御本拝読「よちよち文藝部」久世番子

 大きい版のコミックスとして既刊されていた二冊を文庫で合本にした本書。日本・世界の著名な文学者や作品を、漫画で解説していく一冊。前半は日本の近代文学、後半は世界の古典を中心に。文庫版はぎゅっと凝縮された感が加速して好き。
 「漫画で解説!」「漫画で分かりやすい!」と謳った本って、大概あんまりおもしろくない(※偏見です)理由は多々あれど、描いてる人間のエゴや自己アピールの方が前面に出ちゃったり、漫画にしたことで余計ややこしく冗長になったりするからだと思う。描いてる人の「自分は分かってるのよ、あなたは分からないだろうけど」感が鼻につくこともある(※偏見です)あと、圧倒的に「オリジナルの漫画なら売れてはいないな」という絵柄や画力の作品が散見されることもある(※個人の感想)
 本書は、いっさいそれを感じないし、何よりも著者の久世さんの「愛」と「ユーモア」が惜しみなく発揮されている。まず、久世さん御自身が文学の全てを網羅し理解し愛好しているわけではない、ということが明確にされていて、「知らないものを一緒に学ぼう、楽しもう」という精神で構成されているので読みやすい。有名だけど読んだことない作品や文豪のことをさらっと知る→興味を持つ→ちょっと読んでみる、という読書の入り口の入り口として最適なのではないか。
 文豪への「愛」も、熱心なファンや盲目な信者としてではなくて、それをちょっと遠いとことろから観察して分析している。だからこそ程よく距離があって的確。面白エピソードもたくさんだけど、意外な事実や良くも悪くも「らしい」エピソードも満載。それをこの短いページにきちんと収められる久世さんの漫画の力がすごい。
 おおまかに、日本文学編は著者の人格や人生についての話が多め、世界文学編は有名な作品の解説やあらすじの話が多め。もともとその文豪や作品が好きな人・読んだことがある人にも、「そういう見方があったか」「そうそう、そういう話だった」と面白く読めるので安心。何より、久世さんや相棒の編集者さんたちが読むのを挫折したという話もたくさんあって、個人的にそこが一番安心
 本を仕事にしてる人たちですら、読んでいない本や苦手な本がある。それをさらっと愉快なトーンで言われると気が楽になるし、そもそも古典や文豪や偉いわけでも押しなべて名作というわけではない。だからこそ、気が向いたら手に取ってみる、というスタンスでいいんだと思わせてくれた。
 正直、私も本は好きだし文豪も好きだけど、読んでない名作も好きじゃない文豪も星の数ほどある。文章に苦手意識が、とか、作者や題材が嫌いで、はあまりないものの、存命の作家の新刊が出たらそっちを優先して読んでしまうし、そもそも普通に毎日仕事してるので時間も無限にあるわけではなく「昔の作品、今さら……めんどくさいな……」という気持ちが勝ってしまう。そんな疲れた大人に、もうちょっと頑張って読んでみようかなと思わせてくれる一冊。
 

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?