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海士町に来て早一ヶ月

今までは、生まれ育った長野県の雄大な山々に囲まれた景色と家族が大好きで、地元を離れるという選択肢はあまり考えていなかったが、やっとやりたい事(仮)が見つかり一念発起。
初めての県外、そして離島。開放感たっぷりの海と空を見渡せる景色に、新鮮な海の幸…と、ちょっとの不便さ。同じ日本でも、本土の内陸にいた時より日本の島国感と、人として生きていること、生産から消費に至るまでの流れに、命の有り難みを感じる濃密な日々を過ごしている。

校舎の大きな窓越しに、桜が咲いて舞い散るまでの様子を横目に見ながら、鶯の鳴き声と共に大根の桂むき練習をできることに幸せを感じる日々。

授業終わりには、大人が本気で取り組む、綱引き大会へ向けた練習に参加。短期間で、あまり思う様に練習出来なかったが、忍耐力を要する綱引きに、薄く長く続ける桂むきにも通ずるものを感じた。大会本番は引き合う間もなく秒で終わったが、本気で物事に取り組む楽しさ、青春を思い出した。練習に加えさせていただいた、崎だんじりチーム(大会連覇中の王者)は本番でも対戦。こちらの力量に合わせて、多少の引き合いを楽しませてくれた事に感謝。

大根も剥き尽くして終わりを迎える頃、いよいよ大敷(定置網漁)の魚を仕入れて捌き始めた。数時間前まで泳いでいた魚を仕入れて、丸ごと捌く機会は今までに無かったので、包丁を入れた時に出る鮮血を見ると、命をいただいているんだと改めて認識する。練習も兼ねて捌いた魚は、島の給食センターに卸されるそう。私のような素人が捌いた物で良いのか不安しかないが、今出来る最大の注意を払って、安全に美味しく食べてもらえるよう心掛けている。綺麗な三枚おろしにはまだ程遠いが、早く上手に捌けるように頑張っていきたい。以前は、大量調理現場で働いていて、魚を切り身で発注する側だったので、魚を食べられるまでに、これだけの手間が掛かっていることを知れた事も収穫だった。

休みの日は、同期メンバーと一緒に過ごす事も多い。持ち寄りご飯会では、面白い事に示し合わせずとも、それぞれの出身地や引き出しに違いがあり、授業で余った同じ食材を使っても料理が被らない。出かけた時に見える、島の海は飛び込みたくなる程透明度が高く、とても綺麗で夏が待ち遠しいが、1年間という短い期間を思うと、時間の流れにもう少しお待ちくださいと言いたくなってしまう。

絵はがきの様な見慣れない景色に、夢じゃないかと思う時があるけれど、今ある時を大切にして、地に足つけて日々精進していきたい。

(文:島食の寺子屋生徒 小澤)