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突然ざわめきが【第一回】:『THE BLUE HEARTS』

俺にはそもそも音楽の素養だとか知識が圧倒的に少ない。15歳までアニメの主題歌ぐらいしか曲を知らなかったし、ある程度の年齢までこの世のバンドの曲は全部BUMP OF CHICKENが歌っているんだと思ってた(父がBUMPファンだった)。小学校高学年から高校生の途中までボカロやアニメだけ詳しくてそれ以外は何も知らない、おおよそ平均的なヲタクの姿だった。今もそこで培われたヲタク的語彙を用いることでしか音楽を語ることはできないし、楽器のことが何も分からないから、音楽的な裏付けもない。何に突き動かされて今ロックを聞いているのか、そんなことはまったく俺でさえ分からない。
けれど、俺はアニメの主題歌(ケロロ軍曹の主題歌を吉本芸人が歌っていた時期ぐらい)を聞いていた幼少期からボカロや様々な音楽を経由して現在はロックバンドを好むようになって、その中で、かつて聞いていた音楽たちの中に、ただ一つも情けのないものや恥ずかしいものなんてない。正しい音楽の聞き方や語り方はなく、間違ったものだってない。そういった心構えの元、この連載をやっていきます。



ブルーハーツって人を愛することを諦めていない。

だから親愛なる人よ その間にほんの少し
人を愛するって事を しっかりとつかまえるんだ

「チェインギャング」

もしも僕がいつか君と出会い話し合うなら
そんな時はどうか愛の意味を知ってください

「リンダ リンダ」

これらの愛は直接的な行為以外のことも指している。たとえ自分の元にいなくても、あなたがそこで健やかに、誰かを真っ直ぐ愛せることを祈っている。あなたが幸せに生きていられるのなら、その傍に自分がいなくても構わない、そこには人を愛する覚悟がある。

ブルーハーツの歌を聞いていると、ありがとう…って思うんだよな。僕の感情に直接リンクしている歌でなくても、とにかくありがとう…って。

歌には詩や歌唱やMVから読み取ることができる物語がある。でも、当然だけれど、常にその歌の真意が明かされることはない、もしくは自分から求めにいかなければ知ることはできない。だけど、何も知らない状態でも、歌に重なる僕の物語や感情がある。そうしたらその歌のことがさらに好きになる。好きな歌って僕はそういう事だと思うんだ。『泣かないで恋人よ』を聞いている時は、僕には愛すべき人がいたように思えてくるし、慰めたかった恋人がいたように感じる。

こんな事を語っておきながら、僕は正直、ロックバンドの愛や恋の文脈で歌われる「きみ」や「あなた」のことがずっと理解ができなかった。だってそんな人僕にはいないから、理解しようと思ったこともなかった。でもある日急にわかった。って言ったら、少し嘘みたいかもしれないけど、本当に急にわかったんだ。

恋人や好きな人がいる部分に共感しているからではなくて、愛おしい人や存在を想う張り裂けそうな感情の部分に僕の心が乗っかった。その時、ああ分かった、って今まで分からないまま聞いてきたロックバンドが僕の傍に寄ってきた気がして、そのまま懲りずに今まで聞いている。

また、ブルーハーツは”誰かを愛すること”以外にも、”明日何かが大きく変わってしまいそうな、でもやっぱり何も変わらない気もするような思春期の人の心”を描くのに長けていたと思う。だから僕は高校という灰色の生活の中、受験とそれ以降の将来を見据える事を求められる苦しさの中で、ブルーハーツと出会えた。そしてCDから彼らは叫び歌ってくれた。

人にやさしくしてもらえないんだね。と突然言われる、本当に突然に。

人は誰でも挫けそうになるもの
ああ 僕だって今だって
叫ばなければやりきれない思いを
ああ 大切に捨てないで
人に優しくしてもらえないんだね

「人にやさしく」

↑なんで知ってるんですか!?
初めて聞いたとき、そう思った。今も思っている。なんで知ってるんですか?!泣泣
他人に優しくしてもらったことなんてたくさんある。温もりに触れていたはずなのに、俺が、誰にも優しくできない日々を進み始めてしまう。そういう日が続くと俺は誰からも優しくしてもらえない気がしてくる。脱出という行為を日常の中に求めていて、しかし僕たちはどこへも行けない。誰からの激励も受けられない人生が続いていくような、暗い俯きがちな気持ちが僕を支配する。そんな毎日の中で、

僕が言ってやる でっかい声で言ってやる
ガンバレって言ってやる
聴こえるかい ガンバレ

「人にやさしく」

ヒロトだけが僕に頑張れって言ってくれた。これは完全な捏造だ。僕の人生で、僕に頑張れと言ってくれた人がどれだけいたことか。だけれど、ブルーハーツのガンバレだけが頭から離れない、これだけが本当だって思う。彼らにそんな力があるのはなんでだろうか、僕は、彼らは本気だからだって思う。泣かないで恋人よとか、TOO MUCH PAINとか、ラブレターとか、ただ恋人や相手の幸福を願っている。最も全ての根幹に優しさや愛が詰まっているから、僕はそれを信じてしまう。ブルーハーツから与えられる優しさが、僕の父や母、もしかしたら今までの僕の担任とか、インターネットで出会ったあの人とかも、救ってきたんだろうな。

目の前が薄汚れた瞬間、今は瞼を閉じているだけに違いないって思う瞬間。それを真っ直ぐな瞳で見つめる僕がいる。中途半端に成長をして歪んでしまった背骨を見ている。そういう時はいつもブルーハーツを聞いていた。ガンバレが力を失うことはなかったし、湧き上がるいくつもの思いが彼らによって更に温度の高いものになっていく感覚が好きだった。
僕を切り崩したら現れる少年は、親でもない、兄弟でもない、友人でもない、けれど誰よりも分かってくれる彼らに救われ続けている。



(執筆者:輝輔 @gv_vn8



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