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樹堂骨董店へようこそ27

樹堂の店内の一角にある休憩コーナーの長椅子の上に小林を寝かせると
「ここならば…死なないだろう…人間はもろい…からな…」
と言って流は那胡を振り返った。店内はストーブのおかげで温かい。もののけ道にいる時は普通にしゃべっていたのに、急に流の話し方がカクカクし始めた。
「なんで、急にしゃべり方が変わったの?」
流は表情一つ変えずに
「あの場所…では…しゃべって…いない…」
と言った。
「しゃべったよね…?」
那胡は一瞬よくわからなくなった。もののけ道では普通に会話していた。
「那胡ちゃん。たぶんね、ふたりとも言葉ではなくて頭の中で直接会話していたんじゃないの?私ももののけ道の中では無意識にそうなるのよ」
そこへりんがカウンターから話しかけてきた。
「流は現代の言葉をよく知らない。だから、話す時はあなたの中の言葉を借りて話しているはず。だから地上で話す時はたどたどしくなってしまうのよ」
「なにそれ??私の中の言葉?」
「そう。あなたの頭の中にある言葉の情報を流は借りて話しているの」
「すご…そんなことできるの?」
那胡は流を見上げた。流は何?という様子で首をかしげた。
「あっ、でもちょっと待って!ということは…私の考えてることとかもわかるってこと…?」
「…そうね。地上にいるからいくらか不鮮明になると思うけどちゃんと伝わってるんじゃないかな」
「…それはイヤかも…」
那胡は唐突にりんに詰め寄った。
「何?どうしたの急に?」
「私の考えてることがわかるなんてそんなの…」
流は状況がつかめないというような表情で二人をぼんやり見ている。
(はずかしすぎるじゃないか!)
那胡は言葉を飲み込んだ。りんも首をかしげている。
(那胡)
ふいに頭の中に女の子の声が聞こえた。りんも同じように声に反応している。
(生きている人間と体をもたない存在は価値観や感じ方が違うから、ぜんぜん恥ずかしくなんかないよ)
金髪の波打つ髪に白い肌、青い瞳のそれはリリアのイメージだった。
リリアはイツキ邸に住み着いている幽霊だ。彼女は11歳の時にイツキ邸で亡くなっている。那胡は返事をした。
(リリアひさしぶり!元気みたいだね)
ふいにリンが立ち上がった。
「だめだ…リリアさんは私には強すぎて無理だわ。向こうに行ってるね」
リンは那胡から離れた。
「うん…」
もしかして、リリアは桜杜のチカラを吸収しているから…かな?と那胡は思った。
(その男が起きる前に流を連れてここから出た方がいいよ、那胡)
リリアはいくらか心配そうな顔をしている。最近のリリアは顔の包帯もとれて顔も見せてくれるようになっていた。亡くなった時についたという顔の傷はもうどこにもない。
「そうする。ありがとリリア…でも、なんで急に出てきてくれたの?」
(あたしたちにとって、この地の大晦日はとくべつなの。それに那胡には助けてもらった恩もあるからね。じゃあね)
リリアのイメージが消える直前、大きな白いウサギのぬいぐるみを抱えているように見えた。
「その者は…もう桜杜の…一部…みたいなもの…さ」
流が言った。
「一部…?」
流は那胡に手を差し出した。
「?」
「手…をつなげば…一緒に…移動…できる…来るか?」
一瞬恥ずかしさがわき出したが
(生きている人間と体をもたない存在は価値観や感じ方が違うから、ぜんぜん恥ずかしくなんかないよ)
というリリアの言葉を思い出した。
「うん。行ってみたい」
那胡は迷わず、手をつないだ。その瞬間にふたりの姿は樹堂から消えた。

新年まであと六時間。





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