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口いっぱいの御馳走

(本記事は今から10年位前にmixiに掲載した記事の再編集版になります)

昨今の爬虫類飼育ブームで、愛好家の手によって様々なトカゲの飼育が試みられている。

日本ではイグアナやアゴヒゲトカゲなどの比較的おとなしいトカゲが受けているようだが、アメリカではその荒々しい立ち振る舞いからオオトカゲの類が人気の様子。

流石に個人でコモドドラゴンを飼育しようとする猛者は居ないようだが(そもそも絶滅危惧種IAに分類されているコモドドラゴンを個人で飼育するのは不可能なのだが)、全長1.5mに届くナイルオオトカゲや、アメリカ特産の大型トカゲ類であるテグートカゲなどは結構愛好家が多いようである。

これらのトカゲは肉食動物なので、必然的に餌として小動物が必要になってくる。ナイルオオトカゲ辺りは死んだ動物でも慣らせば文句を言わず食べてくれるようだが(野生下では都会から出る生ゴミも食べたりするそうだ)、生粋のハンターであるテグートカゲではそうも行かない。果然、生きたヒヨコやネズミを用意しなければならない。

さて、YouTubeではそうした爬虫類愛好家による餌付け動画が多数公開されている。
それらの動画を見ていて、気が付いた事がある。

トカゲの類はごく一部を除き、獲物を細かく千切って食べると言う芸当が出来ない。
仕留めた獲物はほぼ確実に丸呑みにしてしまう。

…然し、大多数の愛好家はそれが経済的に効率が良いのか、それとも動画にした際の派手な演出を求めての事なのか、トカゲが丸呑みできるサイズよりも遥かに大きなネズミやウサギを与えているケースが多いのである。

当然、飢えたトカゲはその獲物を攻撃し、殺して食べる訳だが…此処で問題が生じる。
一時に飲み込む事が出来ず、さりとて獲物を飲み込み易いサイズに引き裂く事も出来ず、獲物がぐにゃぐにゃになるまで幾度も噛み付き、或いは何度も何度も地面に叩きつけ、時には水槽のカドに力任せに押し付けたりもして…四苦八苦してやっと嚥下するのである。
しかも獲物を飲み込んだ後はかなり消耗するらしく、ぐったりとおとなしくなってしまうケースが多い。

飼育下だから良いものの、野生下ではこれは命取りである。もたもた獲物を飲み込んでいる隙を狙って、他のより大きな捕食者に攻撃されてしまう危険性を伴うからだ。

これらの映像を観て、彼ら大型トカゲ類が野生下でどの位のサイズの餌を好んで襲うのか、少し気になった。幾ら一時に腹が膨れるからと言って、食べるのに消耗する程のサイズの餌ばかり襲っていたのでは効率が悪い。

その疑問に応えてくれるかも知れないひとつの動画を先日観る事が出来た。同じ愛好家が飼育する同一個体のテグートカゲに、ラット(ドブネズミ)とマウス(ハツカネズミ)を与えた折の比較動画が投稿されていたのだ。

結果はワタクシが予想していた通りだった。
トカゲは、一口で飲み込めてしまうサイズのマウスを襲う時は何の躊躇いも無く、物凄く活発に攻撃を仕掛けていたが、飲み込むのに時間が掛かるラットを襲う時は攻撃に確かな「迷い」があったのだ。

これは飽くまで予想だが…恐らく野生下でのテグートカゲは、より短時間で嚥下が可能なサイズの小さな獲物を好んで襲うのであろう。

何でこんな事が気になるかと言うと…オオトカゲのこうした生活様式が、化石だけで謎が多い肉食恐竜の生態を復元する一助になるからである。

巷説では肉食恐竜は「食べきれない獲物まで虐殺する快楽殺戮者」として描写される事が多い。然し、この世の中に必要以上の「殺し」を行う動物は凡そ存在しない。恐竜とて映画に出てくるような殺戮マシンじゃなく、必要に応じて獲物を襲う気高き狩人であり、或いは病死した動物の屍を食べる自然界の掃除人の筈なのである。

恐竜の行動は化石には残らないので、こうした行動は推測するしかない。その推測の一助になるのがオオトカゲの狩りだとワタクシは普段から考えている。

無論、恐竜とオオトカゲは全く同じ生態では無いであろう。恐竜は少なくとも、大きな獲物を引き裂いて嚥下し易いサイズに加工する事ではオオトカゲなど比べ物にならない位高度に適応しており、寧ろそう言う行動においてはかなり鳥類的&哺乳類的である。然し、全く別次元のモノかと言われればそうとも限らないと思う。肉食恐竜が飽くまで「捕食者」且つ「掃除屋」である以上、少なくともその行動の一部に相通ずるものが全く無かったとは言い切れないからだ。

外見から来るイメージだけではなく、様々な角度からシミュレートする事により、拠り「復元」は深みを増すモノである…ワタクシはそう思うのだが、皆様はどうお感じだろうか。

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