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とても幸せな冬の思い出

今住んでいる古い家の風呂場を改装した時、水道屋のショールームでできるだけ深めの浴槽を探し、アクリルのシャワーパンと浴槽を併設することで日本の一般家庭にあるような洗い場と浴槽が分かれている浴室を作った。日本に里帰りした際にホームセンターで風呂の蓋を買い、アメリカに持って帰って今でも使っている。

追い焚き機能はないので、冬場に長湯したいときは首が出るだけの隙間を残して蓋をしたまま湯船に浸かり蓋の上にiPhoneをのせて動画を見たりしてのんびり過ごす。今は1人で入る風呂も数年前まで一緒に入る相棒が居た。飼い犬のシーズー犬である。この犬が大の風呂好きで、しかも熱い湯が好きだった。犬には犬用のタライがあり、犬洗い後はそこでごろんと丸まり顎をタライの縁にダラリとのせてくつろいでいた。湯が冷めてくると「こんなぬるい湯に入ってられるか」というふうに私の湯船に一緒に入りたがった。

犬を抱き上げて同じ浴槽に入れ、それから巻いて端に寄せてあった風呂の蓋をゆっくりと広げながら浴槽を覆っていく。自分だけなら頭だけは上に出しておくところを犬と一緒だと楽しくて、自分も頭がギリギリ湯と蓋の間の空間で息ができるところまで下げて全部蓋してしまう。外から見たら人が入浴中なのはさっぱり見えない状態。

その不思議な暖かい空間でだんだんと暑さで息が上がって「僕はもう出ます」という仕草を犬がするまでじっとしている。犬の命は自分より短いから、いつかはこんなことはできなくなるだろうけれども、なんと幸せな時間だろうと毎回思ったものだ。14年の月日が過ぎてかけがえのないpartner in crimeを失くした。シーズー犬が死んでからは風呂の蓋を全部閉めて湯船に浸かるのを辞めた。ひとりでやったら思い出が幸せすぎて泣いてしまいそうだから。