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町田尚子絵本原画展「隙あらば猫」とパラミタミュージアム

企画展予定にあった猫の素敵な表情に惹かれてパラミタミュージアムで開催中の「隙あらば猫」展へ行ってきました。

猫は自分に素直そうなところが大変魅力的な生き物だと思っています。
今はマンション暮らしで猫と生活はしていませんが、10代の時に単身赴任先の父宅に迷い込んでしまったまま居ついた猫を引き取って以来、2匹の猫と生活しました。町田尚子さんの作品に描き込まれた猫を見ると、自分と過ごした猫の表情と重なるところがあって懐かしくなりました。

童話や詩などに基づくものからオリジナル作品までの絵本原画が展示されていて、「隙あらば猫」とあるように、猫が主役ではないにもかかわらず、「こんなところに(も)猫がいた」という絵から、「ここにこんなに猫がいるわけないけれど、猫たちがいることで不穏な空気が強調されている」といったものまであって、あ、この人は本当に猫が好きなんだ、と思いました。

絵本原画展は、近所の三重県立美術館でも昨年企画展があって、そこで本になる前の絵の細やかさや、アイディアが完成形になるまでの修正過程なども見ていたのですが、松田さんの今回の展示では、取材写真なども出されていて、映画のシーンが切り替わるような構図になる背景みたいなものを知ることができました。絵を描く人は空間把握力などが優れていると思っているのですが、そういう俯瞰図、下から見上げた図など、効果的な一枚になるための構図が決まるまでには想像ができないほど考えがめぐらされているのだと思いました。『いるの いないの』や『あずきとぎ』の決定的なシーンはないけれど後味の悪い怖さは、人ではないものの視線や視点みたいなものが絵に表現されているからだと思います。物販コーナーにあったら多分購入しただろうと思うのが、京極夏彦さんが絵本向けの文章を書いている『ざしきわらし』(『いるの いないのも』も同様)で、書くべきことを絞った文章を引き立てる絵であるだけではなく、映画のシャイニングを連想させる良い感じの不穏さが漂う絵本原画でした。あれはすごい。


絵葉書など

パラミタミュージアムの2階の2つの展示室の内、2番目の方は猫が主人公の絵本原画やそれ以外の作品がまとめられていました。猫好きにはたまらない空間でした。この中では『ねこはるすばん』が猫だったらするかもしれない行動が表現されていて素敵でした。喫茶店と書店の猫が、実際にはありえないけれども、やっているかもしれない感じがありました。

通路部分に、特別展示として、パラミタミュージアムを題材にした書下ろし作品3点が展示されていました。看板などと同様にこちらは撮影可能でした。本と猫という二大好きなものが描かれている『図書委員』が特に気に入りました。あの大判ポスターがあったら家にもって帰りたくなるかもしれません。

パラミタミュージアムは、2003年に開館した美術館で、岡田文化財団が運営しています。建物や中庭が素敵で、三重県で末永く存在して欲しいと願っている美術館のひとつです。

1階にギャラリー、池田満寿夫氏の般若心経(「パラミタ」ミュージアムの名前の由来となった)シリーズや所蔵品の展示が行われている第1~3室、そして小嶋夫妻の絵画や陶芸が展示されている第6室があり、企画展は2階の主に第4・5室で行われています。中規模美術館なので大規模な展示というよりも今回の絵本原画展のような感じの企画展が馴染む美術館だと思います。

パラミタミュージアムの私の楽しみ方は、1階で綺麗な工芸品や陶芸品を見て、般若心経シリーズに砂漠感みたいなものを感じて、そのままスロープをあがって万古焼や田村 能里子さんの作品を見て、ここまでが準備運動と言う感じで、次にメインの企画展を楽しむという感じです。そしてその後1階のサロンで飲み物を買って休憩したり、寒くも暑くもない良い気候の時ならばパラミタガーデンの細やかに手が入っている中庭を楽しむと言う感じで数時間をゆったり過ごし、入口の売店で気になったものを買って帰るという感じです。

近鉄湯の山線「大羽根園駅」下車すぐの場所にある美術館ですが、時刻表を気にするのがストレスなので、津駅付近に住む私は車で行くことが多いです。この10年で三重県内の道路がかなり整備されてきているので、片道1時間、今の時期だと菜の花や梅、これからは夏の山や紅葉を眺めながらのドライブも、パラミタミュージアムに行く時の楽しみのひとつです。

本当はこれに加えて近くに良い感じのカフェ、たとえばアクアイグニスまで足を運ぶということも選択肢としてはあると思うのですが、今のところは行って、見て、帰るという感じです。

今回は4回綴りチケット(利用期限なし)を購入したので、次の企画展も行く予定でいます。次は「細川護熙 美の世界」です。