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炭酸水

医者に禁酒を厳命されて結構経つ。恐らく10年では利かない筈だ。

ワタクシが若い頃(20〜30代前半)は、奉職していた職場が尽く体育会系だった事も相俟って、何かと理由をつけては先輩に飲みに引き摺り回されたり、社長から抜き打ちで宴会する旨を伝えられたりした(お陰で折角の週末を何度棒に振った事か…)。
そして、若い頃のワタクシはアルコールを摂取しても顔色が全く変わらない体質だった為、周囲が面白がって(或いは本気で酔い潰そうとして)ガブガブ酒を飲ませる局面が多々あった。今なら完全にアルハラである。

そんな若い頃の無理が祟り、今や毎年の健康診断の度に肝臓の数値について医者にお叱りを受ける身の上だ。
医者からの指示が「酒は少量に留めろ」→「ノンアルコールで我慢しろ」→「ノンアルコールもダメだ」となるまで、然程時間は掛かっていない。

ところで、ワタクシが医者から禁酒を命じられるようになったのとほぼ同じ頃、周囲にはアルコール飲料(特にビール)の代わりと称してウィルキンソンの炭酸水を愛飲する人が多かった。面白い事に他社の炭酸水では駄目で、必ずウィルキンソンのものでなければならないのだと言う。
ワタクシには最初、それがとても不思議でならなかった。
(ウィルキンソンが酒の代わりになる?)
(ノンシュガー無香料、水に炭酸が加わっただけの飲み物が何故?)
いつも、ワタクシの頭の上には疑問符が幾つも浮かんでいた。思えばこの時、ワタクシはウィルキンソン炭酸水の効力を完全にナメていた。

そして時間は流れ、つい最近の話。

それはほんの思いつきだった。身を挺した実験だったと言い換えても良い。
ワタクシはある週末の夜、近所のコンビニで少しばかりの酒肴とウィルキンソンの炭酸水を購入して帰宅し、酒肴を突つきながらウィルキンソンを飲んでみたのだ。

上手く言語化出来ないのだが、

「あ、これ悪くないぞ」


と言う気持ちになった。

酒肴を突つきながら飲む強めの炭酸水には、何と言えば良いのか…酩酊を差し引いたアルコール摂取感とでも表現するべきか、とにかく何だか気持ちが軽くなるように思えたのだ。炭酸がもたらすリフレッシュ効果のお陰なのだろうか。

考えてみれば、ワタクシは昔から発泡系の酒が好きだった。特に【ランブルスコ・ロゼ】と言うイタリアの発泡系ワインが好きで、独り飲みの時はランブルスコ・ロゼをセレクトする事が多かった。次いで好きだったのはシードル(リンゴの発泡酒)である。

ウィルキンソンの炭酸水はそうした発泡酒からアルコールと糖分を除き、炭酸の強烈な刺激だけを上手く残す飲み物だったのだ。
ビール好きな人が、代替としてウィルキンソンの炭酸水を選ぶのも判る気がする。あの炭酸の刺激はビールのそれとほぼ同じだ。

以来、ワタクシは週末になるとウィルキンソンと酒肴を購入し、手酌酒ならぬ手酌炭酸水を楽しむようになった。

酒が人類に愛される一因は【憂さを晴らす】効果だと思う。それが炭酸水で代用出来るのなら、こんなに便利な事は無いな…と新たな知見を得た出来事だった。

附記
甚だ余談になるが、シードルは英語で【Cider】と綴る。これを日本語風に読むと【サイダー】になる。実は日本で加糖された炭酸水がサイダーと呼ばれるのは、一説には日本で言うところのサイダーがシードルから名を拝借したのが由来なのだとか(諸説あり)。フランス圏の人間が日本のレストランでCiderの文字を見てシードルだと思い注文したら、サイダーが出されてトラブルに発展した…なんて話もあるそうだ。
炭酸水の世界、まだまだ奥が深い。

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