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Son Lux, David Byrne and Mitski "This Is A Life"、または可能性という名の道が幾つも伸びてるせいで起こること

開巻、仄暗いリビングに置かれた丸い小さな鏡に、楽しそうに揺れる人影が映っている。
慎ましやかな音楽の波長と合わせて徐々にカメラがズームアップしていくと、どうやらアジア系の家族が3人、マイクを握り歌っている。

そんなふうに、これから始まるマルチ・ヴァースの物語を鏡で見事に表象したオープニングから、「永遠の重さと光の速さで」2時間20分を語りきる、アイデアと技巧とプリミティブなギャグに満ちたプロフェッショナルなスラップスティック・アクション・コメディー『Everything Everywhere All At Once』のテーマ・ソングが、MitskiとDavid Byrneがデュエットする『This Is A Life』だ。

ユダヤ系アメリカ人、ダニエル・シャイアートと共に共同脚本共同監督を務める中国系移民2世ダニエル・クワンの家族史、個人史を詰め込み、「最も個人的な題材が、最も普遍的な物語になる」というマーティン・スコセッシの教えの正しさを『パラサイト』に続き証明することになった今作において、

「これがわたしたちの人生だ」

とエンドロールで歌い終わるこの楽曲が担う役割は非常に大きい。

何故か日本語字幕が歌詞につかなかった、そもそも日系アメリカ人であるmitskiが歌っていることも満足にアナウンスが成されていない日本の配給環境に憤りを覚えつつ歌詞に目を向けてみると、簡潔かつ的確なエッセンスの抽出、物理学への理解に裏打ちされた要約とインタープリテーションに強く感心せざるをえない。

アカデミー助演男優賞を獲ったKe Huy Quanが、『花様年華』のパロディ・シーンでトニー・レオンになりきって、作り物だからこそ宿る真摯さをまといながら発する
「もし違う世界線でも、君と出会う人生を選ぶ」
というロマンチックこの上ないセリフが、今作と同じくリウ・ツーシン『三体』、カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』の影響を多大に受けたストーリーを内包しつつ、同年に公開され大ヒットした新海誠監督作『すずめの戸締まり』の

「わたしは、あなたの明日!」

の叫びと共鳴して乱反射しながら、わたしたちに生きる力を、光を与えて、

「これがわたしの選んだ人生なんだ」

と言える未来を照らしてくれる。


“This is a Life”

This is a life
Free from destiny
Not only what we sow
Not only what we show 

This is a life (Every possibility)
Free from destiny (I choose you, and you choose me)
Not only what we sow (Every space and every time)
Not only what we show

This is a light (Many lives that could've been)
Free from entropy (Entangled for eternity)
Not only hands and toes
Not only what we've known

We find this life (Sucked into a bagel)
Somehow alright

This is a life
Slow and sudden miracles
View of other worlds from our window sills
With the weight of eternity at the speed of light

This is a life
This is our life

これが人生
運命から解き放たれて
何を見たかじゃなく
何をしたかでもなく

これが人生(すべての可能性から)
運命から解き放たれて(あなたを選び、わたしが選ばれた)
何を見たかじゃなく(すべての空間、すべての時間)
何をしたかでもなく

これが光(多くの生命が行き着く)
均質化から解き放たれて(永遠と交わりながら)
小手先の知識じゃなく
未知を恐れることもなく

わたしたちはこの人生を選ぶ(ベーグルに吸い込まれながら)
きっと大丈夫だから

これが人生
ゆっくりかつ突然の奇跡
窓辺から幾つも可能性が見える
永遠の重さと光の速さで

だけどこれがわたしの人生
これこそがわたしたちの人生

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