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抱っこはママを見るため

ああ、今日も、いぬうた市に陽は落ちて、
そろそろ、きゅん君と、ぐーちゃんの家では、
夕飯の時間に差し迫ってきました。
1階のキッチンではママが何やら調理中で、
横のダイニングルームには、早くも、
きゅん君と、ぐーちゃんが夕飯スタンバイしています。
「まだかなあ。まだかなあ。お夕飯まだかなあ」
ぐーちゃんは歌をつぶやきながら、ママをひたす凝視中で、
で、きゅん君といえば、そわそわしきりです。
「ママは今、料理を作っているのか?それとも果たして、僕らのフードを皿によそっているのか?一体どっちだ?それが僕が今いる床のこの低いポジションからはカウンターが邪魔してよく見えなくて、分からん。分からん。さてどうすればいいものぞ」
そこで、きゅん君、辺りをキョロキョロ見渡します。
すると同じダイニングルームにいて、
テーブルのある椅子にドカン!と座っている、
ヤカラがいるではありませんか。
飼い主という名のどうしようもないヤカラが。
そこで、きゅん君に名案がひらめきました。
「そうだ!あの今飼い主が座っているポジションこそ、絶好のママ監視スポットではないか!あそこからなら、ママが今、僕らのフードをよそっているか?否か?が一目瞭然だ!しかし、しかしだぞ」
ここで、きゅん君、逡巡します。
「あのポジションに行くということは、イコール飼い主のヒザ上に行くということ。それはすなわち抱っこである。飼い主に抱っこされるなんて、今更、僕のプライドが許さない。しかし、あの高台に行かないとママの真実が見えない。さて、どうするものぞ」
ここで、きゅん君、更に名案がひらめきました。
ご飯がかかっていると、無尽蔵にナイスアイデアが浮かぶ、
きゅん君なのです。
「そうだ!ここは幾分考え方を変えればいいんだ!あの飼い主のヒザ上はただのモノにすぎない。ただの単なる台にしか過ぎないと思えばいいのだ!あれは僕らの見晴らし台だ!希望が見渡せる見晴らし台なのだ!」
なるほど。そう考えましたか。きゅん君。
確かに、きゅん君にとっては
あのヒザ上は希望ヶ丘の1番丘の上の、
見晴らし台といったところでしょうか。
でも飼い主はそう思いますかね?
思い立ったが吉日といったばかりに、
すぐに、飼い主のヒザ上に飛び乗りましたが、
飼い主、きゅん君のその行動が、
とても嬉しかったみたいですよ。
その証拠に飼い主は、ヒザの上の、きゅん君を、
ギュッ!と抱きしめたではありませんか。
その時の、きゅん君の心情といえばこうです。
「我慢、我慢だ。きゅん。これは一見抱っこに見えるが、実は抱っこにあらず。飼い主はただの台に過ぎず、全ては、キッチンにいるママの行動をくまなく監視するためのこと。だから我慢。我慢」
と、そう心の中で唱えながら、目は必死で、
キッチンのママを追っていた、きゅん君です。
全ては夕食のフードのため。

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