倉光徹治

モノカキ / 仕事は、書いたりつくったり。 記事「AIと短編小説で対決してみた」 …

倉光徹治

モノカキ / 仕事は、書いたりつくったり。 記事「AIと短編小説で対決してみた」 文字のみの原稿にもかかわらず、多くの人に一読いただいていて、ありがとうございます。

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AIと「短編小説で対決」してみた

 あいかわらずAIで遊んでいる。いや、ここは勉強している、と、公言したい。(仕事もしている。しているよ。)  前回は、自作の短編をAIに漫画化してもらうことを試行した。なかなかに面白かった。「#AIとやってみた」というハッシュタグを発見してよかった。noteに感謝である。  今回は、いま流行のAIに短編小説自体を書かせてみる、ということを試行しようと思ったのだが、せっかくなので『対決』という企画にしてみた。  先攻は自分、後攻がAIである。  まず自分が短編を書く。コ

    • 【短編】わすれもの _Simplicity of the world, Complexity of the life. 092

       冷たい酸素が肺胞を満たす。勾配のきつい坂道の先にレンガ造の正門が見えた。受験生たちが血液の中を流れる赤血球のようにゆっくりと吸い込まれてゆく。一年前に見た光景と変わらない。また、ここへ来た。二月の乾燥した空気の中を白い吐息が遊泳する。三浪、という言葉は、最初は袖を通すのに躊躇があった。だが、今は着慣れたセーターのように私の身体にフィットしている。後悔はない。  「今年も浪人するの?」「何考えてるんだ」「他の大学じゃだめなのか?」「東大とか京大、じゃないんだよね?」「大変だ

      • AIに「自作の短編小説」を「漫画」化させてみた

         2023年の秋ごろから生成AIで遊んでいる。  MidjourneyやFireFlyなどの画像生成系だ。  ChatGPTは22年の暮れに初めて触った。だが、その時(ベータ版だったのか)は反応がまだ微妙で、AIの返答を厨二病キャラに育成して遊ぶ程度の代物だった。  だがAIは、この一年でずいぶん進化した印象がある。MidjourneyV6を触っていて感じる。  画像生成プロンプトという「言葉からのイメージ生成」を、チクチクチクチク遊んでいたのでしばらくChatGPT

        • 【短編】「焔書夜」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 091

           那津美がそのニュースに触れたのは、ある秋の下校時。電車に揺られながらNHKFMラジオの6時のニュースを聞いている時だった。有線ヘッドフォンから彼女の鼓膜を振動させた音声によれば、先週の日曜日に起きたフランスのとある図書館が全焼した事件、その発火元をフランス当局が調査したところ、それが一冊の本によるものだと特定された、という内容だった。発火元はホルヘ・ルイス・ボルヘスによる著作、『El jardín de senderos que se bifurcan (1941)』であっ

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        • notes
          22本
        • 【短編集】short×3
          90本

        記事

          【短編】「モノモライ」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 090

           私が診察室でベルトを緩めパンツをすこし下げシャツをめくり上げると、女医は私の下腹部をしばらく凝視したのち、モノモライですね、と早口で言った。  少し押しますよ。痛かったら痛いと言ってください、と言って女医は直径三、四センチメートルほどの突起を押した。私は別段痛くはなかったので痛いとは言わなかった。女医は何かをカルテに書き込んでいたがその筆跡はジャクソンポロックの贋作にしか見えなかった。  もう何院もの病院を渡り歩いたがこの腫瘍なのかデキモノなのかニキビなのか分からないナ

          【短編】「モノモライ」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 090

          【短編】「夏期講習」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 089

           進学塾で弁当を食べている時だった。柚月はひとり黙々と部分的に冷凍食品の混ざった弁当のおかずを箸でつまみ口に運んでいた。隣の席の和樹と春馬が話している会話が耳に入ってきた。和樹の同級生がゴルフの全国大会で優勝した、という内容だった。小四でジュニアのチャンピオンになったんだって。 「そいつ、小さい頃から知ってるんだけど、5歳からずっとゴルフ漬けなんだぜ。親父がずっと教えててさ」 「すげーじゃん」 「毎日、学校終わったらさ、練習場に直行して夜までゴルフ。土日もずっとゴルフで

          【短編】「夏期講習」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 089

          【短編】「紺碧」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 088

           少年は空を眺めていた。  真っ白な空だった。  朝になると文字通り真っ暗な闇が晴れ、空は白み始め、昼になるともっとも白く輝き、夕になるにつれ白の輝度は落ちはじめ、夜になると空はまた漆黒になる。  それが空だった。  この世界における空だった。  少年がこの大地に生を受けた時から変わらないものだった。  少年は空を眺めていた。砂の大地の上を家畜がゆっくりと移動していた。見渡す限りの地平線の中心で、少年は家畜の世話も忘れ視線を天に向けていた。  あれは夢だったのだ

          【短編】「紺碧」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 088

          【短編】「1-1=」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 087

             算数の授業中、ぼくは定規でノートに線をひいたら、鼻水が止まらなくなった。  熱もあるみたいだ。  ひきざんの授業だった。  3桁の整数を筆算をつかって解く方法を先生が板書していた。  ぼくはあたまはいい方ではないけれど丁寧に数をひとつずつひいていった。  するとそのたびにどこかでドレミファソラシドが鳴る。  ピアノの音だった。6から3をひくとドが。  8から2をひくとラが鳴った。  計算を間違えると耳をつんざく不協和音が鳴った。  授業にまったく集中で

          【短編】「1-1=」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 087

          【短編】「森の中で」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 086

           森の中を歩いていたら熊に出会った。  立てば2メートルはゆうに越えるほどのヒグマだった。  私はとうに死んでいるので恐怖もなく、熊は熊で驚く様子もなくこちらをみている。歳を訊けば一五になるという。よく肉のついた毛並みの美しい雄だった。  言葉を失えば意思疎通はできるものだと知り、熊と白樺の森を歩いた。いたるところに「熊出没、注意」と書かれた看板が立っていた。  熊は、もともと自分たちが住んでいた森なのだが。と言って、それきり口をつぐんだが、言いたいことは伝わった。そ

          【短編】「森の中で」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 086

          北緯45度の身体スケール

           夏の休暇を北海道で過ごしている。  八月十六日、今夜、台風10号が道西の海上で温帯低気圧に変わるようだ。常宿にしている宿の窓外には牧場が広がる。およそ15キロメートル先の丘陵まで浅い盆地が続く。牛の姿は見えない。夕刻あたりから雲が東から西へ真横に高速で移動を始めた。  東京で暮らしていると身体スケールを忘れる。高い価格によって緻密に区切られた土地から垂直に伸びる建造物が密林のように人工自然をつくり、水平方向のスケール感を消失させているからだ。  人間の目は基本的に水平

          北緯45度の身体スケール

          【短編】「料理と絵画」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 085

           うさぎは料理が得意だった。  旬の野菜を新鮮なミルクでつくったチーズと一緒にオーブンで焼くグラタンをリスやキツツキたち、山の仲間に振る舞うと、みな喜んでくれた。  かめは絵を描くのが得意だった。  素早く対象物の輪郭を把握し、正確なデッサンを完成させ、そこから自在にカタチを抽象化し絵の具を丁寧に置いてゆく作業が彼の心を落ち着けた。何度か地域のコンクールに入賞もした。  そんな二人は勝負をしていた。徒競走だ。山の頂上まで一秒でも早く着いた方が勝ちだった。  勝負には

          【短編】「料理と絵画」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 085

          【短編】「赤信号」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 084

           都心のオフィスビルで打ち合わせを終えた私は地下駐車場に停めた自分の車のエンジンをかけた。駐車場のゲートで二千四百円を払うとゲートは槍を掲げた老練な兵隊長のように機敏にバーを跳ね上げた。  地下駐車場から通りに出て右折をすると交差点に差し掛かった。私はカーナビゲーションに誘導されるままに左折し、国道に出た。大きな通りは帰宅する車や運送車で溢れかえっていた。しばらく走ると、信号機が黄色になった。私は黄色になると停止線で車を止めた。急いで黄色で交差点を渡るのは性に合わなかった。

          【短編】「赤信号」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 084

          黒しか着ない

          黒い服しか着ないですよね、と、言われた。 仕事(映像の撮影)の合間に、昼食をとっている時だった。 僕は、ええ、そうですね。と答えた。 相手は若手のアートディレクターだった。 その人は、青い服しか着ない人だった。 そのあと、ひとしきり、一色しか着ないことの数々の利点と難点を簡素な会議用テーブルに広げ、我々は一通り検証し、満足し、仕事に戻った。 その夜、共通の仕事関係の知り合いによる結婚パテーィーが行われ、僕も彼も参加した。 僕は黒いスーツで会場の扉を開けると、遠くに青いスー

          黒しか着ない

          過去から未来を夢想する

           伝わるかどうか分からないが書いてみる。  過去を思い出す。床につき眠りに落ちる前が良い。できるだけ古い記憶を遡る。だいたい子供の頃だ。今から何十年も前のこと。エピソードを思い出す必要はない。空間を思い出す。自分の部屋や、家族といたリビング、学校の教室や、よく遊んだ公園でもいい。その場にいることを思い出す。自分の部屋であるならば、どんなポスターが飾ってあったか、とか、本棚にはどんな本が並んでいて、棚にはどんなモノがおいてあったか。ベッドカバーの模様や電気スタンドのデザイン。机

          過去から未来を夢想する

          【短編】「象の話」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 083

           6歳の息子が、パパ、あしたがっこうに行きたくない、と言った。  日曜日の夕方、二人で市営のスイミングプールから帰る車中だった。助手席で視線を泳がせ、珍しく蚊の泣くようなしゃがれ声で彼は告白した。  「どうして?」  私は目線を道路の先からずらすことなく、努めて平静に聞いた。  「授業中、トイレに行きたいって言えなくて、おもらししちゃったの」  いつ?と聞くと、きんようび、とわずかな唇の隙間から声が漏れた。私は妻からその話は聞いていなかった。おそらく、パパには言わな

          【短編】「象の話」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 083

          天井の猫

           子供の頃、両親が共働きだったので、祖父の家に預けられていた。  生まれてから3歳までの短い間だったが、その家での出来事が原体験になっている。  祖父の経営する小さな木造アパートの二階に両親は部屋を借りていた。日中は仕事に出ていて、夜に帰ってくると幼い私を交えて、祖父と祖母、その家に暮らす母方の叔母三人と両親を加え、八人で夕食を食べた。就寝時間になると両親はアパートへ帰り、私は二番目の叔母の布団で寝ていた。毎週木曜日の九時から放送されるクイズ番組を見ながらまどろんで寝るの

          天井の猫