須永和宏

家裁調査官、大学の心理学教員などを歴任。プロテスタントの神学校を卒業、現在カトリック信…

須永和宏

家裁調査官、大学の心理学教員などを歴任。プロテスタントの神学校を卒業、現在カトリック信者。教育関係の著書に『親子の葛藤が晴れるとき』『子どもたちのメンタリティ危機』『生きられる孤独』、信仰の書に『いのちを紡ぐ 聖人たちのことば』『信仰の秘訣』『祈り その小道を歩く』などがある。

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  • 思春期の子どもをもつ母親への心理学講座

  • コロナ時代を生きぬくための聖書のことば

最近の記事

〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その12:悲しみを訴えられない子どもたち

🔹感情表出が不得手な子どもたち 近頃、大人(とくに親)の前で自分の悲しみを訴えたり、涙をこぼしたりする子どもが急に減ってきたように思う。 これは単なる私自身の感触にすぎないかもしれないが、とにかく今の子どもたちは悲しみやつらさを訴えたい気持ちを山ほどかかえているにもかかわらず、訴えられないでいるのである。   私達親は、我が子が悲しそうな、つらそうな表情をしていれば心配になり、つい「どうしたの? 言ってくれなきゃ分からないでしょ」といった性急な対応をしてしまうことがよくある

    • 〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その11:マルトリートメント(不適切な養育態度)がもたらすもの

      🔹育児がつらいと訴える母親たち 近頃「子どもを好きになれない」とか「子どもが可愛く思えない」と訴える母親たちが増えている。驚くことに乳幼児をもつ母親の8割から9割がそのような思いをもつという。   「育児がつらい」といったグチや不安ならば、これまでにも身近に聞かれたことだが、「我が子を愛せない」ということになると黙って見過ごすわけにはいかない。   では、そのような思いをもった母親は、実際、子どもにどう接しているのか。   我が子に向かって、ついつい「あんたなんか嫌い」とい

      • コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(20)~守護の天使に守られて

        神様が天使を送ってライオンの口を閉ざしてくださいましたので、わたしはなんの危害も受けませんでした。                          ダニエル書6章23節 聖書のところどころに天使(御使い)が登場します。 私たちは、三大天使といわれる聖ミカエル、聖ガブリエル、聖ラファエルのことはどこかで聞いたことがあるでしょうが、守護の天使についてはあまりピンとこないのではないでしょうか。   しかし、冒頭の聖句に書かれた天使は、ダニエル自身にたえず付き添っていた天使だった

        • 〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その10:子どもを追いつめる親の対応

          🔹門限を守らなかった中二の女の子 中二になる女の子の事例である。親御さんの話では、小学校を終えるころまでは学業成績、スポーツとも優秀で、まったく心配はなかったという。 それだけに親にとって自慢の娘だったと言えよう。   中二になったばかりのある日、家庭の決まりでは午後六時を門限としていたが、定刻をすぎても娘は帰ってこない。 心配になって母親は娘のケータイに電話を入れるも不通。 しかし、三十分ほど遅れて「ただいま!」と声がしたので、母親は急いで玄関に迎えに出ると、友達の

        〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その12:悲しみを訴えられない子どもたち

        • 〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その11:マルトリートメント(不適切な養育態度)がもたらすもの

        • コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(20)~守護の天使に守られて

        • 〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その10:子どもを追いつめる親の対応

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        • 思春期の子どもをもつ母親への心理学講座
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        記事

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(19)~幸いなのは神の懲らしめを受ける人

          主よ、あなたは罪に陥る者を少しずつ懲らしめ、 罪のきっかけを思い出させて人を諭される。 悪を捨ててあなたを信じるようになるために。 知恵の書12章2節 このみ言葉は、ある日の教会のミサで聞いた第1朗読の箇所でした。 ここでは罪の問題が取り上げられておりますが、その中の「少しずつ懲らしめ」とか「罪のきっかけを思い出させて」という表現が、殊の外私の心

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(19)~幸いなのは神の懲らしめを受ける人

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その9:子どもの「腹立ち」にどう対処すればよいか

          🔹なすにまかせて うぐいすを聞く   腹立ちて   炭まきちらす   三つの子を   なすにまかせて   うぐいすを聞く 冒頭に掲げたのは与謝野晶子の歌である。  いかにも古い時代の炭と風情ある鶯が出てくるから、季節は、たぶん冬から春にかけてなのであろう。 幼い子どもがちょっとしたことでカンシャクを起こすのは、昔も今も変わらない光景ではある。 しかし、作者はそれにたいして何らあわてる様子もなく「うぐいすを聞く」といった態度で鷹揚に構えている。   こんなとき、私達は果して

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その9:子どもの「腹立ち」にどう対処すればよいか

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その8:大事なものを忘れてきた母親

          🔹妻からの率直な感想 本連載にたいして、何人かの方が好意的な感想を寄せてくださったが、四十年以上連れ添ってきた妻からは、つぎのようなシビアな疑問が呈せられた。 「たしかに子育て中の母親には参考になるとは思うけれど、子どもとの会話で、どういう言葉を返したらよいかを、いちいち頭で考えながら子どもに向き合っていたら、かえって神経をすり減らして、ノイローゼになってしまう人も出てくるのではないかしら」と。  ずいぶん前に子育てを終えてしまった妻の率直な感想ではあるが、なるほどそんな

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その8:大事なものを忘れてきた母親

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(18)~悲しみからの再生

           喪の調べをわたしの竪琴は奏で  悲しみの歌をわたしの笛は歌う             ヨブ記30章31節 ある日、予期していなかった悲劇が突如として襲い、それによって、その人の人生が一変してしまうということがあるものです。 その結果、ヨブのように絶望と悲しみのどん底に沈み、一人しずかに「悲しみの歌」を歌わざるを得なくなります。   入江杏さんという方が、まさにその一人でした。 入江さんは、あの世田谷一家殺害事件(2000年12月30日に起きた事件で、いまだ未解決となってい

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(18)~悲しみからの再生

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その7「ダブル・バインド」としてのコミュニケーション

          🔹ダブル・バインドとは 横文字の連載タイトルを付けたが、それほどむずかしいことを論ずるつもりはない。今回も肩の力を抜いてお付き合いただければと思う。   ダブル・バインド(二重拘束)とは、簡単に言えば、発せられる言葉と伝えられる感情(気持ち)が矛盾したまま同時に伝えられてしまうコミュニケーションのあり方のことをさしている。 つまりコミュニケーションの受け手が伝え手から二重のメッセージを受けとった際、どちらのメッセージが真意なのかを測りかねてしまい、身動きができなくなってしま

          〔連載〕思春期の子どもを持つ母親への心理学講座 その7「ダブル・バインド」としてのコミュニケーション

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(17)~人は目に映ることを見るが、主は心によって見る

          主はサムエルに言われた。「容姿や背の高さに目を向けるな。わたしは彼を退ける。人間が見えるようには見ない。人は目に映ることを見るが、主は心によって見る                    サムエル記上16章7節 もうだいぶ前のことになりますが、1980年代末のバブル景気全盛期にうら若き女性の主流層が結婚相手の条件として「三高」を求めたという経緯があります。この言葉が一時流行語となりました。「三高」とは高学歴、高収入、高身長のことです。このように伴侶に対する人間の要求は旧約の

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(17)~人は目に映ることを見るが、主は心によって見る

          〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その6:「かみ合った会話」をするには

          🔹良好な親子関係としてのキャッチボール ふだんの親子間の会話は、よくキャッチボールに例えられる。親が直球のいいボールを投げてあげれば、たぶん子どもはナイスキャッチできるはずであるが、いきなりカーブなどの変化球を投げたら、それこそ取りそこなって、あわててしまうかもしれない。 だからといって、いつも、いいボールばかりを投げ返してあげればいいというものでもないであろう。   大事なのは、いい球を投げてあげることではなく、いかに親子が良好なキャッチボールをつづけられるかという点で

          〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その6:「かみ合った会話」をするには

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(16)~わたしはあなたの名を呼ぶ

          恐れるな、わたしはあなたを贖う。 あなたはわたしのもの。 わたしはあなたの名を呼ぶ。            イザヤ書43章1節 振り返ってみると、私は小・中学校を通して担任教師から出欠を取られる以外は、ほとんど私の名前を呼ばれた記憶がありません。それは私自身が目立たないおとなしい性格だったからかもしれませんが、もしも教師から一言でもやさしい声掛けがあったら、どんなにか慰められ生きる勇気が湧いたことでしょうか。 ところが、ひょんなことから大学の教員となって急に子ども時代のこ

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(16)~わたしはあなたの名を呼ぶ

          〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その5:オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

          🔹学校はどう? 我が子を初めて小学校に入学させた親御さんの共通の思いは、果してうまく適応してくれるだろうか、友達もたくさんできるだろうかなどといった心配事であるにちがいない。したがって学校から帰宅すれば、勢い我が子の顔色を見ながら、学校の様子をたずねることになろう。 たとえば、こんな問いかけで。 「学校はどう?」   そのような親の質問にたいして子どもは、半ば首を傾げながら「べつに・・」とか「ふつう・・」などといった答えをしてくるかもしれない。なぜなら、子どもにとって質問

          〔連載〕思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その5:オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(15)~低きにくだる神

           主は御座を高く置き  なお、低きに下って天と地を御覧になる。                  113編5~6節 これまでさっと読み飛ばしていたのですが、ごく最近、この聖句に出合って目からうろこの思いをしています。 ここでは天の高い御座にどっしりと腰を下ろして地球上の一人ひとりを見守っておられる神さまの存在というにとどまらず、「低きに下って」天と地を御覧になる神さまの姿に初めて気がついたからです。つまり、ここでは神さまみずからが地上に下りて来られて、私たちの歴史に直接介

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(15)~低きにくだる神

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(14)~待ち伏せする神

          サウロが旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。サウロは地に倒れ、「サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。                       使徒言行録9章3節~4節 フランスの作家フランソワ・モーリャックが書いた作品の中に『イエスの生涯』という名著があります。若い頃手にしたものの、その時は特に心を引かれないまま本棚の奥にしまい込まれてしまったのですが、このたび取り出して改めて読んだところ、最後にパウロの

          コロナ時代を生きぬくための聖書のことば(14)~待ち伏せする神

          [連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その4:たかが三文字ではあるけれども

          🔹永久言語としての「いつも」 すでにふれたことだが、我が子が自分の部屋の後片づけをしない、歯をしっかりと磨かない、朝夕の服の着脱ものろいといった場面に遭遇して困惑することは日常茶飯事であろう。そんなときお母さんは、ついイライラして「何をぐずぐずしているのよ」といった言葉を口にし、さらに「あなたって、いつもそうなんだから」といった追い打ちの言葉をかけてはいないだろうか。 そのダメ押しに反応し、子どもによってはカッーとなり、親に口応えをするかもしれない。実は、この「いつもそう

          [連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その4:たかが三文字ではあるけれども