シャルル 第6話【創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品】
第6話「玲奈。勿論、私もあなたが…」
根本まで吸い終わったので、私は床に吸い殻を捨てた。
火事にならないように念入りに火を消す。
遠くからサイレンの音が聞こえる。消防車が集まっているのだろう。
メフィストの構成員は中々現れなかった。
どっちにしろ、メフィストが滅びるのは決定している。私を殺す為に偽の依頼をでっち上げたのだ。十分にルールを侵している。
どうせ死ぬのだから、決死の襲撃で、私を殺しにくるだろう。
上等だ。返り討ちにしてやる。
そう思っていた。
「どうしたの?玲奈。口元が緩んでいるわ」愛菜が言った。
「緩んでねぇよ」私が愛菜を睨みながら言った。
「どうだか」愛菜はそう言うと、教卓ので頬杖をついた。
「殺すの、大好きなんでしょ?メフィストが沢山襲ってくるなら沢山殺せるね。とっても嬉しいんでしょ?」
「うるせぇよ」私はそう言って銃に銃弾をこめる。危うく装填を忘れるところだった。
「あの時もそうだった」愛菜は悲しそうに目を伏せて首を振った。
「13年前、玲奈が私を殺した時も、玲奈は笑っていたわ」愛菜はそう言うとイタズラっぽく笑った。
13年前、愛菜は難しい病に冒されていた。10年以上経った今でも治すことができない病で、徐々に体の動きが止まる恐ろしい病気だった。
元々精神的に不安定だった愛菜は完全に壊れてしまった。
そして。
愛菜は私に望んだ。
まだ、綺麗なうちに。
頭がはっきりしているうちに。
玲奈が大好きで、憎くならないうちに。
玲奈の手で殺してほしいと。
私の最初の殺しとなった。
「うるせぇよ。笑ってないし、あれはお前が望んだ」私は愛菜に向かって言う。厳密には幻覚の愛菜に言う。
そう。この愛菜は幻覚だ。
私の深層意識が見せる幻だ。
喋っている内容は、私が心の奥底で思っている不安や悲壮だ。
つまり、私は心のどこかで不安に思っているのだ。
愛菜が私を恨んでいるんじゃないかと。
私は愛菜を殺すべきじゃなかったのでは、と。
愛菜に責められるんじゃないかと恐れている。
そして。
私は思っているんだ。
夢でも、現実の幻覚でも。
いつもいつも、愛菜が今から口にすることが。
真実だったのではないかと、思っている。
「分かってるんでしょ?あの時私は殺してくれるように頼んだ。もちろんそれは私の願いよ。でも、本当は」愛菜が無表情で言う。
「玲奈と一緒に死んで欲しかったのよ。私はただ殺して欲しかったんじゃない。玲奈だったら、一緒に死のうって言ってくれると思っていた。そう言ってくれるのを期待して、殺してほしいって言ったのよ」愛菜が言った。
そうだ。
私は今でもそれが気がかりなんだ。
愛菜の本心を聞けなかったことを後悔しているんだ。
そして。
真実を、恐れている。
幻覚を見るまでに。
恐れている。
口を開く前に廊下が騒がしくなる。
ドアが開いてメフィストの構成員が入ってくる。
「死神」先頭の岩崎が言った。
「八頭司は殺したのか?まぁいい。死んでもらう」そう言うと銃を撃ってきた。
私は素早く教卓を盾にするように隠れるが、左足の怪我もあってか避けきれず、右肩に焼けるような痛みを感じた。
「相手は5人だよ。怪我がなかったら簡単なのにね。今回ばかりはもうダメだよ。死んじゃうんじゃない?」愛菜が言う。
普段を助けてくれるけど、今は助言をくれないみたいだ。
深層意識が死にたがっているのかもしれない。
だけど。
冗談じゃない。
「愛菜」私が口を開く。
「ごめんな。あの時一緒に死んでやれなくて。だけど私はまだ死ぬつもりはない」そう言って床に倒れ込みながら左手で岩崎に銃弾を打ち込む。
利き手じゃない方で撃ったが、ちゃんと岩崎の頭に命中した。
後ろのやつが散弾銃を構える。
立ち上がって右足で床を蹴り上げる。ジャンプしてナイフで殺す。
そのまま散弾銃を奪い取り、他の3人に撃ち込む。
あっという間に全員倒れ込んだ。一人だけ意識がある。
「愛菜。私はこれからも生き続ける。命を奪い続ける」私が愛菜の幻覚に言う。
「愛菜を忘れない為に生き続ける。愛菜が一生懸命生きた証を残す為に生き続ける。愛菜を殺した罪と一緒に生き続ける」私が愛菜に叫んだ。
「愛菜。それが私の答えだ。愛菜。ずっとずっとずっと。大好きだよ」そう言って私は床に倒れているメフィストの最後の1人に銃弾を撃ち込んだ。
「そう。玲奈」愛菜が微笑みながら言った。
「勿論私も、玲奈が大好きだよ」
「またね。バイバイ」そう言うと愛菜はふっと煙のように姿を消した。
エピローグに続く
エピローグ
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