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【超名作】『法廷遊戯』観ましたー。(ネタバレあり)



はじめに

 prime videoで独占配信が始まった五十嵐弁護士原作の『法廷遊戯』鑑賞完了致しました。主演はKing&Prince永瀬廉さんで、そのほかに杉咲花さん、北村匠海さんが重要な役でキャスティングされています。
 当初何の前提情報もなく観始め、法廷遊戯の”遊戯”という語感から逆転裁判的な作風を連想していたのですが、観ているうちにかなりハイレベルな内容と脚本なため、これは原作法律家の人なのでは…という印象を受け、あとで調べてみたらやっぱりそうでした。

 今まで私が観てきた法廷ドラマ系の作品と云うと堺雅人さん、新垣結衣さん主演の『リーガルハイ』、天海祐希さんの『離婚弁護士』など、コメディ要素を入れた作品か、松本潤さん、香川照之さん主演の『99.9-刑事専門弁護士-』などあまり現実的ではない作品が多かったように思います。

 しかし、本作はただ暗記した条文を諳んじたり、饒舌な弁論を披露し早口論破で相手を圧倒したり、法律の抜け穴を突いて勝訴を掠めとるようなありきたりな作品ではありません。
 思わず、唸ってしまうような論点と手法を扱っており、作者の五十嵐弁護士の思想が色濃く表現されていたので、記録したいと思いました。

個人的な評価

ストーリー  A+
脚本     S
構成・演出  A
俳優     S
思想     S+
音楽     A
バランス   A
総合     S

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ

内容冒頭のあらすじ

 内容的には、高校時代の織本美鈴(杉咲花さん)が、駅の階段で男性と共に落下する回想シーンから始まります。

 そこから数年後、ロースクールに通う学生たちの様子が描かれます。主人公の"セイギ"こと久我清義(くがきよよし)(永瀬廉さん)と織本美鈴が通うロースクールでは、勉強漬けの生活の気分転換的な遊びとして、無辜ゲームという簡易な刑事裁判が開かれていました。 
 学生たちの間で何か揉め事が発生すると、任意で無辜ゲームが開催され、大学構内の廃棄場で白黒を決めるというアニメ機動戦士ガンダム水星の魔女の決闘システムのような自律的な紛争処理手続です。

 無辜ゲームを主宰し、裁判長を務めているのは、在学中に司法試験に合格した結城馨(北村匠海さん)という優秀な学生です。彼は、他の学生と比べて独特な法律観を持っていて、

 「冤罪と無罪の違いは?」という講師の質問に対し、他の学生が「罪に問われない結論は同じですが、冤罪は一度有罪宣告を受けてから逆転で無罪を勝ち取ることを言います」と、無難な回答をしたのに対し、

 彼は「有罪か無罪かは裁判官が決めますが、冤罪かどうかは神様しか知りません。たとえ裁判で死刑判決を受けていたとしても、その人が罪を犯していなければすべて冤罪。またその犯した罪に対して重すぎる刑罰を科すことも問題です。無罪は検察が立証に失敗した結果に過ぎません」と、独自の考えを答えました。

 ある日、清義が自分の勉強机に戻ると、机上に清義の過去の殺人未遂を告発する内容の紙が置かれていました。清義と美鈴は児童養護施設育ちで、その施設長に美鈴が強姦されそうになったところを清義はナイフで切りつけて守った過去がありました。
 清義はこの件で無辜ゲーム開催を要請し、紙を置いた犯人を特定しますが、その行為を行った学生は自分のロッカーに置いてあったものを置いただけで、それ以外は何も知らないと言って退学しました。

 それ以外にも、清義と美鈴の過去を糾弾する内容の怪文書がふたりが住むアパートに届きます。実は、先の殺人未遂事件以来、施設を追い出された美鈴は、電車内でわざと痴漢させては通報をちらつかせて相手の男性からお金を巻き上げて生計を立てていました

 そんなある日、馨に呼び出された清義は、馨から自分は幼少時に母親を病気で亡くし、父は自殺した旨を伝えられます。馨曰く、父は強くて優しくて立派な人物だったこと、自分に何かできることがなかったのかといまだに悔いている、と打ち明けられます。
 そして、「もし僕の身に何か起こったら、竜胆の花を持って墓参りに来てほしい。父が入っている墓があるんだ。そこに竜胆の花を手向けてほしい」と、清義にお願いしました。
 ※竜胆の花言葉は以下のとおりです
  白:貞操、誠実な人柄
  紫:満ちた自信
  青:誠実、正義、寂しい愛情
  赤:愛らしい

 それから二年後ー。清義と美鈴は司法試験に合格し司法修習を終え、無事に弁護士になりました。一方、馨は法学研究者として大学に残っていました。馨から「久しぶりに無辜ゲームを開こうと思う」と呼ばれた清義が赴くと、そこにはナイフを胸に突き立てられ仰向けで倒れ死亡している馨と、血塗れの美鈴がいました。
 美鈴は言います。「お願い清義。私を弁護して」と。





感想(ネタバレあり)

 この映画は、父がやられたことをそのままやり返すことによって、父の冤罪を晴らそうとする息子の、命を犠牲にした劇場型犯罪の物語です。
 しかし、作中で馨は復讐がしたいわけではありません。ハンムラビ法典の「目には目を。歯には歯を」という有名な同害報復の理論を、憎しみで同じことをやり返す手法ではなく、『同じ被害を与えれば許す』という寛容の理論と捉えています。
 また、馨が責めているのが清義や美鈴だけでなく、父の冤罪を見抜けなかった検察や裁判所といった司法システムそのものにも向けられている点が斬新でした。

 アメリカなどですと、裁判で勝ちさえすれば正義、強い方が正しい、勝利者が善という思想が蔓延している気がしますが、やはり日本人である我々は『強い方勝った方が正義ではなく、正道をゆく者が正義である』という思想に心打たれます。
 きっと作者である五十嵐弁護士がそういう御方なのでしょう。感動しました。人生に旗を掲げて生きている人間には、自分の命よりも大事なものがあります。その事実を感じさせてくれる作品でした。


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