境界のない世界のバーチャル風俗嬢Karin(Karin 聞き手:あしやまひろこ/女装と思想 Vol.9)

筆者紹介

Karin  
バーチャルXTuberとしてデビューするものの、XTubeから動画を削除されたため、バーチャルAV女優・風俗嬢に転向。
FC2動画アダルト、FC2ライブアダルトやバーチャル風俗宿での活動のかたわら、テクノロジーによる気軽なTSをテーマに真面目な話をしたり、執筆活動をしている。
最近は中国インターネットでもVTuber活動中。
Twitter: @vxtuberkarin 
FC2動画アダルト: 「バーチャルXtuber・Karin」
 https://video.fc2.com/a/account/18285337
FC2ライブアダルト:「バーチャルAV女優Karin」
 https://live.fc2.com/78516049
YouTube: 「AVTuber Karin Channel」
 https://www.youtube.com/channel/UCVC5HsBChltYjuCeySIFAmg
bbilibili: 「卡琳Official」
 https://space.bilibili.com/314745561

あしやまひろこ
1990年神奈川県生まれ。会社員兼個人事業主。2018年4月から、放送大学大学院人文学プログラム(文化人類学)に在学。筑波大学 人文学類 哲学主専攻 宗教学コース卒業。表現、パフォーマンス、地域振興などの研究と実践がライフワーク。代表作品として「ゆかり温泉」、「女子大生10号」、「Color Girl」、「バ美肉フレグランス」、研究業績としては足利市や沼津市におけるコンテンツを用いた地域振興の実地調査に基づく動向研究(本名の五十嵐大悟名義)など。
 Web: http://www.hirokotb.com Twitter: @hiroko_TB
 E-mail: hirokoas@ジーメール(ジーメールをGmail.comに置換してください)

リード文

(『女装と思想』Vol.9 pp.16-27 より一部修正の上転載)

もしも、人々が自由に性別を移動することができたらどうなるのだろうか。当然として在った男女の境界が無くなるとしたら? この問いはもしかすると、バーチャルAV女優/バーチャル風俗嬢Karin――彼女もしくは彼――が行う営みによって紐解かれるのかもしれない。
「裸の女性は、社会を映した鏡である」。これはノンフィクションライターの中村淳彦が一貫して伝えている言葉である。それと同時に、彼はその著書『図解 日本の性風俗』(2016 メディアックス)の中で、男性は「簡単に価値がみとめられる」売りもの、すなわち女性の肉体としての裸を持っていないとも述べている。
これがバーチャルな女装によって覆るとしたら、我々は認識を改めないといけないのかもしれない。本インタビューでは、おそらく世界初のバーチャルAV女優/バーチャル風俗嬢として活動する、Karin氏にインタビューを行った。

バーチャルAV女優Karinとは?
Karinさんは、YouTube(2度BANののち復活)や、FC2ライブアダルト、ビリビリ動画等で活動するVTuber。AV女優の名の通り、AV女優的な活動をしている。なお、いわゆるバ美肉(バーチャルな世界で美少女として振る舞う男性)の一種。

VRSEX体験会とは?
Karinさんの所属する「肉体と性別に囚われないVR風俗宿Sweet+」が主催したVR技術を用いた、性風俗体験会。Sweet+は事業化を目指しており、その実地試験として2回実施された(2019年8月現在)。
VR撮影アプリ「Clarie」を用いて、バーチャル空間上で、風俗嬢と体験者が性行為を行った。勿論VR機器を通してのコミュニケーションのため、リアルでの接触は行われていない。

VRSEX体験会の一場面(例)

VRSEX体験者の部屋の様子(例)

はじめに

あしやま 今回は、おそらく世界初のバーチャルAV女優兼バーチャル風俗嬢のKarinさんをお招きして、どのような思いで活動なされているのかをインタビューしたいと思います。私は、先日はKarinさんのバーチャル風俗を体験しましたが、とても臨場感があってびっくりしました。VR性風俗は現実の代替にしかならないのではないかと思っていたのですが、相手のキャラクタに魂のようなものがあると、現実と同じかそれ以上の満足感はあるのではないかと思います。

Karin そう仰っていただけるとありがたいです。私も気持ちよかったです。

あしやま こちらこそありがとうございました。サービスについても語りたいところですが、今回はKarinさんの思いについてお聞きしていきたいと思います。

バーチャル風俗嬢になって、女性を理解する

あしやま 単刀直入にお話を伺いたいのですが、なぜバーチャルAV女優であったり、バーチャル風俗嬢をやってみようと思われたのですか?

Karin 女性を理解してみたい、というのが一番です。そのため、一番極端なことをやってみようと考えました。男性ができなくて女性しかできないことは何か、女性的なこととは何かということを考えました。ずっと前からTSF(注:transsexual fiction/fantasyの略。 異性への性転換を扱うフィクション作品のこと)がすごく好きだったのですが、自分自身は、性別についてはどっちでも良いのではないかなという心境ではあります。私は女性的なロールの方に適性があると思っているので、そっちをやりたい気持ちはあるのですが。そもそも男性としての自分自身の責任の所在としても、相手の女性の立ち位置を経験しておくべきだろうと思います。相手の性別がどのような体験をしているか分からない、つまり、人類の五〇パーセントと本音で分かり合えないのは本当に悲しいと思っています。私の活動は、そこを知るための活動と言えるのかもしれないです。私自身の場合、仮想世界やVRで女子になるということは目的ではなくて手段なんです。その先のことを見たいんですね。

あしやま AV女優であったり風俗嬢のロールを演じているのは、個人的な性癖なのかと思っていたのですが、そうでないというのが驚きと同時に興味深いです。女装者の場合、男性と体を重ねる時は、女装姿で犯されている自分というものに興奮しているケースがあります。そのため、Karinさんも女性として性的な行為を行っているところに興奮を感じているのかと思っていました。

Karin シチュエーション的な意味での興奮は無いですね。体を売ってみることで、美味しいところだけじゃないところまで理解してみようと思いました。それも含めて美味しいと言われてしまったらどうしようもないのですが。活動している中で、性行為そのものに抵抗感はあまり感じていないのですが、ただ単純に力仕事として重労働だなと身体で感じるところはあります。

あしやま なるほど。自分自身が女装をしている時は、一見すると女性を理解しているように思われることもあるのですが、本当のところは理解できていないと感じていますし、私自身は女性を理解することには主眼を置いていないので対極的ですね。本シリーズの第一巻に水の人美さんが女装の類型を示していたのですが、女性の立場を分かりたくて女装をしているというものはありませんし、私自身もそのように考える方に出会ったのは初めてかもしれません。とても新鮮で勉強になります。

Karin 誰にだって、どの様な才能があるかはやってみないと分からないと思います。もしかしたら、その人の中には異性の身体でこそ輝く才能があるのかもしれないですし。だからこそ、生まれながらに持っている性別という非対称性による諍いについては、もしも本当に相手の性別を体験できることができたとしたら、無理解による争いはなくなると思うのですよね。相手のことを知らないのに、知ったようなことを言うというのは、良くないと思っています。相手の立ち位置を知らないのに、それに対して接したり会話したりしないとならない……理解できないこと自体が辛いんだと感じています。

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