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卒業生インタビュー(清水さん)

1年間お疲れ様でした。1年間を終えてみた感想を、ひと言お願いします。

清水さん:
もっと寺子屋での生活が続いてくれたらいいのに。楽しかったです。

島食の寺子屋に入塾した理由を改めて教えてください。

清水さん:
私が東京生まれ東京育ちで、スーパーに行っても魚の切り身とか、食材が部位別に分かれているものしか並んでいなくて。動物とかは、本当は命があって形があったものだけど、それを感じることが今までの暮らしで一回もなかったから、それがずっともやもやしていて。そのモヤモヤが、島食の寺子屋に来たら変わるのかなって思って入塾しました。

恒光:
もやもやするきっかけはあったのかな?

清水さん:
前職で病院で栄養相談の仕事をしていた時に、相談指導する為の表があって。「この表の中からこれをこれくらい選んでください」とか、本当にa,b,cのどれかを選ぶみたいな。生きたものを食べてもらっている感じがしなくて。

患者さんの方も、美味しいものってなったら、生活習慣病になっている人は毎日コンビニ飯だったりとか、揚げ物=美味しいとか、マヨネーズ=美味しいみたいな。それを、こちらは食べちゃダメですよって生きる楽しみをこっちが奪っちゃうみたいな感覚があって。

でも、そもそも食べるって、そういうことじゃない気がしていて。
そういうのを見ていてずっと違和感がありました。

恒光:
島食の寺子屋に来てみて、そのもやもやはどうなったのかな?

清水さん:
それこそ、木になっているものを自分で採って食べるとか、山に入ってタラの芽を採って食べるとか。

来島してすぐのタラの芽採り

今までだったら、野菜ってスーパーに並んでいるものを買って食べるものだから、その辺で採ってその場で食べるって時に、「これって本当に食べて大丈夫なのかな?」って心配になっちゃう自分がいて。

それに、旬のものって季節ごとに本当に変わっていくんだなって思いました。今までは「旬の野菜は何がいいんですか?」って聞かれても、「栄養があるんじゃないですか」って知識くらいしかなくて。

でも、旬って季節でこんなに変わるんだってことも寺子屋に来る前は知らなかったし、それを知らなかったタラの芽を買って東京で食べても春を感じないと思うんですよ。それが春のものって知らないから。

だけど、これから本土に戻ったときに、それをちゃんと感じて生きていけるんだろうなとか。
それを、自分に子供が出来たときとかに教えられるなって。一緒に季節を感じられるなっていうのが嬉しいなって感じています。

島での季節をどんな風に感じていましたか?

清水さん:
まだ島での季節を1周しかしていないので分からないですけど、海の色が変わっていくんだなって。それこそ、昨日、青谷の海沿いに行ったら透明だったなとか、冬は黒ーく変わっていくんだなっていうのに気付いたし。

あとは、つい最近に定置網に鰯が入ったときに、前の年の5月位に鰯を少し触っていて、それを最近もう1回見たときに、島での季節が1周回ってきたんだなって感じました。

入る時は大量に入る鰯

色んなことがあった1年間。乗り越えたなってことはありますか?

清水さん:
留学弁当のあとはいつも落ち込んでましたね(笑)
もっとこうすれば良かったのにとかでグルグル悩んで落ち込む。

でも時間が解決するタイプでした。
あとは家族に電話したりとか、シェアハウスでご飯を食べながらシェアメイトと話したりとか。先生にこれってどうしたらいいんですか?って聞いたり。先生は優しいから。

離島キッチン海士での実践授業で、決まったお肉の量からローストビーフを何枚必ず切らないといけないって時に、めちゃくちゃ緊張してたんです。
緊張して左手で強く押しちゃって上手くいかなくて真ん中が出てきて、切ったら破れて落ち込むけど。でも、先生が「肉はやっぱ難しい、魚より難しいからな」ってぼそっと励ましてくれる時もあるし。

離島キッチン海士の実践当日は必ず先生に怒られますし、離島キッチン海士では厳しい言葉しか出てこないけど、私がびびって避けようとしていると、横にいて「はよやれ」ってちゃんと見ててくれる。

緊張した離島キッチン海士

ギリギリのところまでやらしてくれる安心感はあります。「そんなん知らん」って切り捨てることは絶対にないので。緊張で心拍数上がるし手も震えるけど、トライする機会としてはすごく与えてもらったなと思います。

実践前日の夜から、準備するリストをノートにまとめたり、寝る直前も「待って田楽味噌ってどうだっけ」とか、頭はずっと動いている状態で。
離島キッチンの次の日は休みのことが多いから、もう休みの日はへろへろしてる感じになっていましたね。

清水さんが担当した留学弁当

馴染みのない日本料理に触れてみてどうでしたか?

清水さん:
家であまり和食って作ったことなくて、煮物とかしたことなかったんですよ。煮魚とかまったく分からなくて。だけど、栄養指導の仕事をしていた時は、本当に薄っぺらいことしか教えられなくて、「日本料理って人気だよ」くらいしか教えられなくて。

海外って日本料理に対して、本当に特別扱いをしてくれるんだけど、わたしはなんにも知らなくて。せっかく日本に生まれているのになんにもできないなって。それで日本料理を学びたいってところもあった。やったらやったで面白かったし、辰巳屋さんに行った時にこういう仕事もあるんだって、そこで働くことを考えたこともあります。

京料理「辰巳屋」での研修の様子

あと、家庭料理っていま時短が多いじゃないですか。
発酵いいですよ、塩麴入れましょうって言いながら、塩麴はすぐに買えちゃうし。甘酒も売ってます飲みましょうって。

すごい手軽だけど。元々は塩麴を作る人がいて、そこの元々を知ることができた感じはありますね。干物であれば、干物を買うのではなくて、干物から作るとか。

隠岐酒造見学

あと、そういったものをただ作るだけじゃなくて、その先の使い方も知ることができました。学校に白味噌があって、今まで使い慣れてなかったけど、白味噌を作るだけじゃなくて、作った白味噌をどう使いましょうってところまで進む。

白味噌を山椒と合わせて山椒味噌を作って、そして山椒の味噌をどう使いますっていうところは、島食の寺子屋でやらなきゃわからなかったんだろうなって思います。

「島」という環境で料理をしてみてどうだった?

清水さん:
限られた食材の中でどうしようかって考えるじゃないですか。
昨日は先生がホワイトソースを作っていて、でも島には牛乳もなければ小麦もないなかで、材料はこれとこれはあるからどうする?っていう会話があって。
米粉を入れるところまでは他の生徒とも行きついたんですけど、そこから先の答えには行きつかなかったんですけど。いつもそんな風な会話があって。

限られたなかでやることの、面白さというか。
それこそ思ったのが、例えばお店によっては良いご飯を出すって時って、どこどこから取り寄せた良い食材を使って料理したりするところが多いんだろうけど、自分がもしそのような場所に身が置いたとしてもワクワクしないだろうなって想像できちゃって。

どんなものでも使えるか模索して向日葵

自分で考えるじゃないですか。海外の料理で美味しいって感じたら、同じ食材は日本にはないけど、代わりのもので「ココナッツクリームの代わりに何を使おう」とか。そういうのを考えるのが楽しかったですね。

授業が進めば進むほど、料理の深さがあることを知って。
だから、達成したって感覚にはまだならないですよね。

清水さん自身が企画した寺子屋での子供向け竹輪教室。やろうと思ったきっかけを教えてください。

親子向け竹輪教室の様子

清水さん:
やってみようと思ったきっかけはシンプルで、海士町は魚に沢山囲まれていて、今までと全然違う環境のなかで、島に住んでいる子供たちにとって魚はどんな存在なんだろうって、自分がただ知りたくて交流を持ちたかったんですよね。最初はただそれだけでした(笑)

自分がここに来る前に、もやっとしていた食の原点を知る機会が、子供の頃にあったら良かったなって思うからこそ、そういうのを一緒にやってみたいなというのはありました。

島の子供に話を聞いてみたら、そんなに魚を触ることないよっていうお家もあって、だったら竹輪を作る教室も面白いんじゃないかって。丸の状態の魚を捌くところから竹輪を作るってことは絶対にやりたかったです。

竹輪教室は魚を捌くところから

卒業後は島に残って酪農のお手伝いをしながら加工品作り。やってみようと思った理由は?

清水さん:
島に残った理由が二つあって。ひとつは、このまま本土に戻ってしまうと、元の東京にいた時の感覚に戻っちゃいそうで。
あと、今までは島食の寺子屋の授業で準備されていた課外授業の場所に連れていってもらって、全ての場が整っていた状態だったけど、自分の意思でも色んな場所に行ってみる機会があってもいいなと思って。

でも、掛谷さんの話でぐぐっと魅力を感じたのが一番かな。

掛谷さんのところのジャージー牛

恒光:どんな話が魅力的だったの?

清水さん:
これから牛乳がとれるようになってくるから、まずはチーズ作りをやってみるのはどう?って言ってくれて、それでワクワクしたから。発酵を含めて興味がありますし。

あと、牛乳にも興味があって。
牛乳が安くてあまり売れないから酪農は大変ってイメージがあって。
でも、加工にしたら値段も上がるじゃないですか。

だから、ここを繋ぐ技術があったらいいのにって思うことがあって、そういうことを学びながらもお給料がもらえるってのは嬉しすぎる話だし、私個人に声をかけてくれているのも有難かった。

あとは竹輪の体験教室もそうだけど、やってみたいと思ったことはまずやってほしいって言って下さって。これを逃したら、そんなに別の機会はないだろうなって。

恒光:酪農を1年ほどやってみたあとは、どんな予定?

清水さん:
ゆくゆくは、はっきりは決まっていないですけど、食の原点に関わることをしたいと考えています。言葉を変えたら「手仕事」になるのかわかんないですけど。そういうのを大事にして生きていきたいです。

最後に。これから島食の寺子屋に入塾してくる方々にひと言。

清水さん:
やってみたいなと思ったことは、自分のなかでもんもんと迷っているよりかは、誰かに話してみると意外に形になることがあるんだなって思ったので、まずは話してみてもらいたいです。

ありがとうございました!

(収録:2024年3月14日 島食の寺子屋校舎前)