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古いやり方、新しいやり方…どっちが優先?

以前、オープンした数か月後に担当することになった焼き鳥やさんがありました。その頃は開店はしたもののなかなか売り上げが伸びずに悩んでいらっしゃった。

売り上げが伸びない原因は話を聞いたらすぐに分かった…宣伝をしていないので町内の人がそのお店の存在を知らないのだ。何せライバルとなる町内の飲食店さんすらこの店の存在を知らなかったのです。

店舗の立地は田舎の住宅街のど真ん中。近隣に事業所はなくベッドタウンと都市部を結ぶ通勤道路の途中でもない。しかし、近くに私鉄の駅があり近隣に住む人が利用(といっても大人子供含め1日当たりの乗降客は100人程度だが)しているので会社帰りのサラリーマンには利用しやすい環境にありました。

店主は盛んに「これからはネットの時代だから宣伝はSNSだけで十分」と月に1、2回の更新をするのみ。こちらが何かアイデアを提案する前に「ウチは金がないから宣伝に金はかけられない」の一点張り。

「オープン前にチラシ配布とか新聞の折り込み広告とかやったんですか?」と聞くと「今はネットの時代だからそんなのはお金がかかる割に効果がない。だからやってない。」という。「効果がないってなんで分かるんです?」と聞くと「そんな古いやり方は今は流行らない。」と。

これは順序だてて話をしないと理解してもらえないな…と、話を切り出した。

「今のお客さんは近所の人が多いですか?」「地元ではあまり知られてないので昔からの知人、その人からの口コミのお客さんが多いのでちょっと離れた場所のお客さんが多いです。」

「あら~、失礼ですけどそれだと商売というよりほぼ『趣味』の領域ですね(苦笑)」「確かにおっしゃる通りですが今SNSで店の紹介を定期的にしているので徐々にお客さんは増えてくると思います。」

「やはりこういう立地からしても今後メインのお客さんは地元の人を想定しているのですか?」「ええ。飲み屋ですから車で来る人は少ないし、歩いて帰れるか家族にすぐに迎えに来てくれるかの方になりますから。おまけにウチは駅が近いから通勤をされて帰宅する方が『帰りにちょっと』っていうのはあると思うんです。」

「これだけの田舎の地元の人で『あ~、今日は近所に飲みに行くか』って人が『さ~て、どこに飲みに行こうかな?』ってSNSで飲食店を検索します?」「ん~…」

「多分頭の中に数軒すでに候補があってその中からその日の気分でチョイスすると思うんです。」「確かに…」

「だからその『数軒』として頭に浮かんでもらわなきゃいけないんです。だからとにかくここにあることを『知ってもらう』必要があるんです。」「どうすればいいんですか?」

「新聞の折込はお金がかかるし、私個人的にも新聞の折込はパッと見てホームセンターの広告以外全く見ませんからあまり効率は悪いと思います。一軒一軒チラシを配ったらどうです?」「えっ、何軒くらい配ればいいです。」

「この町全軒…といいたいところですが、この一帯は何軒くらい家があるのですか?」「う~ん、分からないなぁ…」

「じゃあ、とりあえず200軒配ってください。」「ええ~、そんな時間内ですよ。妻と二人でやっているので仕入れや仕込みがありますし…」

「いっぺんに配る必要はありません。1日10軒だけ配っても20日で全部配れるじゃないですか。話は変わりますが、駅前とかでティッシュ配ってるじゃないですか。あれって100個配って何人くらいお客さんになるか知ってます?」「30人くらいですか?」

「(笑)…100個配って1人来れば御の字だって言われてます。」「じゃあ、やっても無駄じゃないですか?」

「私はリピーター的なお客さんを増やすためには現状では最良の方法だと思います。それと今お話しした近所へのチラシのポスティング以外にもう一つやってほしいことがあります…それは町内の事業所さん全部にチラシを持って社長さんを訪ねて挨拶に行ってください。」「何でですか?」

「こういう田舎で定期的に飲みに行く人って経営者の方が多いんです。さらに人付き合いが多いのでそこらじゅうで話をしてくれる。田舎で飲むところは数軒しかないから既存の飲み屋に飽きてる人も多いから『ためしに覗いてみるか…』って人が絶対いるはず。」「なるほど。」

こんなお話をさせてもらいましたが、このお客さんは結局この後数ヶ月は何もしませんでした(笑)

理由は「チラシの印刷をお願いするのにお金がかかる」…この言い訳に「印刷会社に頼む必要はないって言ったじゃないですか。手で書いてコンビニでコピーして配ればいいじゃないですか。」「そんないい加減なものじゃ誰も見てくれない。」「詳しい店の料理とかを知ってもらわなくてもいいんです。とりあえずはここに焼き鳥屋があることを知ってもらえばいいんです。店の名前と場所、営業時間と定休日だけでかく書いておいてくれればいいんです。」

その後もなんだかんだ理由をつけて配らないことの正当性を私に論じていた店主ですが、いつも隣で聞いていた奥様が「何もしないよりは…」とご主人を唆してくれて毎日ちょっとずつとりあえず200枚配ったそうです。意外にも反応早め、量多めで近所の方が来てくれるようになったようで「こんなことならもっと早くやっておけばよかった」と。まぁ、人は慣れていないことはなかなかやりたがりませんから。

しかし、町内の事業所回りは営業に慣れていないせいか恥ずかしいようで私が担当していた期間には実施してもらえず…私が何軒もの事業所さんに事前に「最近あそこに焼き鳥屋ができたんだけど今度店主に町内の社長達に挨拶回りするように言ってあるから顔出したら使ってやってよ」って根回ししておいたのも無駄になったようです(笑)

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