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遊びに行くよ

きれいな水色の空の下

森には新しい季節がめぐってきていた

ゆっくりと歩く

ゆっくりと息をすって、ゆっくりと吐く

こころのなかでは

「こんにちわ。ちょっとだけおじゃまします」

そんな気持ちで木々の下を歩く

足元には名前もわからないいろんな草

枯葉、落ち葉のベッドみたいなふわふわな地面

誰かが踏み分けた、もうちょっとでわからなくなりそうな

かすかな道

聞いたことのない鳥の鳴き声

小さく響く虫の声

時々

なにかが草をわけて歩く音がする

私は足を止める

息をひそめて、空気に溶けた気持ちになって

なにも考えずに、森の一部になった気持ちになって

ただ耳を澄ませる

ただ目の前の景色を見ている

まるでカメラのレンズみたいに

何もしていないし、何も考えていないのに

何かが私の中を満たしていく

私の中の汚れや疲労が消えていくのを感じる

流れ込んでくる自然の何か

心地よさに、私はしばらく動かずにそのままいる

遠くの枝の上をすばやく走るリスを見つけた

風が髪をなでていく

まだ鮮やかな若い葉の色

木漏れ日に照らされた苔

濡れた枯葉からのぞいているどんぐりの芽

触れる空気の温度はもうすっかりぬるくなっていて

春から夏へ変わろうとしていることがわかる

夜はまだ肌寒いのに

再びゆっくり歩きだす

下から沢の音がしてくる

水の流れる音

小さい川の音

真ん中に岩がでんとしていて

流れが2つに分かれて

またひとつに戻る

青と緑の半々くらいの澄んだ水の色

きれいなラインときれいな音

うっとりしてしまう水の流れ

心地よい音

水の音はつい、ずっと聴きたくなってしまう

聴いていると気持ちがいいからね

上り坂になって

木が組まれた階段を上がると

森の出口

ほんとは周囲は山々が連なっている

でも気軽に人が出入りできるのはここらへんだけ

あとは登山道があって、本物の登山になっちゃうからね

私は登山はちょっとだけコワイ

大きな山には大きなものが住んでいる

違う世界のもの

大きなものからみたら私は小さな砂粒みたいなもの

私から見たら巨大ななにか

ヒトの道理は関係ない世界

私たちはそういう世界に住まわせてもらっていると

改めて感じる

だから

ちょっとだけ楽しませてもらったら

もういいんだ

お腹いっぱいでありがとう

また遊びに来るからって

家に帰る

それでいいし、それがいい

たまに遊びに行く

顔見知りみたいなもの

…友達ではないけれど

あったかく迎え入れてくれるもの

またね、またくるから



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