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風来のシレンは「頭の良い人」にはクリアできない。

高まるゲーム需要

新型コロナウイルスによる外出自粛の影響で、ゲーム機器の価格が軒並み値上がりしている。

例えば、Nintendo Switchだと、Amazonで定価の1.5~2倍程度の価格で取引されているし、あまりの需要の高まりに、抽選販売さえも行われている。
PS4だって似たようなものだ。去年末にセールを行ったくせに、今では4万も出さなければ本体を買うことすら出来ない。

ゲームは、外出できない人々の最後の砦である。
では、ヒトはいつまでゲームできるのだろうか?

RPGなら必ずストーリーに終焉がある。
どんなコンテンツにも明確な終わりというものは存在していて、ソーシャルゲームを除くのであれば、そういった意味で、ゲームは「終わりが約束されたコンテンツ」である。
終わってしまえば、後は決まりきった箱庭の中を走り回るだけ。ルーティン化してしまう。

逆に、この箱庭をどれだけ魅力的に作ることができるかということにチャレンジしたゲームもあった。コンテンツの終焉それ自体をユーザー任せにするという手法である。
いま流行りの「どうぶつの森」シリーズはまさにこれで、ユーザーが飽きてしまうまでは、いつまででも自分の理想の箱庭を作り続け、走り回ることができる。
これはRPGではないが、RPGに「どうぶつの森」のような要素を組み合わせたゲームとしてはルーンファクトリーシリーズなどを挙げることができるだろう。

しかし、25年前に、全く異なるアプローチでこの問題を解決したゲームがあることはご存知だろうか?

「風来のシレン」というゲーム

「不思議のダンジョン2 風来のシレン」は1995年にチュンソフトから発売された、一人用のロールプレイングゲームである。
キャッチコピーは「1,000回遊べるRPG」だった。
分かる人にはローグライクゲームといったほうが伝わるかもしれない。

僕はこのゲームのガチガチのオタクである。
どれくらいのオタクかと言うと、昔書いたシレンとは全然関係のなかったこの記事にもムリヤリシレン要素を出張させるくらいには厄介なオタクである。

不思議のダンジョン"2"というのは、この前作として、ドラゴンクエストシリーズのスピンオフとして「トルネコの大冒険」というゲームが発売されていたのだが、完全新規IPとして和風の世界観でローグライクゲームを作成するとなった時に、「トルネコ」のシステムを流用して作られたゲームであるためである。
ここから続く「シレン」シリーズとしてはこれが第一作である。

このローグライクゲームというのは、遡ること今から40年前に発表された「ローグ」というゲームと同じような手法を用いているゲームにつけられるカテゴリであり、「完全ターン制によるダンジョン探索」「死亡すると全てを失い始めから」「ランダム生成のダンジョン」という3つの特徴を持つゲーム群である。

まず、このゲームにおいては、全てのマップがマス目で構成されている。
現代ゲームのような滑らかなフィールドなどはない。
そして、そのマス目のマップ上に主人公や敵キャラなどが配置されている。
感覚としては将棋やチェスに近い。
あのように、マス目上のマップに、キャラクタが一つのマスに一つずつ配置されているさまを想像するとよい。

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実際のゲーム画面はこんな感じ。
当たり前だが、スーパーファミコンのソフトなので、グラフィックは荒い。

そして、このダンジョンマップ上を、完全ターン制で探索していく。
ターンの順番としては「味方」→「敵」の順番である。
これも将棋などと一緒で、こちらが行動しなければ敵も行動することはない。
次の一手について延々と考えられるという意味では、アクションゲームの対極にあるゲームと言えるだろう。
このような流れで幾層にも渡る深遠なダンジョンに潜り、制覇していくというのがローグライクゲームの醍醐味であり、これこそが第一の特徴である「完全ターン制によるダンジョン探索」である。

このとき、探索するダンジョンは基本的に「ランダム生成」される。
どういうプログラムを組んでいるのかは知らないが、毎回行き止まりだけにならないようなうまい具合にダンジョンマップが配置されるのである。
ダンジョンによってはランダム生成できないものもあるようで、このような場合には数種類のパターンの前もって生成されたマップからランダムに一つが選択されることとなる(シャッフルダンジョンという)。
敵の配置については各階で固定になるので、変わるのはマップ配置とアイテムの配置、ドロップアイテムの有無である。一階から異常に強い敵が出るなんてことは無いので安心してほしい。

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ランダム生成のダンジョンのマップはこんな感じ。
赤は敵、白は自分、青はアイテム、四角は階段である。
普通はこんなにアイテムは落ちていないので、モンスターハウス(モンスターの巣で、大量のモンスターとアイテムが配置された部屋)にあたったのだろう。

つまり、ある回の冒険とある回の冒険とでは、全く異なった軌跡をたどるということである。
もちろん、道中で同じ敵と戦いはするのだが、しかし毎回同じアイテムを拾うことは出来ない。
マップ配置もアイテム配置もランダムだからである。
このような特徴から、非常に運要素が強いRPGであると思われがちである。
それを更に強めるのが最後の特徴「死亡すると全てを失い始めから」である。

ここまでを見て分かるように、風来のシレンは「将棋やチェスのように一手ずつ味方キャラを操作してダンジョンを探索しつつ、深層制覇を目指す」ゲームである。
では、深層が制覇できなかったらどうなるのか?
道すがら拾ったアイテムや、育てたキャラクターは?

当然、全て失う
これはゲームによって異なるのだが、「風来のシレン」では(そしてその他の数多くのローグライクゲームでは)所持金、所持アイテムは全て失った上で、レベルも1に戻され、スタート地点に戻されてしまう。
積み上げてきたものは全てパァ、である。

ここまで見てきて「ふざけるな!」と思ったヒトは、残念ながらローグライクゲームは向いていない。
敢えて意地悪な言い方をするのだが、「風来のシレン」はそんなに甘いゲームではない。
どれだけ強い装備を拾おうが、どれだけ鍛えていようが、己の油断、慢心から、もしくは些細な事故から死んでしまったが最後、「全てを失い始めから」である。

そして、このゲームはとても死にやすい
キャラクタ自身に特殊な能力は一切なく、レベル1の段階では敵に囲まれたが最後、助かる道はない
キャラクタを強化するための剣や盾などの装備、補助するためのアイテムである杖や巻物といったものもあるが、持ち物欄が厳しく制限されており、道中のもの全てを拾っていくことは、これもまた不可能である。

しかも、主人公には満腹度というパラメータが設定されており、これが0になると餓死してしまう。そして、割と腹が減りやすい。
だから、ただでさえ厳しい持ち物管理の中で、貴重な所持品枠のある一定以上を食糧に割かなくてはならない。
強大な敵に立ち向かうためには何の役にも立たないおにぎりやパンを優先的に回収することが、逆説的に敵との戦いに備えることに繋がるのである。

更に、ローグライクゲーム特有のイヤラシイ敵が大量に配置されている。
一階や二階の敵は通常攻撃しかしてこず、その攻撃も弱く、注意すれば十分捌ける程度の弱さなのだが、階層が深まるごとに特殊能力を持った敵が現れるのである。

例えば、三階から出現する「ボウヤー」は、弓矢を使った遠距離攻撃を仕掛けてくる。
同一直線状に立っていると問答無用で矢が飛んでくるので、こいつに肉弾戦を挑みたいのであれば、ジグザグに移動するなどして、射線をズラしながら接近しなければならない。

また、五階から出現する「鬼面武者」は、一見何の能力も持っていないように見えるのだが、倒してから2ターンすると「亡霊武者」となって蘇る。
「亡霊武者」自体は弱いのだが、こいつは任意の敵モンスターに乗り移り、敵モンスターをレベルアップさせるという非常に厄介な特技を持っているのである。

言い忘れていたが、風来のシレンなどの「不思議のダンジョン」シリーズでは、敵にもレベルの概念がある。
ただ、味方のレベルアップとは比べ物にならないほど急激に強くなるケースが非常に多いのである。

例えば、鬼面武者と同じ階に出現するモンスター「ハブーン」は、順当に行けば4~5階まで来れているプレイヤーなら一撃で倒せる程度の強さだ。
しかし、これがレベルアップして「マムーン」になると話は変わる。
一撃で倒せるどころか、特別な準備をして置かなければ太刀打ちするのは難しく、下手をすれば一撃で倒されてしまうだろう。

また別の例を出すと、風来のシレンシリーズのマスコットとなる敵キャラクターの「マムル」は、「マムル」→「あなぐらマムル」→「どうくつマムル」というようにレベルアップしていく。
「あなぐらマムル」までは全然強くないのだが、「どうくつマムル」になった瞬間、深層クラスのモンスターに変貌する。
ドラクエプレイヤーにわかりやすく例えると、「スライム」→「スライムベス」→「ギガンテス (!?)」といった具合に強さが急上昇するのである。

では、特殊能力をもった敵相手に、特殊能力を持たないプレイヤーはどう立ち向かうのかと言うと、戦術を持って戦うのである。
道中拾った武器や防具、鍛えた体、そして補助アイテムである草、杖、巻物などを駆使して、時には真正面から敵を迎え撃ち、時には撤退し、というように戦況とリソースを鑑みて判断することを常に求められる。

このように、風来のシレンは「敵が強く、味方が弱い」ゲームであるといえる。
非常に「敷居が高い」ゲームであるとも言えるかもしれない。
しかし、アイテム、敵の弱点や能力、ゲームシステムの仕様やバグなどを全て理解すれば、目を瞑っていてもクリアできるというのだから、驚きである。

ミスはミスではない。

このゲームの面白いところは、「主人公キャラクターではなく、プレイヤー自身に経験が溜まっていく」ということである。
先に言った敵キャラクタなどは、初見では中々対処が難しいだろう。
しかし、死んで覚えることによって「次の冒険では」対処ができるようになるかもしれない。
次が駄目でも、その次で、そのまた次で、対処できるようになるかもしれない。
究極のトライ&エラーのゲームなのである。

このゲームは「1,000回遊べるRPG」ではない。
「1,000回遊ばないとマスターできないRPG」なのである。
全くとんでもない化け物を放出してくれたものである。
単に頭がいい人ではクリアすることは出来ない。
クリアするには、自分で自分の思考回路をブラッシュアップする能力、すなわち「自分で自分の頭を良くする」能力が求められるのである。
頭が良くなりたい人にはおすすめである。

この記事の冒頭で言ったことを覚えているだろうか。
「25年前に、全く異なるアプローチでこの問題を解決したゲームがあることはご存知だろうか?」
1990年代といえば、RPGの金字塔であるドラクエシリーズとFFシリーズを筆頭として、多くのRPGが鎬を削っていた時代である。
きっと彼らの頭の中にはこんな思いがあったことだろう。
少しでもプレイヤーを飽きさせないように。楽しませるように」と。

その中でチュンソフトは斜め上の回答を出した。
ストーリーがあるなら、いつか物語は終わってしまう。
だからこそ、物語ではなく、冒険それ自体に魅力をもたせればよいのではないか?
「決まりきった旅路」ではなく、「常に未知なる旅」をプレイヤーに経験させることができれば、永遠に遊べるゲームが完成するのではないか?と。

前作「トルネコの大冒険」と合わせて彼らが出した回答がこれなのである。
経験をキャラクタではなくプレイヤーに蓄積させることで、上達を実感させる。
死にやすいがトライもしやすいバランスにすることで、死亡によるプレイヤーのストレスを最小限に食い止める。
そして、複数フロア仕立てのダンジョンにすることで、進んでいるという実感を持たせ、新たなフロアには新しい敵と新しい音楽、新しい背景を用意して、感動をもたらすといったような、緻密な計算のもとに成り立っているゲームが「風来のシレン」なのである。

逆に言えば、事前情報一切なしの初見にて、この凶悪極まりないダンジョントラップ、敵、システムの罠全てをかいくぐり、全フロアを踏破することはまず不可能だろう。
これは例え東大主席だろうがIQが200あろうが不可能だと思う。
後半になってくると、モンスターの攻撃は苛烈を超えて、初見殺しの域にまで突入してくるためである。
折返し地点である17階くらいまで行ければ御の字であろう。

「1,000回遊べるRPG」は伊達ではない。
恐らく彼らは本気で1,000回遊ばせるつもりなのである。
ちなみに筆者自身、こばみ谷(ゲーム中メインで潜るダンジョン)には1,000回以上チャレンジしている。

さて、ここまで語ってきたのは本家本元となるスーパーファミコン版の「風来のシレン」であったが、なんと今ならニンテンドーDSやスマートフォンで初代「風来のシレン」が遊べるのである!
筆者も先日スマホ版「風来のシレン」を購入して遊んでいる最中である。
なるほど、DS版と同じ調整がされて、初心者向けになっているものの、スーパーファミコン版を知っている身からすると、あの大雑把なバランスが少し名残惜しいような気もする。

それでもいいのである。
根底を流れるものは同じなのだから。
大事なのは、そのゲーム体験から自分が何を得たかであって、シレンは常に得たものをわかりやすく提示してくれる。
ちょっとしたミスで死んでもよいのだ。だって、それが次の冒険に活きるのだから。
このゲームを遊んで、「ミスは次の機会のためにある」ということを改めて実感した気がした。

この"神ゲー"を遊ぶとしたら、間違いなく「イマ」である。
アプリ版なら2,000円しない。大変お買い得である。
コロナショックで時間が余ってるからこそ、Nintendo Switchが手に入らないからこそ、次に何をするべきなのか迷ってしまうからこそ、終わりのない冒険に飛び出してみてはいかがだろうか。

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