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わらうねこ

 小さな猫が五匹、軒下に住み着いて、体を寄せあって眠っていた。
 それを見つけた少女は、きっと捨てられたのね、と思ったが、そのうち五匹の猫のあたたかさとやわらかさをすっかり気に入ってしまった。軒下に潜り、五匹の猫と一緒に眠っていると、とても安心した。そのふわふわとした毛をなでていると、とても慰められる思い位がした。少女も孤独だった。
 少女は台所から鶏肉をもってきて猫へやった。五匹の猫たちはとても喜んでそれをなめていたが、一匹だけ食べない猫がいた。その猫はとても細く、尖った顔をしていた。飛び出た顎からは、長い牙がつきだしている。まるですぐにでも噛みつけるぞ、と脅すように。
 少女はそれでも、その猫へ餌を与えた。猫は少女の指先を少し噛んでから、少しだけ餌を食べた。少女は少し安心し、自分も鶏肉をかじった。
 もう一匹の猫は、餌を与えると、左右の口を大きく広げて、にーっと笑う。少女はその顔がとても好きで、また餌をあげた。猫はぺろぺろと餌をなめて食べてしまうと、またにーっと笑った。少女はとても嬉しくなった。
 少女はそうやって五匹の猫たちに餌をあげ、一緒に眠った。猫たちはそのうち大きくなって、もうすっかり大人の猫になっていった。それでも軒下に住んでいて、少女は猫たちが大人に見つからないか心配でしょうがなかった。
 額にとさかのような逆毛がある猫は、他の猫たちとは少し離れたでこぼことしたところで寝ている。少女は寝心地をよくするためにでこぼこをそっと取り除いたが、とさかのある猫はずっと眠ったままで気づかないようだった。少女は他の猫をふんづけたりしないようとても気をつけて過ごした。
 にーっと笑う猫も丸くなって寝ている。自分だけの心地の良い場所を見つけたようですやすやと眠っていた。
 ある日、家が壊されることになった。大人たちの都合だ。それではそこに住む五匹の猫たちの居場所がなくなってしまう。少女の居場所もなくなってしまう。
 だから少女は一匹ずつ猫を捕まえると、首を捻って殺していった。猫はピンクの舌をだらんと垂らして死んだ。二匹目の猫は目玉が飛び出した。
 尖った顔をした猫は細い体をぶらんとさせて少女に縊り殺された。尖った牙がにょっきりと生えているのが見える。もう誰にも噛みつけないだろう。
 それから、もう一匹を縊り殺す。これで四匹目だった。
 この軒下と猫は一緒のものだ。家が壊されるなら猫も死ななければならない。少女は強く感じた。
 少女はすやすや眠る猫へ手を伸ばした。猫はその気配に気づいて目を覚まし、にーっと笑った。
 少女もにーっと笑って猫を縊り殺した。
 笑いながら涙がこぼれた。
 
 ――了――

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