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毎週ショートショートnote「ろくでもない世界」【強すぎる数え歌】


明るい大学生活を終え、就職して社会人になった途端、まるで家の電気をスイッチ一つで消したように暗転し、
世界が変わってしまった。


入社した初日、社員全員が朝の会議に招集され、俺を含む新入社員の自己紹介が終わると、唐突に明朗なメロディーが流れた。


一、一切を会社の為に尽くせ!
二、人間性を捨てたまえ!
三、燦々たる太陽のように燃えよ!
四、死ぬまで働くがよろし!
さすれば!
五、極楽往生行き決定!!

その狂気じみた歌を皆は叫ぶように歌い終えると、俺は呆気に取られた思考の末に何とか、横に並んでいた同じ新入社員にどういうことだと聞いた。するとその新入社員は不快な笑みを浮かべると

「俺達新入社員にはちょっと刺激が強すぎる数え歌だな。しかしまあ、すぐ慣れるだろう。一緒に頑張ろう。」

などと妙に納得した表情でそう言うのだった。

とんだ会社に入社してしまった、当時の俺はそう思っていたが、友人や家族にこの出来事を話すと
「まあ、どこの会社も似たようなものだよ。」
と皆一様にそう答えるのだった。


世界は今日も俺だけを取り残して、ごく普通に動いている。
もしかすると、狂っているのは俺の方なのかもしれない。そんな思いにふと駆られながら、俺は涙を流して路肩のベンチに腰掛け、あの数え歌を人知れず口遊むと、最後に
「六、ろくでもない世界!」
と付け加えたのだった。



#毎週ショートショートnote


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