる仲間関係が主流です。「表面的な共通点」とは、同じスポーツをしているだとか、同じゲームが好きだとか言った、目に見える形の共通点です。
しかし、思春期に差し掛かると、さきほどから言っているように「目に見えない」ことまで考えられるようになるため、表面的な共通点だけでなく、同じような好みや価値観など、内面的な共通点からつながっていく関係も生まれます。こういった仲間関係を「チャム・グループ」と呼びます。

内面的につながっているということは、相手から嫌われてしまうと内面的につながれなくなるということになりますから、相手に嫌われないように同調行動をとりやすくなります。
一方で、自分の考えもしっかりと出来上がってくる時期ですから、友達と意見が合わなかったときなどに、「自分の主張」と「嫌われたくない思い」の狭間で葛藤することにもなります。

④自尊心が不安定に

9~12歳では自尊心が低下しやすいという研究もあります。
他者の視点を考えられるようになったことで、自分の未熟なところや弱いところも自分の目にすべて映るようになり、自己に厳しくなるためだと言われています。
また周囲の評価で自尊心が大きく左右されがちなのもこの時期です。
時には部分的なマイナス面だけで自己評価全体が低下してしまうこともあります。
したがって我々大人は、一部だけに目を向けるのではなく、もっとプラス面や全体に目を向けられるようにサポートしていくことが必要となります。

⑤感情のコントロールの難しさ

さて、思春期と言えばやはり「反抗期」「キレる」などと言われるように、感情が不安定になりがちなイメージがあるかと思います。
実はこれは、思春期には「脳」そのものが変化しているからだということが明らかになっています。

脳の下の方、奥の方に「扁桃体(へんとうたい)」という部分があります。
ここは「怒り」「歓喜」「恐怖」など強い感情を司っている部分です。

普段はこの扁桃体を、脳の表面、前側(おでこ付近)にある「前頭前野(ぜんとうぜんや)」が抑え込んでいます。
前頭前野は理性を司るところで、感情をコントロールする働きをもっています。

ところが思春期は、性ホルモンの影響から、扁桃体の活動が活発になっています。
では、前頭前野は?というと、これがあまり発達していないのです。

実は、人間の脳と言うのは、「後ろの方から(奥の方から)前の方(表面の方)へ」という順序で発達します。
図は、脳の発達を色で示したものです。青ければ青いほど発達しているということです。一番右が20歳の脳、左が5歳の脳です。
これを見ると、脳の前側(〇をした部分)は、一番最後に完成していくことがわかります。
実は前頭前野は25歳くらいまでかけてゆっくりとゆっくりと発達していくそうなのです。
ということは、思春期は感情を抑制する前頭前野はまだまだ発達していないのに、感情をつかさどる扁桃体は活発に活動してしまう時期。
だからこそ感情が不安定になったり、爆発してしまったりするのです。

ということで、思春期はそもそも感情コントロールが難しい時期なのです。
脳がそのような状態だから仕方ないと言えます。
でも仕方ないからと言ってそれを放置していると、さまざまな問題が起きかねません。
そこでどうすればよいかというと、我々大人が、前頭前野の代わりになってあげるということになります。

前頭前野がどのように感情をコントロールしているかというと、「言語」によって抑制していると言われています。

つまり、
「あ、今このことにイライラしているな」
「なぐりたくなっているな」
「でもなぐったらこんな問題になるな」
「だから今はとりあえずこの場を離れよう」

といったように、
自分の感情や欲求を認識し、結果を予想し、代わりの行動を考える、これらすべてを脳内でぶつぶつ独り言のように言うことによってコントロールしているわけです。

ところが思春期の子供の中には、自分の感情をうまく言語化できない子供もいます。モヤモヤして気持ちを言語化できなかったり、いつも「うざい」や「〇ね」といった偏った表現しか持っていない場合も少なくありません。

そこで、「いま、こんな気持ち?」「これに対してイライラしているんじゃない?」といった、言語化のサポートを我々がしてあげるのも方法の一つです。(あまり決めつけのように言ったりしつこく言ったりすると逆効果になるのが難しいですが…)

まとめ

思春期と言うのは、以上のような脳の発達によってさまざまな不安定さがもたらされる時期です。
ですが、自分自身も思春期をふり返って思うように、「思春期だからこそ経験できること」「あの時期に悩んだからこそ今に生きていること」があるはずです。
だからこそ、子ども達が思春期を上手に乗り越えて、その経験を後の人生に活かせるように、ご家庭と連携してサポートしていけたらと思います。といった言葉で締めくくりました。

参考文献


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