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Whitney "For a While"、祝祭が見たい僕ら

シカゴのフォーク・ロック・バンドWhitneyの新曲『For a While』がリリースされた。


ドラムスのJulien Ehrichがヴォーカルを取る、The BandのLevon Hoimを思わせるスタイルに各楽器の弦の震え、軋むリヴァーヴ、ブレスする口元が見えてくるようなバンド・アンサンブル、ニール・ヤングやボン・イヴェール的ハイトーンが地元シカゴのミシガン湖に育まれた幽玄性を醸す2016年のデビューアルバム『Light Upon the Lake』のヒットで一躍USインディの寵児になり、リリース日を当時のシカゴ市長から「この日を記念日に認定する」と賑やかに迎えられた2019年『 Forever Turn Around』でバンドの春を謳歌していたかに見えた2人組のキャリアは、2022年の3rdアルバム『SPARK』でそのタイトルとは裏腹に暗転してしまう。

30歳になったばかりの音楽マニアである彼らは当然打ち込みのビートを基調にしたR&Bやラップ音楽の影響下にあり、いよいよインディの枠を飛び越えてポップのフィールドに踏み出す大きな野心を持ってJ.ディラ的ビート・メイクにチャレンジした。そこには2018年に傑作『Time』をリリース、日本でも星野源らが後を追って見事に消化した、同じくドラマーとしてキャリアを始めたLouis Coleへの意識もあったはずだ。


志は良し。しかしその試みは奏功したとは言い難く、彼らの最大の長所である繊細なバンドアンサンブルが醸す幽玄性との噛み合わせがかなり悪かったのは明らかで、それまで高評価をつけて彼らを力強く後押ししていたpitchforkも「ここまで退屈に思えてしまう理由がわからない…」と困惑の低評価をつけた。

リスナーのリアクションも芳しくなく、MVの再生数、ストリーミングの回転数も不調。前身バンドの解散以降、上り坂一途に思えた彼らは大きな壁にぶつかった。

『SPARK』からたった4ヶ月のインターバルでのリリースという背景にはそのような事情があったことは想像に難く無い。果たして原点回帰を意図した本作はバンドで、大人数で思いっきり音を鳴らす喜びに満ちた、それがCovid渦以降の気分にも合致した、実に2023年に鳴らされることに必然を感じさせるハッピーな楽曲だ。

2016年のツアー中に大きな事故で炎上する車を目撃したことで人生のままならなさについて逡巡したことに端を発して生まれ、Liveで断片を披露しながら大切に育てられた『For A While』はたった2コードのシンプルな下地に、ギター、ベース、ドラム、ローズピアノ、バンジョー、ホーン、ストリングスが多種多様に織り重なって構成され、さながら人生に訪れる悦び、試練、苦痛、愛そのもののように、タペストリーとなってひとつのイメージをリスナーの心に浮かび上がらせることに成功している。

「この短い人生は、さまざまな感情の間断無い叫びに他ならない。それは美しく輝いている。あるときは苦痛の叫びとなり、あるときは歌となり」
カルロ・ロヴェッリ『眠りの姉』



“For a While”
Whiteny

Before I reach the sky above
I'll stretch my hands forever young
Catching the rain in the middle of a summer storm

There's a fire on 41
Sirens fading to a hum
The only escape takes me right back where I started from

Oh life won't be here long
But heaven knows I've had it all
Cause I was yours
For a while

I was yours
For a while

If I could let my demons go
If time could mend a broken soul
Maybe one day I could bring love to a world so cold

Oh life won't be here long
And heaven knows what I"ll become
But I was yours
For a while

I was yours
For a while



空の向こうに触れてみたくて
手を伸ばしていた永遠に思えるような若き日々
青春の嵐の真ん中で僕は雨を掴まえたんだ

41号線で火事が起こり
鳴り響くサイレンは君のハミングでかき消された
やり直す唯一の手段は元の場所に戻ることさ

人生は長くない
けれど天国は知っている
束の間だとしても
僕は君といるから幸せなんだって

束の間だとしても
君といれるなら

もしも悪魔を振り払えたら
時が壊れた心を癒してくれるなら
この冷え切った世界を愛で満たしたいんだ

人生は長くない
天国は知っている
束の間でも
僕は君といれば何者にもなれるって

束の間だとしても
君といれるなら

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