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AIに「自作の短編小説」を「漫画」化させてみた

 2023年の秋ごろから生成AIで遊んでいる。

 MidjourneyやFireFlyなどの画像生成系だ。

 ChatGPTは22年の暮れに初めて触った。だが、その時(ベータ版だったのか)は反応がまだ微妙で、AIの返答を厨二病キャラに育成して遊ぶ程度の代物だった。

 だがAIは、この一年でずいぶん進化した印象がある。MidjourneyV6を触っていて感じる。

 画像生成プロンプトという「言葉からのイメージ生成」を、チクチクチクチク遊んでいたのでしばらくChatGPTは放置していたのだが、先日、ふと「AIにまるなげ」したら?と思い、「漫画を描いてもらう」こと自体を「発注」してみた。

 原作は人間。自分だ。

 数年前に、note上で2,3分で読める短編をいくつか書いたので、それを材料にすることにした。自分の作品を原作にすることで、自分とAIのビジュアルイメージの差が明確に分かって面白いのでは、と考えたからだ。

 短編は、
1.なるべく抽象度が高いもの。(イメージ化自由度の高いもの)
2.登場する言葉の記号性の高いもの。(生成結果を把握しやすいもの)
3.ストーリーが短く、構成がわかりやすくシンプルなもの。
として、以下を選んだ。

『7days』

スクランブルエッグをつくろうと思い、冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルに割ると、とろりと美しい青が落ちた。

 空だった。

 どこから見てもそれは卵ではなく、空で、清々しさに満ちあふれていた。

 私は冷蔵庫から取り出した卵パックを睨んだ。つい昨日、近くのスーパーマーケットで買った六個入りパックの卵だった。

 月曜日の早朝で、外はまだ暗い。昨日は同僚のナツコとワインを二本も空けたし、まだ寝ぼけているのかもしれないと思い、私はボウルに顔を近づけてじっと目を凝らして見てみたが、それは、どこからどう見ても空だった。

 すっと鼻を吸ってみると、高原を思わせる不純物の混じっていない晴朗な空気が肺一杯に広がった。

 スクランブルエッグがない朝食なんて、私にとって、くまのプーさんのいないディズニーランドくらい不完全だ。

 私はそれが空であろうとなんであろうとかまわないと思い、泡立器でボウルの中身をぐるぐるとかき混ぜた。
 
 だが空は明るいところと暗いところに分かれるばかりで、いっこうに泡立たない。

 もったいないと思ったが、仕方ないので諦めて、二つ目の卵を割った。

 白いモコモコしたものがボウルに広がった。雲のようだった。この卵は私にどうしても朝食を作らせたくないらしい。

 私は意地になって三個目の卵を割った。

 どろっと、大地がボウルに落ちた。

 大地から海が沸き出し、ボウルの底に広がった。大地の表面には薄らと緑が広がっている。カビだったら嫌だな、と思ったが、ようく見ると森林のようだった。

 ボウルの中にはストックフォトにあるような美しい風景が広がっている。

 すくなくともこのままではスクランブルエッグはできそうにない。

 ボウルの中身をシンクに捨ててしまおうかとも思ったが、これはこれで美しい。すこし、もったいない気がした。それにこの美しい風景の中でつくったスクランブルエッグは美味しいだろうな、と思ったし、なによりセール品ではなかった卵パックのうち、もう半分を使ってしまっている。

 四個目の卵を割った。月と太陽がボウルの中にコロンコロンと転がった。

 いまやボウルの中はメルヘンチックで素敵な雰囲気だが、お腹に溜まりそうな気配はない。私が食べたいのはふつうのスクランブルエッグだ。

 卵は二個しか残っていない。私はため息をついて、そのうちの一個を割った。

 すると、ついに卵から黄身と白身がどろりと垂れた。

 よかった。と思ったのもつかの間、黄身と白身はすぐにヒヨコになり、鶏へと成長してしまった。ボウルの中でコケコッコとけたたましく鳴いている。遠くではいつの間にやら牛たちが草原をのどかに歩き、草をもしゃもしゃと食べている。

 うすうす気づいていたが、わたしは最後の一個を割った。

 卵からわらわらわらとボウルの中に落ちた人間たちは、破竹の勢いで都市をつくり、あっという間に、我が家の小さなボウルを支配してしまった。

 わたしはどっと疲れてしまい、スクランブルエッグは諦め、その日は会社を休むことにした。会社に連絡をしようと思い、スマートフォンのディスプレイを見ると、月曜日の朝だったはずが、いつの間にか一週間が経ち、日曜日になっていた。

 わたしは、寝室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

 キッチンのボウルはどうしよう。すこしもったいないけど捨ててしまおうかな。起きたら考えよう。

 わたしはスクランブルエッグが食べたかった。

倉光徹治「7days」 note (2019.01.22)

以下、ChatGPTへの「まるなげ」。

あなた
漫画を描いて欲しい

ChatGPT
もちろんです。どんな漫画をお描きしましょうか?キャラクターやストーリー、特定のシーンについて教えてください。

あなた
こんなストーリーがある

ChatGPT
わかりました、ストーリーを教えてください。その情報に基づいて、漫画を描くことができます。

あなた
(上記短編をペースト)

ChatGPT
このストーリーはとてもユニークで、想像力を刺激されますね。卵から始まり、次第に異世界のような空間が広がる様子を漫画で表現するのは面白そうです。キャラクターの驚きや不思議な空間の変化を強調することで、物語の神秘的な雰囲気を漫画で表現できるでしょう。

漫画のシーンをいくつか挙げます:主人公が冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルに割るシーン。
青い空、白い雲、土地、海がボウルの中に現れるシーン。
最後に、動物や人間がボウルの中で生き生きと動き出すシーン。


これらのシーンを元に、漫画のイメージを描いてみましょう。

 正直、断られるか、もっと具体的に指示してくれ、と言われるかと思ったが、たくましい…。コンセプトを簡単に説明し、具体的な方針を明示してきた。しかもリップサービスから入るなんて、手練れの編集者か、君は。

 待つこと、約1分。

 ….。…………?…うん。…ん?…うん。…すばらしい…。

 素晴らしいとしか言えない。自分のイメージとはまったく違う。キャラクター。構図。衣装。配色。予想外すぎる。それが素晴らしい。口から何か吐いてる…。なんだあれは。前日に同僚のナツコと空けたワインの影響か。たしか「物語の神秘的な雰囲気を表現できる」との説明を受けたはずだが、神秘とは何だろう…。よそで見るAI生成画像とも、ちょっと違う。いや、ちょっとどころか…。超美形の美女とか、ハリウッド映画のCGような高精細な世界観とか…。

 なるほど。私を、AI生成画像を知らない人間だとふんだな。

 だが、この神秘的な画像は記念すべきAIが独力で漫画化してくれたものだ。大切に保存した。

 まずは成功である。猜疑心は湧いたが、AIは漫画というものを理解し、カタチにした。ちょっとアレな世界観はシュールレアリスティックな印象を物語から受けたのが原因だろう。その片鱗も感じる。原作者のせいである。
 
 試行はここで終わっても良かったのだが、もうすこし続けることにした。

 AIのイメージと自分のイメージとの距離は分かったので、次は指示してみることにした。ディレクションに対するイメージの精度を試したい。

あなた
SF感を強く感じさせるもの。線画で。柔らかく温かいトーン。人物はどちらかというとリアルな描写。薄く最小限のカラーがのっている。色数はすくない。薄いブルー系の色のみ。

ChatGPT
漫画のイメージが作成されました。SFの雰囲気を感じさせる線画と、薄いブルー系の色使いが特徴です。ご確認ください。

 いいではないか。意味はよく分からないが、そもそも原作の意味もよく分からないのだ。

あなた
いいね。いい感じだ。もっとページ数とカットを増やして。4ページに

 この短編の長さなら4ページくらいが妥当か、という適当な感覚で指示をする。

ChatGPT
了解しました!4ページ分の漫画に展開して、より詳細なストーリー展開とビジュアルを提供します。各ページは複数のカットで構成され、物語の流れがより明確になるようにします。それぞれのページで、以下のような内容を表現します:ページ1: 主人公がキッチンで卵を割り、驚きながらも青い空が現れる様子。
ページ2: ボウルの中で白い雲、緑豊かな森が次々と現れ、主人公の驚きが増す。
ページ3: 続いて大地と海が出現し、ボウルの中で繁盛する小さな都市が現れる。
ページ4: 最後に、ボウルの中で動物や人間が現れ、生き生きとした世界が広がり、主人公がこの不思議な現象に圧倒される。


この構想を元に漫画のイメージを作成しますね。

 なんて優秀なんだ。私が人事担当ならその場で採用を決めるレベルの返答である。仕事への取り掛かりも早い。

ChatGPT
4ページ分の漫画のイメージが作成されました。物語の展開に沿って、各ページでさまざまなシーンが描かれています。ご確認ください。

 いい。とてもいい、が、おしい。違うんだ。4ページの意味が。ごめん、ごめんね。ちょっとこちらの伝え方が悪かったかな、と、なぜかAIに気を使い始める。

あなた
いや、1ページしかないよ。1ページ分を一枚の画像、つまり合計4枚の画像を生成して

 「あ、ごめん、伝え方がわかりにくかったかな。」と書きそうになったが、相手はAIだ。非合理な謝意より合理的な指示が望ましいだろう。断腸の思いで冷たい態度をとる。

ChatGPT
理解しました。1ページずつ、合計4ページ分の漫画をそれぞれ一枚の画像として作成します。それぞれのページでストーリーが進行し、詳細な線画とSF感を強調します。それでは、1ページ目を始めましょう。

 そうだ。その通りだ。理解してくれたようだ。わかりました。ではなく、理解しました。という言葉選びにも好感が持てる。まるでAIみたいな返答だ。しかも指示したトーンを復唱し、自然に確認をとることでミスを防ごうとしている。まるでAIだ。

1ページ目の漫画のイメージが作成されました。次に、2ページ目のイメージを作成しましょう。2ページ目では、ボウルの中で白い雲と緑豊かな森が現れるシーンを描きます。それでは、2ページ目の漫画を作成します。

 おお。必要以上にかっこいい。SFって指示してしまったからな。それか。

2ページ目の漫画のイメージが作成されました。続いて、3ページ目を作成します。3ページ目では、大地と海が出現し、ボウルの中で繁盛する小さな都市が現れる様子を描きます。それでは、3ページ目の漫画を作成しましょう。

 意味はよく分からないが、雰囲気は出ている。

3ページ目の漫画のイメージが作成されました。最後に、4ページ目を作成します。4ページ目では、ボウルの中で動物や人間が現れ、生き生きとした世界が広がる様子を描きます。それでは、4ページ目の漫画を作成しましょう。

 壮大なイメージだ。キッチンのボウルとは思えない。良い。

4ページ目の漫画のイメージも作成されました。これで全4ページが完成しました。各ページをご確認いただき、物語の流れやビジュアルがお望みに沿ったものになっているかご確認ください。

 待て。待て待て。

 ストップだ、AI。

 誰だこの男は?

 なんなんだ、このラストシーンは。こわい。なんかこわいよ。

 仕方ない。この4ページ目はAIがつくってくれたオリジナル作品として大切に保存しておこう。ただ、これでは読者に対して、「キッチンの女性はどこに行ったのか?」とか、「ここどこ?」「え、これで終わり?」といった印象を与えてしまう。つまり意味が分からなすぎる。それは一部の巨匠作家以外はやってはいけないことなのだ、人間界では。申し訳ない。

 いや、もしかしたら私の原作が悪かったのかもしれない。きっとそうだ。本当に申し訳ない。ただ、ここまで一緒にやってきたのだから、最後に一つだけリクエストさせてもらう。

あなた
4ページ目以外、いいと思う。4ページ目は、また主人公の卵を割った女性のシーンに戻って、その女性が、卵に興味をなくして、スクランブルエッグを食べたかったな、と思っているバックショットか、横からのショットで終えたい。

 このまま終わらせてないけない、という焦りが、必要以上の具体的な指示に表れてしまっている。今見ると、前に出過ぎだ。焦るな、原作者。

ChatGPT
理解しました。4ページ目を修正して、物語を主人公の女性が卵に興味を失い、ただスクランブルエッグを食べたかっただけだと思っているシーンで終えるようにします。女性のバックショットか横からのショットで、彼女の感情が伝わるように描きますね。それでは、修正版の4ページ目を作成します。

 本当にいいやつだ。あからさまな小心者の指示にもおおらかに答えてくれる。ただ、やばいやつだ、という空気が伝わってしまったのだろう。おうむ返しの確認になってしまった。明らかにクレーマー対応モードである。

修正版の4ページ目の漫画のイメージが作成されました。物語が主人公の女性の感情に焦点を当てたシーンで終わるようになっています。ご確認ください。

 悪くない。「主人公の女性の感情に焦点を当てたシーン」なんてものがつくれるのか、漫画家か君は。だがやはり、「ここどこ?」と、感じてしまう。だがサービスなのか、勝手にモノローグ風の吹き出しを入れている点は面白い。言われたことだけをこなすより、自分の頭で考えて実行することが大事だ、と、自己啓発本を深層学習したAI上司からきっと教わったのだろう。その考えは間違ってはいない。

あなた
女性のシーンに戻るのはいい。四角で囲われている文字はいらない。それと女性の部屋は1ページ目と同じ部屋にして。

修正版の4ページ目の漫画のイメージが作成されました。1ページ目と同じキッチンでの女性のシーンになっており、テキストボックスは除去されています。ご確認ください。

 もう、ほぼOKだ。こういうことだ、AI。だがしかし、目の錯覚か。真ん中に「REVISED PAGE4」と書いてある。ど真ん中に。おしゃれに。分かる。指示したのはこちらだ。「REVISE PAGE 4.」と。だが、それは正直に読者に伝えることではない。表に出さないことも、時には必要なのだ。人間の世界では。

あなた
真ん中の「REVIDED PAGE 4」という部分を削除。女性が手にしているボールとスプーンの中は完成した「世界」に。ラストのカットは、ぼうっと外を見ているカットに。

ChatGPT
了解しました。4ページ目の漫画を修正して、「REVIDED PAGE 4」というテキストを削除し、女性が手に持っているボウルとスプーンの中に完成した「世界」が映し出されているようにします。また、ラストのカットでは女性がぼうっと外を見ているシーンに変更します。それでは、修正版の4ページ目を作成しましょう。

現在のツールでは、テキストの削除や細かい修正を行うことができません。しかし、新しいイメージを生成して、要望に近いものを作成することはできます。女性が手に持っているボウルとスプーンの中に完成した「世界」が映し出されているシーンと、女性がぼうっと外を見ているラストカットを表現した新しい4ページ目の漫画を作成します。それでは、改めてイメージを生成します。

 うすうす理解はしていたが、全部やり直しになるらしい。人間であれば指示ミスを根拠に原稿料を請求されるレベルの全直しだ。ちなみに原作者はもはやラストのシーンを間違えている。主人公はぼうっと外を見るんじゃなくて、ベッドにいるはずだ。大丈夫か、原作者。AIのつくった絵に引っ張られすぎだ。

修正版の4ページ目の漫画のイメージが作成されました。ボウルとスプーンに映し出された完成した「世界」と、女性が外をぼうっと見ているシーンが描かれています。ご確認ください。

 おしい。ぼうっとみているのはボウルではない。

 ここからしばらく、このような試行が何回か続く。

 そして、次のものを採用した。

完成した漫画がこちら。

 紆余曲折あったが、面白い試みだった。

 画像生成プロンプトとはまた違う、編集者のような、監督のような、もどかしさと発見の入り混じった体験。
 他にも短編はいくつもあるので、これを機にいろいろと試行錯誤して遊んでみることにしたい。

 Thank you for reading :)

 (使用短編)


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