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Startup Story: Clubhouse - ローンチ前から$100Mの企業価値(前半)

Clubhouse

最近のスタートアップでClubhouseほど話題になった会社はありません。理由はいくつかあります。①まだ正式ローンチ前にも関わらず(ちゃんとしたウェブサイトすらなし)、$10M Series Aを調達し、バリュエーションがいきなり$100M(約110億円)になったこと、②投資をしたい投資家が殺到し、最終的にはBenchmark Capitalを押し除け、Andreessen Horowitz (a16z)が投資をしたこと(=創業者がa16zを選んだ)、③久しぶりのソーシャルアプリのアーリーステージの大型調達であること、④Sereis Aのタイミングで創業者が一部の持分を売却して$2Mを懐に入れたこと、等々です。創業数ヶ月の会社にストーリーも何もまだないですが、今回の資金調達はシリコンバレーのダイナミクスを理解する格好の題材であるため、特別に取り上げたいと思います。

[2021/3/15追記] 筆者がClubhouse上で毎週(日本時間の毎週土曜朝、SF時間の毎週金曜夕方)、開催している「シリコンバレーVCトーク」の2/20の回でClubhouseを取り上げました。以下がそれをPodcastとして収録したものになります。

創業者:Paul Davison (CEO)

複数の記事によれば、Clubhouseは直近まで、フルタイムの社員は創業者の2名だけだったそうです。CEOはPaul Davison、CTOはRohan Seth。二人がどのように出会ったのかは定かではないですが、Stanford出身、Google出身といった共通点があります。

CEOのPaulはStanfordでIndustrial Engineeringを学んだのち、2002年から3年間、コンサルティングファームのBain & Companyで働きます。その後、再びMBAのためにStanfordに戻り(Class of 2007)、サマーインターンはGoogleで過ごすものの、卒業後はMetaweb Technologiesという、2005年創業でナレッジを共有するオープンなオンラインデータベースを運営する会社にVP of Productという立場で入ります。このMetawebは2010年7月にGoogleに買収されますが、Paul自体はGoogleに行かず、このMetawebに投資をしていたBenchmarkのEIR (Entrepreneur in Residence、起業家がそのファンドのオフィスを使いながら起業準備をすること)になります。

因みにEIRというのは、結構ゆる〜い仕組みで、一度Exitをしたような起業家が、少しゆっくりしながら次のアイデアを練りたい、と言った時に、その起業家の次のアイデアに投資をしたいファンドと、そのファンドなら投資を受けても良いと考えている起業家の利害が一致した時に成り立つものです。この間、EIRをちゃんと社員として扱い、給与を払うファンドもあれば、単純にオフィスに出入りできる社員パスを与えるだけのところもあります。また、ファンドによってはEIRに次の投資機会を見つけたり、企業を評価したりする手伝いをして貰うところもあります。また、EIRからそのままそのファンドに正式にパートナーとして参画することもたまにあります。

結局、Paulは1年強、BenchmarkでEIRをしたあと、同社や他のVCからの資金調達を受け、2011年10月に位置情報を活用したソーシャルアプリであるHighlightを起業します。ここで少しコンテクストを。アメリカでiPhoneが発売されたのは2007年6月ですが、GPSが入った第二世代のiPhone 3Gが発売されたのは2008年7月、App Storeが公開されたのも3G発売と同時だったので2008年7月でした。この3G発売からアプリ開発のラッシュが始まり、2008年9月にはKleiner PerkinsiFundを立ち上げ、$100M(2010年3月には$200Mに増額)をアプリデベロッパーに特化して投資していくことを発表します。Uberが始まったのもちょうど2009年頃、Instagram(Facebookが2012年4月に買収)やPinterestも2010年ローンチです。

PaulがHighlightが立ち上げた2011年頃はスマホゲーム業界が盛り上がった時期でもありました。上記のiFundも出資していたゲーム会社ngmocoをDeNAが$400Mで買収したのは2010年10月、続いてゲームプラットフォームの先駆けであるOpenFeintをグリーが$104Mで買収したのは2011年4月でした。余談ですが、私自身はその当時、まだ投資銀行にいてグリーのOpenFeint買収のアドバイスをしていましたが、あれは色々な意味で痺れる買収交渉でした(笑)。何はともあれ、この名だたるスタートアップの名前から感じ取れる通り、2009年〜2012年は様々なスマホアプリを作る会社が勃興したタイミングで、Highlightもその流れを組み、social & local (GPS) & mobileの領域で、近くにいる友人を"ハイライト (highlight)"する、というプロダクトでした。

数多い競合がいる領域でHighlightは唯一、生き残ったアプリとして奮闘しますが、結局、知り合いが近くにいることを知らせるだけなので、ユーザーが定着せず、2016年頭にピボットして写真の共有アプリをローンチしたものの、それもうまく行かずに、最終的には2016年7月にPintestによってacqu-hireされます。Paulはその後、Pinterestにてプロダクトを2年間程、担当したのち、今度はクリプトの世界に飛び込みます。2017年に立ち上がったCoinListというICO(Initial Coin Offering)プラットフォームが2018年4月に$9.2M Series Aを調達したので、経験の有るCEOとして2018年5月に同社にジョインします。が、ここは1年ぐらいCEOとして任務を行ったのち、2019年後半にはアドバイザーという立場に移行し、次に何をするかを考え始めていた様です。

もう一人の創業者:Rohan Seth (CTO)

CTOのRohanはPaulがStanfordを卒業する2002年に入学し、Computer Scienceの学位を取ったのち、そのままStanfordの大学院に進学してManagement Science & Engineeringの修士(Class of 2006)を取得、その後Googleにエンジニアとして入社します。GoogleではAndroidや、Google Map、Location Platformを担当していた様です。

Googleで約6年働いたのち、2014年8月(ちょうどPaulがHighlightを立ち上げ奮闘していた頃)にMicrosoft出身のRohan Dang(プロダクト担当)と二人でMemry Labsという会社を立ち上げます。同社については詳しい情報はあまり見つけられなかったのですが、同社のウェブサイトを見ると、様々なソーシャルアプリ、特に”思い出を残す”をテーマにしたものを開発してはローンチする、みたいなことを繰り返していた様です。例えば、一日に撮った写真を簡単にGIFに転換できるDaycapGiphyのストーリーでも取り上げましたが、ビデオからGIFが作れるGiphy Camのローンチとほぼ同じタイミング)、一日に撮ったセルフィーや友人との写真を日記みたいな感じで纏めてくれるDayfie等。最後にローンチをしたPhone-a-Friendはランダムに、”今”話せる人を探して電話するアプリなのですが、少しClubhouseのコンセプトに似ているのは興味深いですね。

Memry Labsはシリコンバレーを代表するVCの1つであるKhosla Ventures(サン・マイクロシステムズの共同創業者であるVinod Khoslaが2004年に立ち上げたVC)等から合計$1.2Mを調達しますが、約2年半後の2017年4月に、Opendoorという家の売り買いを行うユニコーン企業(直近の企業価値は$3.8Bn、約4,000億円)に買収されます。二人のRohanのLinkedinには"acquired by Opendoor"とわざわざ書いてありますが、パブリックの買収記事等はないので、これもPaulのHighlightと同じ様にチームだけを引き取るacqu-hireだったのだと思われます。OpendoorにはKhosla Venturesがシード段階から入っているので、同ファンドが2つの投資先の統合を後押ししたことは容易に想像できます。

Rohan SethはOpendoorで2年間程、プロダクト開発に従事し2019年からは家庭の事情もあり、パートタイムに移行します。その後、2019年12月にはOpendoorを退職しています。因みにもう一人のRohan Dangは未だOpendoorに残っている様です。

Alpha Exploration Co.

CoinListを離れたPaulとOpendoorを離れたRohanがどの様な切っ掛けで2019年後半に再び会ったのかは、新たな記事等を待ちたいと思いますが、いずれせによ二人は次はオーディオの分野で何かをしようと考えた様です。今年始めにAlpha Exporation Co.という会社を設立します。そう、Clubhouseというのは社名ではないのですね。更に面白かったのは、実はClubhouseは彼らの最初のプロダクトではなく、2つ目のプロダクトだったということです。1つ目のプロダクトを試してみて、そこでのユーザーの反応を見て、すぐにClubhouseをローンチした様です。後半では最初のプロダクトの立ち上げから見ていきます。

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