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【小説】強盗に花束を エピローグ【創作大賞2023応募作品】

エピローグ

「私、お花とか詳しくないんだけど」高木さんが困ったように言った。

「俺も知らないよ。人生で初めて買う」少年強盗、改め橋本叶くんが言った。

「お店の人にお願いしましょうか」僕が言った。

事件から一ヶ月が経った。

あっという間の一ヶ月だった。

事件はワイドショーで幾度となく流されていた。

あの時、居合わせた客の一人が記者だったらしい。

その人がネットで記事を書いてしまった。

勿論名前はぼかされていたが、職員の高木さんと僕はあっという間の特定だ。 

ネットには僕たちの個人情報が溢れていた。

めっちゃ怖かった。

強盗より炎上の方が怖い。

後から僕はそう思った。

その後も警察の事情聴取やらなんやらで、3人で集まりたいと思っても中々その時間は取れなかった。

幸いにも橋本くんは未成年でもあるし、バタフライナイフも一応銃刀法に則れば違反ではなかった様だ。

僕も、わざわざあの子も強盗です、なんて言わなかった。

だから居合わせた客で、勇気がある少年、なんて警察はみなしたようだ。

本当は強盗団に入ろうとしていたんだけどな。

だけどこの子のおかげで助かった面もあるから秘密にしておいた。

橋本くんも目のまえでプロが捕まったこともあってか、強盗は二度としないと言っていた。

一ヶ月たって、世間は飽きて、風化した頃にようやく集まれた。

そして。

約束通り花を買いに来ていた。

「プレゼント、ですか。その方は好きなお花とかありますか?」店員さんがニコニコと笑顔で尋ねた。

そんなものを聞く余裕はなかったな。

僕はそう思って黙って首を振る。

3人でお金を払って、店を後にする。

花束はカラフルでとても綺麗だった。

「喜んでくれるよね」高木さんが静かに言った。

僕らは頷いた。

僕がそれを抱えて、3人で黙って歩く。

時々僕がスマホで道があっているかだけ確認する。

目的地を。

目指す。



 
「おお!自分ら、久しぶりやなぁ!よう来たな」おじさん強盗、改め木村剛さんは嬉しそうに言った。

病院の一室。

木村さんは入院していた。

打撲と肋骨の骨折で。

「ツレがな、こっそり果物持ってきてくれてん。でも俺果物苦手でなぁ。自分らよかったら持って帰り」木村さんが言った。

元気そうだった。

花束を渡す。

「ええやん。キクにガーベラ、そんでトルコキキョウやな。めっちゃ綺麗やん。匂いもええわぁ」木村さんは嬉しそうに言った。

「せやけど、自分らあんま経験なさそうやな。入院している人にキクとかNGやねんで?」

「え、そうなの?ごめんなさい」高木さんが言った。

実は僕はちょっとだけ思ってた。

どなたへの、どう言ったプレゼントなのか。

説明がちょっと難しくて、3人とも黙ってたら花屋の店員さんは勝手にお墓参り用だと思ったみたいだった。

説明が難しいから何も言わなかった。

「ああ。ええねんええねん。俺はほんまにそういう風潮大嫌いやから。お花なんてどれも綺麗やねんから、好きなやつを好きな時に送ればええねん。せやけど世の中しょうもないジンクスとか気にしはる人多いから、次は気つけや」木村さんが笑顔で言った。

「おっさんさ」橋本くんがそこで口を開いた。

「なんで防弾チョッキなんてしてたの?」

僕も、それが本当に気になっていた。

あの時、僕の盾になってくれた木村さんの胸には、女性強盗が発砲した弾が3発とも命中した。

そのまま意識を失った木村さんに僕らは死んだと思って縋りついた。

だけど、木村さんは衝撃で意識を失ってはいたが、命に別状はなかった。

胸を中心に打撲と骨折をしただけで、出血すらしていなかった。

防弾チョッキを着ていたから。

「いやな、ちょっとしたツテでな、チャカ売ってる売人に合わせてもらったんよ。事件の前にな。でもチャカは高かったからな。買われへんなって。そんで予算内で買えそうやったんが防弾チョッキやってん」木村さん言った。

「警察から逃げる時とかにあったら便利かなって思って着ててん。あんな風に役に立つとは思わんかったわ」木村さんは笑いながら言った。

「だから僕らの盾になるって言ってたんですか?」僕が尋ねた。

「当たり前やん。チョッキもないのに盾になれるかい。死んでまうやん」おじさんが大真面目に真顔で言った。

「でも、お墓に花を供えて、とか言ってたじゃないですか」高木さんが抗議する。

「言葉足らずやったな。ほら、時間もなかったし。防弾チョッキも万能じゃないからな。チョッキ以外の場所撃たれたら普通に死ぬで?だから、運悪く死んだら、そうしてくれやって話しやってん」木村さんが笑いながら言う。

全く。

人騒がせだ。

絶対死んだと思った。

だけど、それでも命の恩人であることには変わりない。

「ありがとうございました」僕は頭を下げた。

「かまへんかまへん」木村さんは手を振っていった。

「かまへんけど、恩に思ってるんやったら、裁判とかで証言してくれ。『あの人は最初から強盗に乗り気ではなかったです』って。包丁に防弾チョッキ。さすがに言い逃れできひんかったからな。橋本くんと違って俺は警察の厄介になることが決まってるからな」木村さんが言う。

「結構乗り気だったじゃないですか」僕が笑っていう。

「まぁまぁ。嘘も方便、って言うやろ?」木村さんが言う。

それぐらいなら証言しよう。

僕が笑ってそう言った。

「ありがとうやで。ほんま感謝やわ」木村さんが言った。

高木さんが、ハサミを持って花束の茎を切る。

花瓶に移し替えた。

「ほんま綺麗やな」木村さんが言う。

「俺な、強盗してな、その資金を元にお花屋さん開こうと思っててん」木村さんが言った。

「そうなんですか?」高木さんが言う。

「うん。でもあかんよな。悪いことして手にいれたお金でそんな店開いても、お客さんにも花にも悪いわ」

「だから、警察で罪を償ったら、もっぺん一から頑張ってみるわ。人生100年って言うもんな。俺はまだ折り返し地点や。もっかいちゃんと頑張ろ」木村さんが花を見ながらいう。

「すごくいいと思います」僕と高木さんが声を揃えて言う。

「兄ちゃんさ、やることなかったら一緒にやれへん?俺ら相性ばっちりやで」木村さんが橋本くんに言う。

「おっさんが帰ってきた時にまだ気が変わってなかったら手伝うよ」橋本くんがそう言った。

木村さんは嬉しそうに頷いた。

「ほんまにごっつ綺麗やなぁ」木村さんはまた嬉しそうに花瓶の花束を見て、つぶやいた。





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第1話



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