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フィルム刷版

現在製版から印刷機の刷版提供はCTPが主流で、段階的に刷版さえ必要ないデジタル印刷機に移行しつつある。ただこんな時代でもいまだにフィルム刷版の需要はある。いろんな事情でデジタル化に移行できない、または昔のフィルム時代からのデザインにこだわりがあるのかもしれない。

当社のフィルム刷版の設備、焼き枠、コンポーザー、自動現像機、検版台に穴あけ機(正式名はなんというんだろう?)などは随分前に破棄して、外注に頼っていた。数年前までは僕が通勤している京都市内にもフィルム刷版ができる会社がいくつかあった。刷版専門にやられていたS社(W社といていましたが勘違いでした)が廃業されてから、製版・印刷各社はフィルム刷版ができる会社を確保しておくことに苦労しだしました。弊社もそのあと協力会社としてH社とK社さんにお願いしていたのだけれど、H社の機械のコンプレッサーが壊れて刷版不可になり、その後ずっと頼んでいたK社さんも機械が誤作動を起こすようになってフィルム刷版がもうできなくなりますと連絡が来た。

「もうフィルムが焼けなくなります、デジタル化してもらうようにお得意様に通達してください」と営業各位にアナウンスしたけれどとにかく反応が鈍い。しかしできないものはできない、断るしかないと思っていたところH社の人に、京都でおそらく最後のフィルム刷版できるところがありますと教えていただいた。聞くとK社もそこにお願いする(している)ということ。しっかりした人がやっておられて信頼できますよと。

そんな話を聞いたタイミングで今のうちにと思ったのか、10台ものフィルム刷版の依頼が入り、K社さんを通して刷版を焼いていただいた。その時弊社の営業も寄せてもらい色々話させていただいた。高齢だけどとても良い方で随分昔のことをよく知っておられると。話の内容を営業から聞いて僕はすごく興味を掻き立てられた。僕自身かなり古い製版時代の生き残りでそんな時代の事をよく知っておられると。機会があれば会って話がしたいなって思った。
そんな折またフィルム刷版の依頼が入った。一応「もうフィルム刷版はできなくなるからデジタル化してもらうように」と小言を言いながら、ゴールデンウィークの間で仕事量が少なく融通が効く今日、その人に会いたくてフィルム刷版を依頼してきた。


自動現像機
清掃のため液を落としてある

聞いてはいたけど、お会いして驚いたのは思っていたよりもお歳を召しておられるのではないか(80歳くらいに感じた)このお歳で働いておられる事に驚いた。ちょうど4連休の前で自動現像機の液を落としておられるところだった。経験した事がないとわからないかもしれないけれど、自現の清掃はかなり重労働だ。そこにはお二人おられたけれど、そのことにも感心させられた。僕が勝手に思ったのは必要とされてる人達が多くて続けられているのだろうと。いやそもそも働く意欲が強いのかもしれない。刷版の依頼を説明している最中にここを教えてくださったH社の方がお見えになり、「おお」となった。「もうここしかありませんから」

少し自分のことをお話ししたら「どこに勤めていた?」と聞いてくださり、最初に勤めていた会社の名前や、一緒に働いていた焼き付けのBさんの名前を言うと「よく知っている。Bさんとは一緒にE社で仕事をしていた。」E社の社長の義理の弟が、僕の最初の会社の社長で、当然そちらも「よくしってる」「S社は知ってるか?」と言われて僕は「そこに勤めていました」と答えると、そこの社長とは仲良くてしょっ中会社に行っていたぞと仰る。またまた驚き。「ひょっとして僕を知ってないか?」と聞かれたけれど、すみませんちょっと記憶にない(申し訳ない気分)

H社の方と刷版の打ち合わせをされるタイミングでお礼を言って引き上げてきた。昔話が懐かしいと言うより、大事に機械を使われていてご高齢にもかかわらず
(おそらくみんなの期待を背に受けて)仕事を続けておられることに敬意と感謝の気持ちを持った。

「SCREEN MULTICUBE 803G」とある
NETで検索してももう出てこない
「検版台」
焼いた刷版を確認する。大きなレンズでキズやゴミをチェックする。

お願いして機械の写真を撮らせてもらった。僕が使っていた古い機械に比べれば随分新しい部類の機械だけれど、もう見れる会社はほとんどないはず。あ、手回しの縦型コンポーザーは自分も使っていたと仰ってた。そりゃそうだな僕よりおそらく一回り以上年上なのだしw
同年代以上の方が現役でバリバリやっておられたのと、同じ時代のことを少し話せた(しかもごく身近な話)こと、楽しい日になりました。


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