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中枢神経疾患に対する評価と治療~臨床的姿勢運動分析~後編

進リハの集い主催セミナー 
葛飾リハビリテーション病院 作業療法士 佐藤 正和

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中枢神経疾患の患者に対してどのように観察と分析をするのか、そもそもなぜ動作の観察を行うのか。課題分析を元にADL(日常生活動作:activities of daily living)を変えるアプローチを行うための基本的な考え方を前後編に分け、後編ではリーチ動作、靴下を着用する動作における分析と考察を紹介していく。

前編はこちら


リーチ動作
目的とする場所へ随意的に定位させる動作であり、正常な多関節運動によるリーチは、動作の中間地点で最も速くなる滑らかな速度変化を有する。運動効率的に、リーチ運動中の手の軌跡は直線的(SLP:straight line pathway)である事が望ましい。動作に先立ち、身体重心の変化に備えるべく体幹部や下肢の筋活性が起こる。

前方へのリーチ構成には、肩の前方屈曲に伴う肩甲骨の回旋、上腕骨頭の適切な動き、充分な外旋、肘の屈曲または伸展が行われ、手部に関しては拇指と他四指の間の拡がりや手関節の伸展、前腕の回内外が必要である。臨床的には、リーチは手の活性化によりスタートし、運動連鎖により拇指は上腕三頭筋と、示指は三角筋と、小指は回内外の安定性と連動する。また、指の伸展の回復には手関節の運動回復が重要となる。

リーチとグラスプ(把持)の発達

胎児期の上肢と手は強く連結しており、屈曲または伸展パターンにある。しかしリーチとグラスプを協調するためには、対象物へと伸展した上肢と屈曲した手指の組み合わせが必要である。両者は機能上密接な関係性にあるが、それぞれ異なった神経経路による支配を受ける。

リーチは姿勢調節を司る下降性神経経路によってコントロールを受け、グラスプは皮質脊髄路(大脳皮質の運動野から脊髄を経て骨格筋に至る軸索神経線維の伝導路)によりコントロールを受ける。

上肢の運動に伴う不安定性を補うための先行的な姿勢調節機構である先行随伴性姿勢調節(APA:anticipatory postural adjustments)の改善、グラスプにおける初期加速期と後期減速期の釣鐘型の速度変化などが望ましい。加えて、把持対象の形状および作業目的に応じて手の形を準備する「Pre-shaping」が、対象に接触するまでの残り時間が全体の約30%以下になった時点で生じるようにする等、一瞬のグラスプ動作内でも必要なものは多い。

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