見出し画像

「正解探し」のコミュニケーションを打ち破る「哲学対話」の魅力

総合楽器メーカーのヤマハ株式会社で人材・組織開発を担当する太田さん・山下さんは、組織の固定概念にとらわれない新しいコミュニケーション手法を模索し、人事部員向けに「哲学対話(※1)」を導入されました。

※1:哲学対話とは、哲学者がファシリテートしながらテーマについて複数人で自由に対話し、ひとりひとりの前提や文脈を分かち合い、物事に対する見方/考え方をアップデートしていく対話手法。

左から人事部 山下 未奈子さん、人事部 太田 佳宏さん、哲学クラウド Bizマネージャー 湯浅朱菜(インタビュアー) ※所属・役職は取材時のものです(2024年3月取材)

組織の固定概念を打ち破る体験ができると期待を感じた

ーーー人事部員向け育成プログラムの一環として哲学対話を活用いただきました。活用するに至った背景を教えてください。

山下さん:人事部員の育成プログラムに先端的な専門性を取り入れたいと考えていました。GoogleやAppleが哲学者を採用したり、NTTが「京都哲学研究所」を設立した動きから、哲学と組織開発の関係に興味があったんです。「哲学対話」について概要を聞いたときに、問いを立てて本質に迫っていく作業が面白そうだと感じました。

太田さん:私はもともと組織開発の文脈で哲学対話を知っていたんです。2年ほど前から実施の機会を探っていたところに山下さんが話を持ち込んでくれたので、すぐに話が進みましたね。

ーーー太田さんはヤマハのエンゲージメント向上やご自身でのコーチングなど様々な組織開発に取り組まれる中で、哲学対話に対してどのような期待がありましたか?

太田さん:新しいコミュニケーション手法としての期待がありました。社中のコミュニケーションは通常、誰かが持っている「正しい答え」を探りながら話をしたり、空気を読んで何も言わないことが多いと思います。
でも哲学対話は、そうした暗黙のルールを一気に壊すフレームで対話が進んでいく。これなら、今まで我々が持っていた固定観念を打ち破ることができる体験だと思いました。

全社の対話を推し進める側として感じていたモヤモヤ。だからこそ前のめりに参加できた

ーーー皆さんがかなり前のめりに参加してくれたように感じました。これまでいろいろと組織施策を実施されてきた皆さまだからこそ、新たな試みに関心を持っていただけたのでしょうか?

山下さん:正直、哲学対話という初めての試みに、人事部のメンバーがどこまでのってくれるか不安でしたが、参加者を募集したその日のうちに定員15名の枠が埋まりびっくりしました。

太田さん:「哲学」という言葉はハードルが高く感じる人もいるかもしれませんが、逆に良いスパイスになっていましたね。もっと平易なよく使われる言葉だったら、興味を持たない人も多かったと思います。

哲学対話当日の様子

太田さん:実は2020年4月に、風通しの良い組織風土実現を目的に「心理的安全性」「リスペクト」「対話」という3つのキーワードを用いて、トップが全社に対して組織活性化の方針を打ち出しました。トップからメッセージを打ち出すことで、全社の中では、当然ポジティブな反応だけでなくネガティブな反応も出たり、対話が目的化してやらされ感を感じていた人もいたはずです。「対話疲れ」なんて冗談で言う人もいましたね(笑)。

その後、対話への理解が進むと同時に、モヤモヤや違和感も抱えていました。スッキリしていたら現状のままで良いし、哲学対話にも興味を持たなかったと思います。自分の中でモヤモヤを持っているからこそ、「哲学」に新しい可能性を感じて、参加者自身が前のめりに参加できたのかもしれません。

フラットで"自由"な対話の場が実現された

ーーー中期経営計画や人事部員としてなど、様々な「成長」が貴社でテーマになっていたことから、今回は「成長」をテーマに哲学者がファシリテーションし哲学対話を実施しました。お二人も参加された中で、どのように感じましたか?

山下さん:哲学対話の前にみんな「成長」について考えたい「問い」を出してまとめると、14個もの問いが出てきましたよね。「成長」と言うと右肩上がりのカチコチの成長がイメージされがちですが、「問い」を出すことは自分たちの「成長」に対する既存概念を壊すクリエイティブな作業でした。

哲学対話当日に出た「成長」についての「問い」

太田さん:会社内でのコミュニケーションは、時に予定調和的で落としどころが見えていることもあるかと思いますが、当日の哲学対話ではそういった「読み」の枠組みを超えて対話が広がっていきました。普段から一緒に仕事をしているメンバー同士で対話したにも関わらず、偏らない様々な観点が出てきました。

本当にフラットで忖度なしに自由に意見を出すのって、結構難しいと思うんです。通常の社内の対話や会議だと「自分が当たったらどうしよう、何を言おう」と思って身を引いている人もいると思うのですが、哲学対話ではむしろ「言いたいんだけど…」とみんながうずうずして前のめりな姿勢になっていたように思います。

山下さん:レインボーくまちゃんも絶妙でした。我々人事はダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンとレインボーカラーが頭の中で結びついているので、あのくまちゃんがいることで「いろんな意見を言って良いんだよ」「多様だよ」ということが体感的にわかりました。

哲学対話ではコミュニティボール(今回はくま)を持っている人が話します

哲学対話で構築された「ヤマハ式成長モデル」

ーーー哲学対話の後日、皆さんが対話を通して見出した「成長」について哲学者がさらに分析してレポートさせていただきました。哲学分析レポートはいかがでしたか?

山下さん:哲学対話を通して獲得した新しい「成長」の概念が一度自分の中に取り込まれると会議や対話の中で「成長」という概念が出てきた時に漠然と受け取るのではなく、4つのタイプのうちだとどの「成長」か、フレームで考えるようになりました。そうすると、議論の幅が広がり、深みが出て、色々なアイデアや意見が出てくるようになりました。

対話内容を哲学者が分析した「ヤマハ式成長モデル」

太田さん:自分たちだけでは辿り着かない専門的な知識を先生から頂くのは貴重でした。これまでだと狭い「成長」や型にはまった「成長」、よくある人事界隈で言われている「成長」に留まっていましたが、「成長」の概念が一気に広がりました。

人から言われたフレームではなく、哲学的にみんなで問いを立てて本質的に考えた結果の「成長」だという感覚があるので腹落ち感もあり、いろんなところに応用できると思いました。哲学対話の感覚を持った人が社内に広がっていくと面白いと思います。

「考える」という手前には必ず「問い」がある

ーーー哲学対話の後日、日常での職場に変化はありましたか?

太田さん:実は哲学対話が終わって日常に戻った後も、「哲学対話っぽさ」が続いているんです。我々は「思考停止せずに考えようよ」とよく言われるのですが、哲学対話を通して「考える」という手前には必ず「問い」があるということが体感的にわかりました。癖みたいにみんなが「そもそも〜〜」と問いを立てて考えるようになりました。

山下さん:我々の仕事は企画が多いのですが、「何のためにやるのか?」というWhyが曖昧なままHowに集中して「施策をどうやるか」に議論が集中してしまいがちなんです。でも哲学対話を終えた後はHowに寄りすぎではいけないと、普段から気づきが生まれるようにもなりました。

哲学はAIに代替されない「クリエイティビティ」を生み出す土壌

ーーー最後に、これからの時代や社会において「哲学」にどのような意味があると感じられますか。大きな問いですが、ぜひお聞かせください。

山下さん:企画の仕事でChatGPTを使っていると、すごいと思うのと同時に、どんどん人間の仕事が代替されていくなと少し怖くなるんです。では人間はどうやってAIに勝てるのかを考えると、それは「クリエイティビティ」だと思うんです。

実は、哲学対話をやった日は脳が興奮して夜に眠れなかったんです。哲学対話のことだけでなくいろんな仕事の面白いことがどんどん浮かんできて。同じ参加者のうちの一人も同様に「眠れなかった」と言っていて、まさに哲学対話はクリエイティブなものを生み出す土壌作りになると思いました。

太田さん:脳が興奮した感覚はたしかにありましたね。

太田さん:僕は人間の本質は「考える」ことであり、これは人間が生まれ持ったものだと思っています。山下さんが言うクリエイティビティもそうです。

そして、「考える」ことのベースには何千年も前からあらゆるテーマについて考え続けてきた「哲学」がある。でも豊かになったがゆえに、「考える」というシンプルかつ本当に大切な人間らしさを僕らは少し忘れてしまっているんだと思います。

だからこそ哲学対話の良さをより感じましたし、考えることは人間が持って生まれた才能の一つだと思うので、哲学を通して考えるという活動をこれからも続けていきたいと思いました。


サービス詳細や資料請求は以下からお問い合わせください

[ 哲学クラウドお問い合わせフォーム ]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?