社内資料はパワーポイント?WORD?

PBLのようなプロジェクトの最後に学生たちが発表するのはたいがいパワーポイントであることが多い。

だが、有名な例で言うとAmazonでは社内資料に基本的にパワーポイントやKeynoteなどプレゼンテーションは使わない。WordによるNarrative(文章として読ませるために書くもの)だけだ。

分量は2時間のミーティング(たいていは四半期単位のビジネスレビュー。関係者が多いと30名くらい集まる)であれば本文6ページ、Appendixが5−20ページくらい。その本文6ページは余白も極力少なく行間もかなり狭いので英語であればかなりの文章量になる。

これを会議の冒頭まず全員で読んでからディスカッションするのだ。2時間のミーティングで6ページであれば、読む時間はだいたい30−40分程度。MeetingをLeadする人が30分くらいに"Time check, anyone needs more minutes?"と聞いて全員が読み終わったことを確認してから議論を開始する。

この方式の良い点は、まず基本的な内容を読み込むわけなので、「事実確認の質問が必要ない」点にある。またパワーポイントと違って詳細に書かれているので「詳細を確認する必要もない」のだ。つまり2時間のうちの残り1時間20分程度は深い議論だけに費やせる。

具体例で示すと、例えばある事業部の四半期ビジネスレビューであれば6ページの構成は典型的なものであれば、まず数字の一覧。必要な事実確認の数値(売上の昨対比等)は最初に頭に叩き込んでもらう。そのあとExective Summaryが続く。それぞれ4分の1ぺーじくらいで半ページ。場合によっては数字一覧だけで1ページ取ることもある。

そのあとは、その四半期のよかった点、悪かった点をハイライト的にそれぞれ3、4個づつ挙げる。その後事業部の課題を軽くおさらいする文章が5行くらい続いたあとその課題4つくらいを各課題ごとに3分の2ページづつくらい(例えば1、営業組織の構成、2、営業マンスキル、3、営業支援ツールの整備、4、営業マネジャーの育成、等)。最後に次四半期の取り組み内容やそれに対して必要な投資、リスクを列挙する。

Appendixには、補足的な数字の表がメインだが、FAQといって、おそらく質問されるであろう内容が既に書かれてあることが多い。例えばその四半期に売上が目標に達成しなかった理由で営業マンのスキル不足を上げて研修プランを本文で言及していたとしたら、その研修の効果をどう数字で測定するのかという課題。本文に書いてもいいが、本文中では少しOperationalすぎるトピックとして判断されればAppendixのFAQに載せる。

では、この詳細なFAQも全て全参加メンバーが読み込んだ上で始まる議論がどんなものか予想がつくだろうか。

参加してReviewする側も何か鋭い質問をしようと手ぐすね引いているわけなので、かなり事業の本質的なテーマに深く議論が進むことも多い。

要するに資料中には「営業マンの一人当たり売上が昨年の1.2億円から1.1億円に下がっており、下がっていない営業と下がった営業マンを比較したところ、スキルギャップが前年より広がっていることが確認された。営業マンのスキル不足を先月調査によって計測し、特に顧客課題ヒアリング力が新しい人のみならずベテランでも十分なレベルに達している比率が低下していた。テスト的なパイロット研修プログラムを既に先月NYで20名に実施し、その結果からすると、改良した上で来四半期は、米国の営業マン400名全員に実施し、その次の四半期でヨーロッパと日本に展開する。その投資コストはおよそ40万ドルであるが、想定されるリターンは半年以内に500万ドルを超えるので十分Payすると判断し、既にその計画で進めている。研修による効果は各営業マンのその後の売上伸び率以外に、模擬商談による採点とクライアントへの定量調査によって行う。研修自体はTrainerチームが担当し、既にTrainerのための研修を外部の⚪️⚪️社を通じて2週間前に終えたばかり。この研修のリスクがあるとしたら、営業マンがそういったスキル開発を受け身として捉え、自らスキル開発を進めるスピードやコミットを下げる可能性。そのため、合わせてスキル開発のコーチングプランを営業マネジャー主導で同時に行うこととした」

ここから議論はスタートする。普通思いつくような「なぜ?」「どう計測する?」「必要な投資は?」「今後の手順は?」「リスクは?」は既に文書に書かれている。

ではどんな質問からスタートするのか?

500万ドルを計算したロジックは正しいか?という類の質問はよく出てくるが、単なる方法論の精度を聞いただけであって、優れたビジネスマンであれば事前にその質問を想定していて、Appendixに書いてあるだろう。「それはAppendix 5を見てください」で終わる。いい質問とは言えない。

「営業マンのスキル不足の原因は営業マンにあるのか?研修にあるのか?それとも他にあるのか?マネジャーの関与度が下がっていることはないか?」と、この問題が本当に本質的な問題か、ということ。これはいい質問だ。書いた方からすると明らかに営業マンスキル不足による売上影響を見つけたのだから意気揚々と書いているわけで「それが本当に本質的なのか?」は本来営業組織のリーダーシップチームが深く議論すべき話題だ。スキル低下は原因なのか結果なのか、単なる売上伸び低下の相関関係指数であって因果関係ではないのではないか?

もしこの問題が本質的でなければ次の四半期を研修に尽力しても売上はまた達成できない可能性が高いのだからリーダーシップとしては一番気になるだろう。

「スキルチェックは研修は都度やるのか?もっとScalableにできないか?」これはGAFAのようなグローバルにスケールさせられない施策は意味が薄いと考えがちなメガグローバル企業には多い質問。これもいい質問だ。

翻って、もしこれがパワーポイントで行われていたら。。。

図は綺麗だし、グラフは見やすい。メッセージも明確。

だが、その裏の詳細をただ確認するための質問が多く、それに質問時間が費やされることがいつも気になっていた。このWord方式で詳細事実や詳細計画は既に共有された上で本質的ないい質問から、本来その資料を作る人(この場合は営業部長にあたる人かな)が考えるべき一番コアな問題にたどり着く可能性が高いのだ。事実確認だけの質問で時間を費やすプレゼン時間がいかにもったいないか、だ。

教育現場でも、このWriting技術、大いに磨くべきだと思うが、そこまで追求した高校や大学を私はまだ知らない。卒論時期前に論文の書き方を指導するがビジネス文書として書ける訓練はどうか。それはただWriting技術だけでなく、物事の本質に迫るための一つの方法であり、既にGlobal企業では標準化されているのだ。

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