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みんなの本棚をつくろう―あなたの○○な1冊を教えてください―

私の職場で「みんなの本棚をつくろう」という企画がある。テーマは3つ。
1.旅にまつわる1冊
2.子供時代に読んだ思い出の1冊
3.イチ推しの1冊
1つのテーマに1冊ずつ自分が推す本を紹介するというもの。
テーマ1つにつき300字までの文字数制限がある。(書誌情報は除く)
私が選んだ名刺代わりの3冊、良かったら覗いてみてください。

1.村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』紀行文集(文藝春秋 文春文庫 2018年4月10日第一刷)

これは筆者が約20年ほどの間に、世界の様々な場所を訪れたときの旅行記をいくつかの雑誌のために書いた原稿でそれらを1冊にまとめたものである。主にJALのファーストクラス用雑誌「アゴラ」会員誌に掲載されたものが中心。本書のタイトルは、筆者が中継地ハノイで「これからラオスに行く」と言った時、ベトナム人から発せられた質問である。そして、筆者は言う。「そこに何があるか前もってわかっていたら、誰もわざわざ手間暇かけて旅行になんて出ません。」村上春樹が世界をどのように旅するのか思わずそこへ行きたくなるような魅力的な旅の本。

2.ヒュー・ロフティング 金原瑞人/藤嶋桂子共訳『ドリトル先生アフリカへ行く』(竹書房 2020年4月6日初版第一刷)

恐らく誰しもが小学生の頃に読んだ経験があるのではないだろうか、ドリトル先生シリーズ。井伏鱒二訳の他にも多くの人に翻訳されている。ヒュー・ロフティングは第一次世界大戦で負傷した後、アメリカへ移住しドリトル先生シリーズを出版した。きっかけは、戦地から自分の子供たちへ送る手紙にしたためた、動物と話せるドリトル先生の物語から始まった。それはある意味、戦争に対する抗議でもあったと息子が証言している。2020年には100周年記念版が刊行され、差別的な表現や内容を改め完全新訳となっている。サイズやデザインも一新され、かつて子供だった大人たちも楽しく読める一冊。

3.ルシア・ベルリン 岸本佐和子訳『掃除婦のための手引き書――ルシア・ベルリン作品集』(講談社 2019年7月8日第一刷)

死後十年を経て、リディア・デイビスにより再発見された作家の短編作品集である。ほぼ作品の全てがルシア・ベルリンの経験に基づいて書かれている。とても一人のものとは思えない波瀾万丈な人生。アラスカ生まれの彼女の人生はアメリカ西部からテキサス州エルパソ、チリのサンチャゴへとアメリカ大陸を縦断するように移行していく。多種多様な職業経験を見るだけでもその人生の壮絶さが伝わってくる。色彩豊かな感性、痛みを伴う日常の切り取りをグリップの強い文体で読者の心をガシッと掴むのである。レイモンド・カーヴァーにも影響を与えたルシア・ベルリン。アメリカ文学の新しさと親しみやすさに触れてみて欲しい。

以上のような内容になりました。読んだことがある本もこうしたきっかけを通して改めて発見することがあります。私が実際、小学生だったころの『ドリトル先生』シリーズ12巻はすべて井伏鱒二が翻訳していたことを今回改めて知らされた次第です。これには、驚愕でしたが、訳者あとがきにあったようにヒュー・ロフティングが『ドリトル先生』シリーズを執筆したきっかけが子供たちに宛てた手紙の中から誕生したことや、実は反戦の意味も含まれていたことに気づきました。ヒュー・ロフティングの意図に井伏鱒二が共鳴したのかもしれません。想像でしかありませんが、そうした時代背景を鑑みながら読みかえすと、深い感慨を覚えます。
何よりお金がそんなに大切ではないのだという静かなメッセージも含まれているように感じられました。
今回、推した本の隠れテーマは「アメリカ文学」でした。

あなたなら、どんな推しの3冊を選びますか?良かったら、教えて下さい。
繋いで下されば嬉しいです♡


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