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スペインから来た女性監督と「お嬢様」というパワーワード〜鈴鹿フットボール紀行異聞〜

 今回も小学校の社会科の時間でお世話になった、ぬり絵タイプの日本の白地図の話から始めることにしたい。まずは色鉛筆で、過去にサッカー観戦をした都道府県を、ひとつずつ塗ってみてほしい。北は北海道から南は沖縄まで、まったく空白なく47都道府県を塗りつぶした人は、正直に挙手! あなたは立派な「変態」である(もちろん褒めています)。なぜならJリーグを見ているだけでは、なかなか達成できないからだ。

 現在、Jクラブがないのは、福井、滋賀、三重、奈良、和歌山、島根、高知、宮崎の8県。さらに、全国リーグ(すなわちJFL)を戦うクラブがないのは、福井、和歌山、高知の3県しかない。Jクラブのサポーターが、この3県を制覇するには天皇杯でのチャンスを待つか、あるいは地域リーグの沼に飛び込むしかないだろう。その危険な沼にどっぷり浸かっている私も、最後まで攻略できなかったのが、三重県であった。

 三重といえば、今季はヴィアティン三重と鈴鹿アンリミテッドFCによるダービーが全国リーグで実現。私にとっては、どちらも地域CLでお馴染みのクラブであるが、なぜか現地を訪れるまでには予想外の時間を要してしまった。それが今回、取材で鈴鹿を訪れることとなり、紀伊半島から伊勢湾に伸びる縦長の空白地帯をようやく塗りつぶすことができた。本稿では、次号のフットボール批評に掲載する原稿の予告編として、現地での旅の記録を写真で振り返ってみたい。

 果たして三重県は東海なのか、それとも関西なのか、ずっと疑問であった。隣接するのは、岐阜、愛知、滋賀、京都、奈良、そして和歌山の各府県。何となく関西に取り囲まれている印象だが、人口比では名古屋圏に意識が向いている県民が多いようだ。名古屋から近鉄で鈴鹿を目指すと、なるほど確かに東海の濃度が強い印象を受ける。

 今回の取材で迷ったのが「拠点をどこに置くか」。ネットで調べると「鈴鹿駅」というものが存在しないことがわかった(「鈴鹿市駅」はあった)。クラブ所在地の近くで、最もホテルが多かったのが白子(しろこ)駅。特急の停車駅でもある。改札を出ると、白黒チェックのウェルカムボードを発見。鈴鹿がF1の街であることを強く認識させる。

 では、駅前に鈴鹿アンリミテッドFCを想起させるものはないだろうか? ありましたよ、『お嬢様聖水』の看板が。地域リーグファンにはおなじみ、鈴鹿のメインスポンサーで、JFLに昇格した今季は堂々このパワーワードがユニフォームの胸に飾られている。もともと女性向けの植物発酵エナジードリンクだったのだが、この3年でサッカーファンの間でも知名度を上げた。

 昼前にホテルにチェックインすると、珍しくスマホに着信音。「僕はもう大丈夫なので、いつでも来てください」──。声の主は、この日に取材させていただく鈴鹿のヘッドコーチ、岡山一成さんだった。「なるはやで!」と答えて即座に出発。バスが来るまで15分あったので、近くにあったネパール料理屋でキーマカレーを急いで食べる。ナンが熱々だったので、食べるのに少し苦労した。

 こちらがフットサル場を兼ねた鈴鹿のクラブハウス。こちらの会議室をお借りして、岡山とサポーターの中西芳章さんにお話を伺う。現役時代はさまざまなクラブを渡り歩いてきた岡山さん、そして10年以上クラブを応援し続けてきた中西さん。それぞれの立場から、このクラブとキーパーソンのアウトラインを浮き彫りにするのが狙い。

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