見出し画像

【#12】まとめ(前編)-燕三条の成功要因と、それを支える6つの資本の存在

「燕三条のサステナブル経営と文化資本」では、私たちTeam想が2021年10月~22年3月に社会人経営大学院の卒業研究で取り組んだ論文内容をベースに再編集し、今まで#1~#11にかけてnoteにて記事化してきました。

そして今回#12では、その総括の前編として、燕三条が地域産業クラスターとして成功をおさめた要因はなんだったのか、そして、その礎として、どのような「6つ資本」が存在しているのかをまとめていきたいと思います。

燕三条の地域産業クラスターの成功要因は?

過去の記事において、地域産業クラスターを構成する枠組み(フレームワーク)を定義しました。
フレームワークでは、地域の先天的要素(気候・地形・食・歴史など)を土台として、
A:地域エコシステム
B:BtoBとBtoCの関係性
C:地域ブランド
D:職人

が地域産業クラスターを特徴付ける4要素であると定義し、
それぞれの要素について、燕三条においてはどのような取組がなされてきたのかの深堀り・検証をすすめてきました。

地域産業クラスターのフレームワーク

詳細については過去の各記事に言及されていますが、4要素の検証結果をまとめてみたのが、下の図となります。

地域産業クラスターの4要素についての燕三条の取り組み内容の検証結果

上の図の記述内容で、主に「青字」で書かれた箇所と「赤字」で書かれた箇所が共通要素として浮かび上がります。

まず「青字」部分ですが

  • 主軸産業の変遷・急激な環境変化に対する柔軟かつ高度な対応

  • B2BとB2Cの共存による環境変化への柔軟対応・リスクヘッジ

  • 地域としての危機感の早期共有と迅速な行動

といった内容に要約されます。
この内容からさらに要約すると、燕三条地域の成功要因の一つ目として、

①忍耐強く危機を乗り越え、外からの学びを積極的に取り入れつつ、変化に対応することで、事業の転換を成し遂げられた

と言えるのではないでしょうか。

また、「赤字」部分ですが、

  • 同業者間の連携を変化・進化・組み換え

  • 産学官連携による情報交換・支援プラットフォームの存在

  • 地域住民・移住者・観光客の相乗効果、地域全体の一体感

  • B2B、B2Cの相乗効果

  • 地域ブランドによる地域の人たちの巻き込み

  • 職人育成での産学官の自発的・有機的連携

といった内容に要約されます。
同様にさらに要約すると、燕三条地域の成功要因の二つ目として、

②地域があたかも一つの企業体であるかのような一体感と、多様性の共存により、相互連携して活動している

と言えるのではないでしょうか。


燕三条の地域産業クラスターにおける6つの資本とは?

それではこれらの成功要因を支えるものとして、燕三条においてはどのような資本が存在するのでしょうか?

私たちは、地域の経営者、政治家、地域住民の皆様へのインタビューや文献調査を通じて、燕三条には、サステナブル経営を支える「6つの資本」が、一企業におけるサステナブル経営と同様に存在していると確信しました。

①財務資本
国際統合フレームワークにおいては
「組織が製品を生産し、サービスを提供する際に利用可能な資金」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における財務資本

②知的資本
国際統合フレームワークにおいては
「特許、著作権、ソフトウェア、権利及びライセンスなどの知的財産権」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における知的資本

③製造資本
国際統合フレームワークにおいては
「製品の生産又はサービス提供に当たって組織が利用できる製造物」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における製造資本

④社会関係資本
国際統合フレームワークにおいては
「個々のコミュニティ、 ステークホルダー・グループ、その他のネ ットワーク間又はそれら内部の機関や関係、及び個別的・集合的幸福を高めるため に情報を共有する能力」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における社会関係資本

⑤人的資本
国際統合フレームワークにおいては
「人々の能力、経験及びイノベーションへの意欲」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における人的資本

⑥自然資本
国際統合フレームワークにおいては
「組織の過去、現在、将来の成功の基礎となる物・サービスを提供する全ての再生可能及び再生不可能な環境資源及びプロセス」
と定義されていますが、燕三条においては、下記であると考えています。

燕三条における自然資本

以上のように、国際統合報告フレームワークによる定義に合致した6つの資本の内容が、産業クラスターレベルでもちゃんと存在することが今回明らかとなりました。
 
また、特徴的なのは、燕三条においては、他の資本と比較して、社会関係資本に合致する地域の取り組みの事例内容が、非常に多く存在することがわかりました。これは、地域産業クラスターを構成する各企業体の連携を円滑にするためには、この社会関係資本の存在が重要な役割を果たしていると考えられます。

燕三条の取り組み要素と6つの資本との関係性

ここでは燕三条の成功要因を支える、産業クラスターの各要素の取り組み(先天的要素+後天的要素)と、影響を受ける「6つの資本」との関係性を表にしてみました。

燕三条の取り組み要素と6つの資本との関係性

上記のような一覧表にしてみて、改めて認識できたのは、産業クラスターの各要素の取り組みは、複数の資本から影響を受ける構造にあります。
6つの資本が網羅的に地域に存在することが、地域産業クラスターの営みを成功に導くカギであることが、ここからもわかります。

また、中小企業の個社単位ではなく、産地型産業クラスター全体で俯瞰したからこそ、6つの資本との関係性の構造がはじめて明らかになったと言えます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。
この記事では、燕三条の地域産業クラスターの成功要因と、それを支える6つの資本の存在と関係性について述べてきました。

そして、いよいよ#13が最終記事、そして、クライマックスとなります。
#13では、6つの資本では説明できない、燕三条の成功要因の形成に影響を与え・蓄積されている別の要素:文化資本の存在に迫っていきたいと思います。

Team想 髙橋佳希


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?