うぶすなの家
突然、歌が聞こえた。
さっきまで談笑しながら食事をしていた地元のお母さんたちの声だった。
3年に一回開催される「大地の芸術祭」で訪れた「うぶすなの家」は古民家を再生させ、地元のお母さんたちが料理を振る舞う食堂になっていた。
ひと仕事終えたお母さんたちは、各々持参した弁当を広げ、おかずをシェアしながらお喋りに花を咲かせていた。そして食事が終わると全員で歌を歌い始めた。
旅先で訪れた地にも生活があるんだと、そんな当たり前のことにはっとした。
きっと当たり前の光景なのだろう。
他愛のない会話も、突然の合唱も。
エプロンと三角巾を身につけたお母さんたちの背中は、確かにその地に生きる姿だった。
特別な日も楽しいけれど、同じ毎日を過ごしていると生きている感じがする。
時代が変わっても、歳をとっても、毎日ちゃんと食べて寝て、ちゃんと生活していれば何となく大丈夫な気がする。
旅先で出会った日常は、涙が出るくらい愛おしかった。
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