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トヨタの自動車事業は別事業で積み上げた特許の売却資金が元手になった、というスタートアップのピボットに通じる話

先日、ソニー創業期の話を書いたが、日本大企業シリーズ第二弾はトヨタの話を。

世界トップの自動車メーカーとして名高いトヨタ自動車。最近ではソフトバンクと組んでMaaS(Mobility as a Service)に本格参入するなど、IT分野にも大きな影響を与えています。

そんなトヨタですが、実は創業当時の主力ビジネスは自動車ではなく織物機の製造・販売(豊田自動織機)。

「織物機で大きな成功を収めていたトヨタが自動車ビジネスに参入するにあたり、実は織物機に関する特許が大きな役割を果たしていた」という、スタートアップのピボットにも通じる特許の使い方の話を書いていこうと思います。

トヨタ産業技術記念館に行ってきた

年明けの帰省ついでに、名古屋にある「トヨタ産業技術記念館」に行ってきました。

トヨタの創業期を支えた「織物機」と現在のトヨタの主力事業「自動車」について、実際の製品や資料(会議の議事録など)が展示されており、特に織物機については、歴代の織物機を展示スタッフの実演付きで確認することができます。

説明員さんの説明を聞いていると、「人間が操作するとこんなに大変」「自動化したらこんな問題が起こった」「なので、次の製品ではこのように改良した」という話が繰り返し出てきて、まさに「トヨタの課題解決の歴史」を辿るような展示でした。

トヨタ自動車の歴史は「自動織物機の特許の譲渡」から始まった

織物機の展示に続いては、トヨタの自動車に関する展示が始まります。その入り口に飾られていたのは、それまで見てきた「自動織物機の事業で積み重ねてきた特許の譲渡契約書」でした。

展示の説明

豊田自動織機製作所はプラット社(当時世界の織物機のトップにいたイギリスの会社)に対し、日本・中国・アメリカを除くすべての国において豊田式の自動織機を独占的に製作・販売することができる権利を与え、その対価として10万ポンド(当時の貨幣換算で100万円)の特許権譲渡料を受け取る
この際、思い切って自動車製造に当たらねば永久に手を着ける事は出来ないと考え、思い切ってその製作に取り掛かったのが昭和8(1938)年9月1日である。

自動車事業に急いで参入したかったトヨタは、当時主力事業だった自動織物機の海外ビジネスの権利と引き換えに資金を獲得し、そのお金で自動車ビジネスへの本格的な参入を開始したのです。

スタートアップがピボットするときにも使える戦略ではないか

これ、何がおもしろいかというと、事業分野をピボットするときにも使える考え方だということです。

ウェブサービスを始めたものの、別の事業分野にピボットしたいというのはよくある話かと思います。そこで、それまでやってきた事業で積み上げたものを資産化する1つの方法として、特許が使えるという1つの事例なのです。

最近はスタートアップのExitとして大手IT起業に会社ごと売却という形もメジャーな選択肢になっていますが、それを少しライトにした形として「サービスを通じて得た知見を特許の形で権利化」して、それを売却したりライセンスしたりということができるのです。

特許をお金にする方法は実はけっこう自由度がある

特許をお金にするときの選択肢はいくつかパターンがあるので、例をあげながら解説していきます。

・最初に大きくキャッシュを確保したい場合には、特許権を売却して一括(あるいは短期で)全額を受け取る。
・逆に継続的にキャッシュを確保したい場合には、特許権は持ったまま他社にライセンスする形で収入を得る

という2つの選択肢があります。トヨタの場合は、その折衷案のような形で

・既存事業を主力地域(日米中)でキープして継続的な収入を確保
・他の地域では特許権を売却してキャッシュを獲得

という形にしています。

この判断は、その時々のキャッシュフローであったり、新しいビジネスに参入するタイミングだったり、いろいろ考慮して総合的に考える必要があります。

ウェブサービスの中には、俗に「何年か早すぎた」と言われるものもあります。ユーザーの行動習慣だったり、通信環境や他サービスも含めた環境だったり、事業がうまくいくタイミングに当たるにはいろんな要因があります。

仮に早すぎる参入をしてしまった場合に、

・ただ粛々と撤退するのではなく
・「早すぎたなりにチャレンジして得た知見を特許にしておく」と、
・いつか思わぬ形でお金になり、新しいチャレンジがしやすくなる

ということもあります。

研究開発の結果として取得した特許(知財)を使った「IPビジネス」が最近注目(ソフトバンクが3兆円で買収したARMもそうです)されてますが、その辺は別途解説記事でも書こうかなと思っています。

(参考:2019年2月6日に公開された記事)

※エンタメコンテンツの業界でも「IPビジネス」という言葉がありますが、こちらはキャラクタービジネスなどの話になります。

日本のモノづくり企業の過去の取り組みはやはり参考になる

前回のSONY記事でも最後に同じことを書きましたが、「日本の大手モノづくり企業がかつて世界を席巻したのには理由があって」「それをいま掘り起こすのはITサービスの発展に繋がる」とやっぱり思っています。

なので、米中のIT先行事例を調べるときと同じくらい、日本の昔の話を調べるときはけっこうワクワクしているのです。さて、次はどの日本企業を見に行きましょうか。

おまけ:参考書籍

トヨタが自動織物機から自動車事業に拡大していった経緯を詳しく知りたい方は下記書籍がおススメです。


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テクノ大仏(『技術広報の森』編集長)

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