ほっそい路地マニア
通勤路に一軒の居酒屋がある。
数ヶ月前にオープンしたばかりで、夫婦で営んでいるらしい。
脱サラで一念発起して始めたお店なのだろうか。私は店の前を通るたびに店内の様子を伺い、繁盛具合を確認していた。
それが今日、お店の前を通ると、シャッターが固く閉ざされていた。いつもはシャッターまで閉めることはないのに。
シャッターには一枚の貼り紙が貼ってあった。
この時点で嫌な予感しかしなかったが、恐る恐る貼り紙の内容を読んでみると
「お店に泥棒が入ったため、しばらくお店を閉めます」
と書いてあった。愕然とした。
こんなことってあるかよ。
せっかく夫婦でお金を貯め、人生を賭けて始めたお店が強盗に入られて終わりだなんて。
人生ってうまくいかないものだ。
そして結局私は、そのお店に一度も行かなかった。いつか行こうと考えてはいたが、そうしているうちにお店は閉まってしまった。
応援したい気持ちはあった訳だから、すぐに行くべきだった。今あるお店が明日も開いてる保証なんてない。行きたいお店があるならばすぐに行っておくべきだと痛感した。
◇◇◇◇
話は変わる。
私は徒歩通勤が大好きだ。
電車で行けば5分程度で着く道のりを、わざわざ徒歩で30分かけて通勤している。
同僚からはよく「バカか?」と言われる。
私が徒歩通勤を好むのは、新しい道を見つけるのが楽しいからだ。私はいつも日によって通る道を変えている。あえて手前で曲がってみたり、多少遠回りになっても回り道をしたりしている。最初は飽きが来ないように始めた習慣だったが、だんだんと新しい道を歩くのが楽しくなってきた。
中でも細い路地を見つけると興奮する。
今日もこれまで通ったことのない路地を見つけた。それもかなり細い路地。私は興奮した。
人がふらっと入るような路地ではない。今ここで犯罪が起これば真っ先に疑われるだろうし、狂犬の群れに遭遇すれば逃げ場はない。
それでも私は細い路地を進む。
細い路地を抜けた先は、見慣れた大通りに繋がっていた。
なるほど、この道に繋がってたのか!
点と点が繋がる気持ち良さが、私の脳内を駆け巡った。この快感があるから、細い路地探しはやめられない。
それでも最近は、なかなか新しい路地を見つけられなくなった。そろそろ通勤コースを変える必要があるかもしれない。会社を挟んだ反対側まで電車で行って、そこから歩くのはどうだろうか。
完全に手段が目的化してきている。
仕事に行くついでに細い路地を探すのではなく、細い路地を探すついでに仕事に行っている。
細い路地あるある:たまに小学生と出くわす
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?