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きもの本棚⑯青木奈緒さんの本で、着物の過去と未来を知る

青木奈緒さんは映画で話題の『木』を書かれた随筆家・幸田文さんのお孫さんだ。著書『きものだより 他が袖、わが袖』とは二子玉川の蔦屋書店で出会った。茶道雑誌『なごみ』での十二ヶ月に渡る連載テーマは、幸田文さんが奈緒さんのために誂えた「濡れ描き」の手描き友禅のイマから、取材がスタートする。訪問先には、茶席では着ない「伊勢木綿」や「デジタル捺染」が含まれていた。多くは「〇〇〇を復刻する」などして、市場にのせた作家さんたちだった。思えば、昭和の卒業式、体育館に並んだお母さんの黒い羽織。再び、主流になる日はこないけれど、枯れた木の下には日差しを受けて萌芽する別な植物の姿がある。それを見つけましょうという取材なのだ。穏やかな文章には、男っぽい視線がある。

取材中の着姿のお写真は扱いがモノクロだったので、『幸田家のきもの』を読んでみた。奈緒さんの着物の多くは幸田文さんが見立てで、その中に「濡れ描き」の友禅はあった。モチーフの花は思いの外、大きく、お鍋の蓋くらい? 色彩も豊かで、オートクチュール並み。フランス・ナントの音楽祭の会場で喜ばれたそう。

さて、文さんは奈緒さんが小さい頃に反物を買っていたそうだ。私は何十年も先を見据えて揃えるのが着物なのだと、知った。私が三味線の発表会用の着物を探し始めた頃は、売り手がネットショップに掲載する着物や帯が一点限りなのは、奇妙な行為に思えた。焼き物でさえ、何点かは用意されている(個体差アリだけど)というのに。着物に関してはチラシも、店頭の在庫も同じだった。今回、改めて思ったのは、着物というのは、お仕立ても含めた受注生産が基本なのだ。経験が豊富で、文さんや奈緒さんのように「こんな着物が欲しい」と具体的に言えるなら、必要な期日に合わせて好みの品を自分発信で求められる。一方、どんな着物を着たいかがあやふやで、目の前に並んだ反物の中から、用途に合うかどうかだけで選ぼうとすると、押し売りされていないかが心配で、買えない。こちらの方がいいわ(マシだわ)と野菜を買うのとは違うのだ。

唯一、私が選び易いのは木綿で、柄や質感がある程度、限られる木綿着物なら、並んだ反物の中から、好きな一点を見極められる。本にも、伊勢木綿は売り上げが伸びているとあった。

最後に、2023年12月22日のオリコン洋画館ORICON NEWSにあげられていた、映画『PERFECT DAYS』の『木』の登場シーンの映像を紹介しておく。

奈緒さんの箪笥の中には、季節の花が溢れている様子だった。十代の頃の着物も、譲り受けた着物も、存分に着ていらっしゃる。幸田家・青木奈緒さんの着物については、三年目になった頃に再び、掘り下げてみたい。
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