見出し画像

6.1. リサーチクエスチョンへの応答

第1章(1.1.1.)で示したリサーチクエスチョンは,
「2010年代の若手社会人がなぜ『茶道団体』の活動を行うのか」
「彼らの活動は茶道(修練者)史にどう位置づけられうるか」
「彼らはどのように『伝統』や流派と共存しているのか」
の3つであった。

これらの問いに対し,ここまでのデータと分析から述べられる範囲の結論は,以下の通りである。

なぜ「茶道団体」の活動を行うのか

まず本稿のインフォーマントは,自身の主催する茶会や茶道教室で,従来の茶道教室」や「茶会」の問題点の解決を試みている。

その解決策が他の茶道修練者には目新しく映り,「茶道団体」やその代表者の独創性を表すといった循環も完成していた。


ある茶会や活動を評価する基準は,一貫してインフォーマント本人が楽しいと感じるか否かである。

このとき議論されているのは必ず,「どの流派」の茶会かではなく,「誰の」茶会なのかだった。


「もう一回あの人のお茶」といった,茶会の亭主がその人である必要」が感じられる茶会こそ魅力的であるという前提を,本稿のインフォーマントは共有していた。


各「茶道団体」の茶会では,流派の特色よりもその代表者ごとのカラーが現れていることからも,彼らの価値観は一貫している。


なぜ「茶道団体」だったのか

このように「その人である必要」を重視する一方で,彼らは個人ではなく「団体」の形態をとって活動していた。
その理由として,「個人対流派」といった直接的な二項対立を緩衝する目的がまず挙げられる。

また,本稿に登場する「茶道団体」の例を見ても,個人名よりも団体名の方が一人歩きしやすい。
目新しさやSNSの活用も相まって,「茶道団体」やその代表者の知名度が増してくるのだ。


すると団体名を脱ぎ捨て,個人名(本名)で活動するインフォーマントも現れる。

団体から始まり,「個」へと立ち戻ってくるのである。


なぜ2010年代の社会人にその傾向があったのか

「茶道団体」の活動を始めるより前から,多くのインフォーマントが会社生活に不満を抱えていた。
「自分の時間」が取れない,「自分の人生」を生きている気がしない等の,会社以外の時間への欲求も聞かれる。


転職や退職などでその環境を変えようと試みる人もいる一方,会社勤めと並行して,茶道教室を副業として始める人も少なからず見受けられる。

彼らは「やりたいこと」をしながら生活することが,「自分の人生」であるという認識を持っているからだ。

従来では,「茶道」を仕事にする方途は茶道の教授者など伝統的な茶道関連の職に限られていた。

しかし本稿のお茶「専業」のインフォーマントの場合は,茶道教室の運営に留まらない。
茶会やワークショップを催したり,それに付随して取材を受けたりするなど,自身の運営する茶道教室以外からも収益を得るようになっていく。


こうして「お茶」が単なる趣味以上の存在になり,会社員という働き方にも影響を及ぼすようになる。

そこには,2010年代という時代性も垣間見られた。


「伝統」と「今ここにいる自分」

茶道教室での教授内容以外のことをする「茶道団体」は,流派の「茶道」と一見対立しているように見える。

確かに「茶道団体」の代表の「伝統」観は,「『伝統』や先人は越えるための土台である」,「『伝統』は可変的であり,個性を加えてもよい」,「今,ここに生きている自分は,『伝統』より確かな存在である」といった独特なものである。


この「伝統」観にも強く表れている「自分中心性」は,彼らの職業観に見られた「自分の時間」や「自分の人生」への渇望にも共通していた。

そのために彼らの茶会は,「私」が前面に出ている。
しかしその「個」の強さこそが,「お茶」が仕事に繋がるほど,彼らの活躍の場を広げた


流派と「茶道団体」を横断する

「茶道団体」の活動が市民権を得るにつれ,流派側との関係性も変化しつつある。
流派から「茶道団体」側への歩み寄りも観測された。

歴史的にも茶道の存続は流派単体で行われてきたのではない。

むしろ,禅寺や財閥,女学校といった流派外部でのお茶は,家元の茶道と交互,もしくは同時代的に隆盛し,補完し合っている。


肝要なのは,「対立」という軸で両者を捉えないことだ。


片方を肯定することは,もう一方を否定することではない。

同様に,片方を否定することで,もう一方を肯定する賞賛の仕方も,もう手放すべきだ。



この点に関して,次頁に全てを詰め込んだ。

*****
←前の項目 5.3. 小括:「働き方」と「自分の人生」 

修論目次

→次の項目 6.2. 結びに代えて
*****

初めまして、Teaist(ティーイスト)です。 noteまたはSNSのフォローをしていただけると嬉しいです🍵 Instagram https://www.instagram.com/teaist12/ Twitter https://twitter.com/amnjrn