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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ リモートセンシング編~Vol.23

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。

今回は、
・ヨーロッパの古い人工衛星、太平洋上の大気圏を無害に落下
・人工衛星が世界のサンゴ礁の生物多様性をマッピング
・沈没から84年、スペリオル湖で難破船アーリントンが発見される
・スパイ衛星写真から読み解く歴史的生態系の変化
について取り上げます。それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース①:ヨーロッパの古い人工衛星、太平洋上の大気圏を無害に落下

フロリダ州ケープカナベラルより、ヨーロッパ製の古い地球観測衛星が水曜日に軌道を離れ、太平洋上空で無害に分解しました。欧州宇宙機関は、ハワイとアラスカの中間で大気圏に再突入したこのERS-2と呼ばれる2,300キログラムの衛星が破壊されたことを確認しました。損害やけが人は報告されておらず、衛星の大部分が燃焼すると専門家は予測していました。

この衛星は1995年に打ち上げられ、2011年に退役しました。制御不能の状態での突入だったため、正確な落下地点は予測できませんでしたが、科学の発展に貢献する重要なデータの遺産を残しました。

出典:https://thehill.com/homenews/ap/ap-science/ap-old-european-satellite-plunges-harmlessly-through-the-atmosphere-over-the-pacific/


ニュース②:人工衛星が世界のサンゴ礁の生物多様性をマッピング

マイアミ大学ローゼンスティール海洋大気地球科学部海洋地球科学科の研究チームは、地球周回衛星を利用して全世界のサンゴ礁の生物多様性をマッピングする新しい技術を開発しました。この技術は、生物多様性が豊かな地域を特定し、保護活動の方向性を提供します。リモートセンシングを駆使して作成された生息域マップは、海底の生態系の複雑なパターンを明らかにし、種の多様性との関連を示しています。

従来のSCUBAダイビングによる調査に代わるこの方法は、コストと時間を大幅に削減し、海洋保護区の設定や海洋空間計画に重要な情報を提供する可能性があります。

この成果は、「Remote Sensing of Environment」誌に掲載され、海洋生物学と保全活動に新たな視点をもたらすと期待されています。

出典:https://www.futurity.org/satellites-global-coral-reef-biodiversity-3182082/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=satellites-global-coral-reef-biodiversity-3182082

ニュース③:沈没から84年、スペリオル湖で難破船アーリントンが発見される

1940年5月1日に沈没したアーリントン号が、沈没から84年後に発見されました。この発見は、リモートセンシング技術と研究者たちの努力によるもので、米国五大湖の一つスペリオル湖のキーウィノー半島から約35マイルの地点で確認されました。

沈没当時、乗組員は無事別の船に移動していましたが、船長のみが船に残り、操縦室近くで手を振っているのが目撃されていました。
難破船からの物品回収は違法であるため、研究チームは遺跡の写真やビデオのみを撮影しました。今後ドキュメンタリーによってこの一連の出来事がまとめられる予定です。

出典:https://www.startribune.com/84-years-after-sinking-researchers-find-arlington-shipwreck-in-lake-superior/600344944/?refresh=true


ニュース④:スパイ衛星写真から読み解く歴史的生態系の変化

冷戦時代に撮影され、後に機密解除されたスパイ衛星写真が、生態系や種の個体数の歴史的変化を研究するための貴重なリソースとして注目されています。

フライブルク大学のカタリナ・ムンテアヌ博士が率いる研究チームは、画像処理と解析における最近の進歩を活用することで、これらの世界的に利用可能な白黒画像から、1960年代にさかのぼる生態系や種の個体数の歴史的変化、あるいは人間が環境に及ぼす影響の変化について、より深い洞察を得ることができると考えています。

しかし、データのアクセス制限、高コスト、画像の前処理必要性など、利用には課題も存在します。研究者は、これらの課題に対処するために、学際的な協力を呼びかけています。

出典:https://www.eurekalert.org/news-releases/1034916


2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。

ニュース1は「天地人のCOOでJAXAで技術領域のマネージャーを勤めている百束」         
ニュース2は「JAXAとの兼業社員でリモートセンシングの専門家である小川
ニュース3は「通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村」    
ニュース4は「データ分析にも詳しいGISエンジニアの森口
の見解を記します。


ニュース1:ヨーロッパの古い人工衛星、太平洋上の大気圏を無害に落下

地球周回軌道に存在する、役目を終えた人工衛星やロケットなどは「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」と呼ばれています。人工衛星のアルミ合金、複合材料、フィルム等で作られることが多いのですが、そのほとんどは大気圏突入時に燃え尽きてしまいます。とは言え、万が一、落下物が地上まで届いてしまうと一大事なので、今回のようなニュースになったのだと思います。(それでも、広い地球で人のいる場所に落下する確率はとてもとても小さいです。)

もう一つこのニュースが話題になる背景としては、近年、スペースデブリの増加や大規模コンステレーション衛星の配備等により、特に地球低軌道域の混雑度合いが徐々に悪化していることもあげられるでしょう。物体数の増加に伴い運用中の人工衛星が他の宇宙物体と衝突するリスクも増えますし、小さな衛星はトラブル時のバックアップ機能を削らざるをえないのでどうしても通信不能や制御不能になる可能性があります。

もちろん天地人としては、様々な衛星が増え、衛星データがどんどん世の中に役立つ時代になることは嬉しいことですが、宇宙ゴミの問題には国際的なルール作りも大切になってくると思います。

「制御不能になっても地球から監視できれば安心だよね」という研究開発も進んでいます。JAXAでは、手のひらサイズの反射装置を衛星に取り付けて、それに地上からレーザー光を当てることで追跡するという試みも行われています。名前は、「マウントフジ」といいます。見た目通りですね。

JAXAのマウントフジ

(解説: 天地人COO  百束)

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