放課後城探部 拾弐の城

「さぐみん?さ~ぐみ~ん?」

なんだか夢で訪ちゃんが私を呼んでいるような気がする。

私は訪ちゃんの呼び声に誘われるかのように目を覚ました。

そして気づくとそこは1年2組の教室で私は自分の席に座って、入部届は私の手にギュッと握られていて皺くちゃになっていた。

目の前では訪ちゃんが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「どうしたの?訪ちゃん?」

私は何が起きているのか分からなくて訪ちゃんの顔をキョトンと見つめた。

「どうしたもこうしたもないで、入部届を貰いにあゆみ姉のところに行ったと思ったら、帰ってきたときには目に光がない糸の切れた人形のようになって、なんとか席に座ったと思ったら、そのままパッタリと動かんかったやないか。」

訪ちゃんは本当に心配そうに顔を覗き込んで私のオデコに手を当てて熱を測ってくれた。

「熱とかはなさそうやけどなぁ、ホンマに救急車呼ぶかどうか迷ってスマホ取り出してたわ。」

私が思うよりも真剣な声で言うものだから恐らく真実だったのだと思う。

「あゆみ姉となんかあったんか?その割には入部届はちゃんと貰ってきたみたいやけど・・・」

訪ねちゃんは腕を組んで眉をひそめて憂いてくれたが、私には何故かあまり記憶が曖昧でどうしてそうなってしまったのか心の奥に霧がかかったような感覚に陥ったがあまり触れない方がいいと脳が警鐘を鳴らしているようで私は特に心の奥の霧を詮索しようともせずに

「そうなんだ、私もよく分からないんだけど虎口先輩が入部届を予め用意していてくれたみたいですぐに貰えたんだ。」

訪ちゃんに心配かけまいと笑みと作って、手の平の中でギュッと握って皺くちゃになってしまった入部届を机の上で開いた。

私の笑みが余計に訪ちゃんを心配させたのか余計に眉間に皺を寄せて

「もしかして千穂ちゃんに変な悪戯されたとかちゃうやろな?」

と心配してくれた。

「千穂ちゃん先輩・・・」

うっ頭が・・・

私は一瞬記憶の断片を覗いたように見えたがこれ以上は探ってはいけないと脳がより強い警鐘を鳴らしているため探っては危険だと判断して

「なっ何もないから・・・」

と辛うじて訪ちゃんに伝える。

「千穂ちゃんはホンマに悪戯好きの小悪魔やからな・・・今度さぐみんにちょっかい出すなって言うとこ・・・」

訪ちゃんがそう言った所でチャイムが鳴って私達は授業の準備に入った。

私、どうして虎口先輩に入部届を貰ったのを記憶してるのにほとんど記憶が曖昧なんだろ・・・


放課後になって私は訪ちゃんを伴って天護先生に入部の挨拶をしに職員室の扉をノックしていた。

「天護先生はいますでしょうか?」

扉から半身だけ乗り出して近くの先生に声をかけると

「天護先生、1年の生徒が呼んでるわよ。」

と声をかけてくれた。

職員室には各々の先生のシステムデスクが向かい合わせに6組1島に並べられていて、1列3島を2列に並べられていた。

2列目の奥の島の窓際の席から出てきた女性の先生が私達を迎えてくれて

「城下さん、堀江さん、こちらへどうぞ。」

先生は私達を招いてくれた。

訪ちゃんも流石に職員室は緊張するようで、悪いことをしたわけではないのにちょっと神妙な面持ちだった。

「虎口さんが言ってた新入部員が城下さんね。入部届は確かに預かりました。」

入部届が何故かクシャクシャなのかは問わずにファイルに締まってくれた。

「お城の勉強は歴史の勉強に繋がるから日本史の教師としてはとてもありがたいけど、事前に聞いていたとはいえ、まさか城下さんが入部するとは思わなかったわ。」

天護先生は1年の日本史も見てくれているから私が歴史の授業中にポケーっと話を聞いているのは分かっているのだろう。

私が歴史が苦手だとやっぱり思っていたのだ。

「虎口さんは説明も上手だし、歴史にもかなり詳しいからたっぷり教えてもらいなさいな。城探部はそう遠くはないけど日曜日も朝早くに大阪府外のお城に行ったりするから同好会とは言え、ちゃんとした部活動があるという事は頭に入れておいてね。」

天護先生はそう丁寧に説明したあと周囲を憚って小さな声で

「本来同好会には部費は当てられないんだけど、城探部は歴史の課外授業の一貫ということで校長先生が割と寛大な対応をしてくれてて、地方のお城に行く時は交通費は出るから安心してね。」

と人差し指を口に当てて周囲の先生に聞かれないようにそう言った。

うちの学校の校長は教育熱心だって言うのは聞いていたけど、学問に繋がることなら同好会にも些少とは言え費用を出してくれるなんてなんてありがたいんだと少し安心して頭を下げた。

「はい、ありがとうございます。」

すると訪ちゃんは

「ほんまは仏の校長先生が私らの勉強のためにって言うことで、交通費よりも少し多めに出てるらしいけど交通費以外は先生のカフェ代に消えてるんやで。」

と耳元で教えてくれた。

その瞬間物凄い闇色の殺気が先生の体から空気中に広がって私は身の毛もよだつその雰囲気に私と訪ちゃんはただただ震えるしか出来なかった。

「訪・・・あんた私がたかが同好会にどれだけ便宜を図ってもらってるかこっちの苦労も知らずに・・・普通は同好会に部費なんてないんだよ!」

と凄んで訪ちゃんはガタガタと涙目で震えていた。

「あー、糖分が足りないわ・・・」

天護先生は素早くフリスケの桃味を口の中に3つ含むと

「今日の部活なんだけど、私も天守に後で行くから一緒に勉強しましょうね。」

と一瞬で闇の人格は消え去っていつもの知性的な優しい先生に戻っていた。

「このおばはんはホンマにバケモンやわ・・・」

訪ちゃんは小さく呟いた。

私も小さく同意した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?