専門家の知識は誰のため?

上記のイベントで,作家であり料理家の樋口直哉さんが話されていた以下の言葉について,少しだけ。

「料理=素材×調理×調味」

一度「〇〇の人」と記憶されると,「あなたにとって〇〇とは」と質問されるようになる。納得感もしくは意外性を与える返事を期待されている。

ただ,理解や共感を得るには,まずもって相手を置いてけぼりにしないことが重要だ。
「〇〇は〇〇でしょ」と思っている相手と自分との距離を縮めるために必要なのが,理論や科学であり,上述のような「納得感のある」方程式なのだと思う。

例えば「お茶(茶道)は生き方です」と答えたとしよう。地球上の70億人にとって茶道は生き方ではないので,納得感は与えない。つまり,誰もついてこられない解答だ。

ただしそこが「精神性」なのか,お茶とは何か訊かれたら,スピリチュアルな解答をしてしまいがちだ。自分の毎日を彩るもの,人生の大半を占めるものを,いくらビッグワードで表現しても足らないのはわかる。

だからこそ,樋口さんの「料理とは」の解答で特徴的なのは,ビッグワードを使ってしまうような重々しさがなかったことだ。

むしろ仰々しさなどなくとも,「料理=素材×調理×調味」といった解答や,各レシピに添えられる圧倒的な裏付けは,料理人ではない人にも納得感を与える。(その裏付けは,「添えられている」どころか,レシピを「読む」際の醍醐味だとも思う。)

何のための知識か

社会学者のブルデューが日常生活の必要性から遠いものほど高尚な文化だと言ったように,生活に馴染みすぎず人々から距離を取ったほうが,立派なことをしていると思われやすい。(実際には「意味わからん」と思われてるだけかもしれなくても。)

しかし専門家の知識は,自分のしていることの深遠さを表現するためにあるのではなく,非専門家の誰かを置いてけぼりにしないためにある

いかにミニマルな言葉で表現できるか,その裏にどれだけの理論があるか。そのストイックさは,非専門家を遠ざけるどころか,むしろ専門家との距離を近づけるものだった。

納得感のあるお茶をすること

そんな樋口さんがオススメされていた,非接触型の温度計を早速購入した。茶碗による温度変化など実験しつつ,自分自身がまず理解できることを増やして,「意味わかる」お茶をしていきたい。

そして「お茶は生き方」以外の言葉で,今していることが,まず自分にとって腑に落ちるといいなと思う。

(私も「お茶は生き方」よりさらにややこしい言葉で説明していた時期がありました笑)


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これも「お茶」だと言い続ける

毎日点てるお茶,茶人の修士論文,バーチャルろくろ。バラバラに見える活動に共通していたのは,ある主張でした。
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