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Death Cab for Cutie "Pepper"、または『(1460)日のサマー』について

四半世紀をこえるキャリアにおいて、同時多発テロ以降の混迷するアメリカに生きることを鋭くかつ詩的に表現した歌詞と、激しさと美しさを折衷した絶妙なバランスのバンド・アンサンブルで第一線を走り続けるDeath Cab For Cutieが、昨年9月にリリースした記念すべき10枚目のフル・アルバム『Asphalt Meadows』から、人気曲『Pepper』のアコースティック・ヴァージョンをリリースした。

メンバー脱退など活動継続が不安視されるなか2018年にリリース、全米チャート1位を記録して人気の健在ぶりと衰えぬソング・ライティングの瑞々しさ、逞しくなったバンド・アンサンブルをアピールした9枚目のアルバム『Thank You for Today』。豪雨のなかでのFuji Rock 2019のステージ、大規模なツアーも成功させ、さあこの勢いで次作へ…というタイミングでCovid19のロックダウンによる停滞を余儀なくされた彼らは、大きな行き詰まりを迎えることに。親密なスタジオ・ワークによって築き上げられてきたアンサンブルを解体、リモートでの再構築の過程でよりダイレクトなテクストの引用、メンバーそれぞれの分担によるヴァラエティを感じさせるロック・アルバムになった。


厭世的な雰囲気や閉塞的な気分を反映した『I Don’t  Know How I Survive』。シンセ・ベースが強烈な『Roman Candles』。80sでフットルースなビートが聖書の失楽園を思わせる物語と不思議にマッチして耽美なギターに向かう表題曲『Asphalt Meadows』。明るくポップなアレンジに死や喪のイメージに満ちた歌詞がアンビバレントな『Here to Forever』。人類のエゴで荒廃する自然を語りとノイジーなギターで告発する生真面目な『Foxglove Through The Clearcut』。10代のパンクロッカー時代を少しの気恥ずかしさを込めて振り返る『I Miss Strangers』。

粒が揃った楽曲のなかで最もシンプルで哀愁に満ち、最高傑作『plans』に収められていても違和感無いだろう楽曲が『Pepper』だ。


The Beatlesの名盤から引用されたタイトルを冠されたこの2m48sの短編作品は、マイナー・キーの1度、6度、7度の3コードにadd9をブレンドするヴァース、3度からのコーラスがキャッチーかつ哀愁ただよう楽曲に乗せて、ヴォーカルBen Gibbardの元パートナーのズーイー・デシャネルを、そしてその代表作にして総ての文化系男子にトラウマを植えつけた『(500)日のサマー』を想起させずにはいられない、去っていく彼女を想い続けてしまう情け無い男心を切々と歌い上げている。しかもBenが万感を込めて(いるように聴こえる)世にも美しく奏でられるギターも添えて。

『(500)日のサマー』
ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ズーイ・デシャネル


もしかするとBenもcovidのロックダウンのストレスにより、過去の記憶がフラッシュバックして溢れ出したのかもしれない。真相はわからないし間違っても本人は明言したりしないだろうが、そう思って歌詞に目を向けるとなかなか愉しい遊びだ。動画サイトにアップされているLive映像を見ると、この曲で拳を上げたり、ジョセフ・ゴードン=レヴィットがThe Smithを歌うシーンよろしく身をよじらせ叫ぶ男性がいたり。誰もが心にサマーがいるんだ…と実感した後で、明日も強く生きようと思えるはずだ(?)


“Pepper”
Death Cab for Cutie

Take a picture to remember this by
You'll never hold all the details in your mind
Filling your head with superfluous facts
Pushing out what you're never getting back
And all that's left is a version of the truth
A recollection that is often misconstrued
Sgt. Pepper with the faces of friends
But the names all elude you in the end

Kiss me just this one last time
Tell me that you once were mine

Take a picture to remember me by
To show everybody who you left behind
The near-miss that almost shot you out the blue
I was a city you were only passing through
And all that's left is a version of events
Favorably framed for the sake of self-defense
We barely notice as the pages disappear
Floating off into another year

Kiss me just this one last time
Tell me that you once were mine
Kiss me just this one last time
Show me that your love was mine

Kiss me just this one last time
Tell me that you once were mine
Kiss me just this one last time
Show me that your love was mine


今を忘れないために写真を撮ろう
総てを心に留めておくことは出来ないから
余計なことで頭がいっぱいになったら
取り返しつかないことから消してしまえばいい

残っているものから再構築しよう
記憶に頼ると間違いやすいから
サージェント・ペッパーは友人たちに囲まれていたけれど
最後は誰の名前も思い出せなかったと聞くし

もう一度キスしてくれないか
愛していたと教えてよ

僕を忘れないために写真を撮ろう
君が置いてきぼりにした人々に見せたいから
憂鬱から抜け出して君とすれ違った
僕はさながら通り過ぎるだけの街

別れも君にはただの出来事
自己防衛のための都合良い切り抜き
消えたページに気づくことは稀で
年月を経てから思い知るんだ

もう一度キスしてくれないか
愛していたと教えてよ
もう一度キスしてくれないか
愛されていたと錯覚させてよ

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