作り話


 
傘のない世界で
きみに傘の話をしている
小さなバス停に並ぶ他の人たちも
そぼ降る雨に濡れて
皆寒そうにしている

ぼくは傘の話をする
その機能を
その形状を
その色や柄の種類を
まるで見たことがあるかのように

夢みたい、と言って
そんな夢みたいな作り話を
きみは馬鹿にすることもなく
最後まで聞いてくれる

定刻より五分遅れて到着したバスが
定刻より五分遅れて発車する
その行き先が本当に帰るべき場所なのか
ぼくらには確信がなかったけれど
本当に帰るべき場所なのだと
願っていたかった
 
 


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