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そうきますか、のキャッチボール

 毎日の行動では、こういう時にはこの会話、こういう時にはこう言われるだろうというキャッチボールは、ほぼ予想できる。それで意外な返事がきたら、えっ?と思ったり、予想していた返事だったら、スムーズに安心したり。



 しかし極々たまに、えっ?えっ?それ合ってるっけ?聞き間違いではないよね?私の常識が足りなかったの?って思うときもある。キャッチし損ねたというより、絶対に守備範囲から逸れた球筋で投げかけられる時に動揺してしまう。



 健康診断を受けている時、まずは身長体重を一緒に測れる機械に乗って計測をしていた。身長はまあ変わらないだろうし、体重は家で計測していたから大体は分かっている。

 「はい、もういいですよ」と声をかけられ、血圧を測るようなレシートがガーっと計測結果が出てくる。看護師さんがレシートを切り、チラッと見て、レシートをこちら向きにして、

「身長〇〇センチ、体重〇〇キロ、こちらでお間違えないでしょうか?」とお伺いを立ててきた。レストランで注文を確認する店員さんみたいに。



 へ?間違いも何も…今測ったし、別にズルとかしてないし。

「え?あ?はい」と答えると 

「はーい、ありがとうございます」とお礼を言われた。何のお礼?そう言うようにマニュアルにあるんでしょうか。なんか、守備範囲ギリギリかと思いきやどストレートで慌ててキャッチしたのでした。 


 数年前、仕事に向かう裏道を歩いている時のこと。そこは、小学生の通学路でもある。十字路の角にあるその家のおじいさんは、ボランティアというか多分おじいさんは好きで毎朝、学校へ向かう小学生たちに「おはようー」と声かけをしていた。おそらく耳が遠くなっているだろう、おじいさん特有の大きな声でハキハキと。



 いいね、いいね、朝の通学風景に元気なおじいさんの声。大きくなっても子供達はきっと覚えてるだろう。私はいつも微笑ましく、小学生と一緒におじいさんに会釈しながら、止めてくれた自転車の前を通り過ぎていた。 



 しかしその日は、初めて小学生は渡り終わったあとに、私だけが取り残された。左手からは自転車が2台向かってくる。おじいさんさえいなければサッと渡るし、自転車のスピードが早ければ待ってから渡るのだけど、横にはおじいさんが立っている。



 そしたらおじいさん、自転車の人たちに向かって「人間が通るぞー」と大きな声をかけた。自転車の2人は止まってくれた。人間の私を通すために。小学生ではないけど、私を人間て…人間だけど。おじいさん、私に、自転車に気をつけてって声かければ良いんじゃない?


 自転車を止めて待ってくれている人たちに恐縮しちゃって、もう守備範囲超えて、キャッチできませんでした。



 今では、おじいさんの家のあった場所は更地になって、雑草が生えていて、寂しくなります。あの頃の小学生は中学生になっていて、通学路ではなくなっているだろう。

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