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忘れられない、ある二人の言葉

 今から25年くらい前、日本で暮らしていた頃の話だ。
 今でも時々思い出す言葉、フレーズが2つある。

 ひとつは、カイロプラクティックの先生が言ったことだ。

 持病の首痛が悪化した時のことだ。
 駅前にオープンした、カイロプラクティックに飛び込んだ。
 初カイロプラクティックで不安もあるけれど、オープン記念で割引だし、試しに行ってみることにした。

 オフィスの前に貼られたチラシによると、その先生はアメリカで資格をとってきたらしい。
 事実はわからないけれど、その頃はまだポピュラーじゃなかったので、学校はアメリカにしかなかったのかもしれない。
 扉を開けると、外の派手な宣伝とは打って変わり、電気も付いておらず、受付もおらず、患者もおらず、薄暗~くて、だーれもいない。
「こんにちは~」
 そっと声をかけると、中から、白衣を着た、エジソンみたいなおじさんが出てきた。どうやら、この人が、アメリカ帰りの先生らしい。
 症状を伝えると、
「まず、病院行って、レントゲン撮ってきて。施術はそれからじゃないとできへんねん」
「えー、そうなんですか?レントゲンっていくらくらいするの?」
「1万円くらいかなー」
「レントゲンは割引じゃないですよね」
「ちゃうなぁ」
「レントゲンなしではできないんですか?」
「法律やからね。俺にもどうすることもできへんねん。・・・ま、払えない人に払ってもらおうとは思わんけどね」
「・・・」
 私は彼の言葉を、”払えないなら仕方がないね。他を探して”ではなく、”払えない人から施術代をもらう気はないよ”と受け取った。
 オープンしたばかりというのに、患者はゼロ。薄暗いオフィスの様子を見ると、エジソンに余裕があるとは思えない。
「払えない人に払ってもらおうとは思わない」
 さらりと言ったエジソンの言葉が、ずーっと頭から離れなくなった。

 もうひとつは、ニューオーリンズに留学をして、そのまま住みついちゃった日本人男性の言葉だ。

 旅行でニューオーリンズへ行くことが決まると、友人は私に荷物を預けた。
「俺の友達がニューオーリンズにおるねん。きっと貧乏やと思うから、日本の食べ物を届けてやって」
 ニューオーリンズに着いた翌日、さっそく、その男性に連絡をした。
 友人に付き合ってもらい、四角いドーナツ”ベニエ”の名店、フレンチクウォーターにある「カフェ・デュ・モンド」で、その男性と会うことにした。

 登場した男性は、みるからに貧乏人だ。
 彼はバンジョーに魅せられて、ニューオーリンズに住みついたらしい。
 少し変わった方だったし、日本人と会えて喜んでいる気配もない。
 見知らぬ二人と話したい様子はなかったので、ドーナツとカフェオレを食べるとすぐに別れた。
「いいですよ。払っときます」
 お金を払おうとした彼に言うと、
「・・・そうですよね。お金がある人が払えばいいんですもんね」
 初対面の私たちにそう言うと、彼はお礼も言わず、哀愁を漂わせたまま、荷物を抱えて立ち去った。
「お金のある人が払えばいい」
 
ふーん・・・腹が立つとか、失礼だとか、そういうことは感じなかった。
 ただ、ずーっと私の中に残っていた。

 アメリカで暮らすようになって、この二人の言葉をよく思い出す。
 この国には、自分の力では、どうすることもできないこと、どうすることもできない人が多い!
 日本で暮らしていても、大変な苦労をする人もいるし、どうにもならないことはある。
 私が感じているのは、それとは少し違う、様々な人種が集まる国ならではの問題だと思う。

 カイロプラクティックの先生は、どうすることもできない人を見てきた人。
 一方、ニューオーリンズの彼は、どうすることもできない側の人なんじゃないかな。
 事実はわからないけれど、彼らふたりのこと、彼らの言葉は今でも時々思い出す。

 ビジネスも必要なんだけど、ビジネスが苦手な人、お金儲けのできない人は、芸能、文学、料理、自分の好きなことで貢献する。
 得意なことがなければ、掃除やごみ集め、自分のできることで貢献する。
 それもできない人は、そこにいるだけでいい。なんかの、誰かの役には立っている。
 そういう社会のはずなんだけど、なんだかうまく回らない。

 うまく回らない社会にいるので、私も早く仕事を見つけよう。
 LOVE,JOY&PEACE がんばるぞー🌈🌈🌈 

 

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!